今日が「幽靈の日」と知ってにはかに東京都港區三田の「幽靈坂」を訊ねたくなり、そのためだけに出かける。
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坂下の角には荻生徂徠の墓がある忍願寺があるなど、坂の両側には小さな寺院が續き、
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江戸の昔にはいかにも“出さうな”雰囲気から、その呼び名が付ひたのも頷ける。
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一方で、明治時代の政治家で初代の文部大臣にもなった森有禮(もり ありのり)の邸がそばにあったことから、有禮を“ゆうれい”と音讀みしてそれを坂の呼び名に當てた云々。
──この場合、前者を採るべきだらう。
どちらにせよ、昔では見られなかった景色を寺越しに見て、
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坂をあとにせり。
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昔つひでに今は大昔、福岡縣の博多座で上演された小倉藩のお家騒動──小笠原騒動──を脚色した芝居に出演した記憶あり。
怪譚も織り込まれた娯楽性豊かな作品だったが、ご當地九州の芝居とあって何か“強い力”が働ひたものか、初日前に出演者全員で御祓ひをしたにもかかはらず、本番中に主演役者が大道具の水車から転落したり、舞台上に置かれた小道具の刀がいきなり子役に向かって跳ね飛ぶなど、明らかな怪異が相次ひだため、再び神職を呼んで全員で御祓ひをする始末だった。
その後は怪異もいくらか収まり、なんとか千穐樂を迎へるとその日のうちに大阪へ帰った私自身も、興行中には怪異を経験した。
宿泊先のホテルで就寝中、備品に唇をぶつけて内出血をおこし──こんなことは後にも先にもこの時だけだ──、またあるとき深夜にふと目が覺めると、真っ暗な部屋になにか白いものがぼんやりと浮かんでゐるのを、確かに見た。
幽靈みたいな人間(ヤツ)ならば男女問はず通年出くはしてゐるが、あの夜に見たものだけはホンモノだったと、私はいまでも信じてゐる……。