迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

まつとしきかば。

2012-04-22 07:30:32 | 浮世見聞記
“あら、待ったのよ”

その人はわたしの顔を見るなり、口を尖らせた。

わたしは何と返事をするべきか、戸惑った。


“どうせ、他にオンナでも出来たんでしょう”

わたしは、それはないさ、と、それだけはすぐに答えた。

そうしなければならない予感がしたから。


“ま、いいわ。そういうことにしておいてあげる”

そして、

“さあ、行きましょ”

と、わたしの手を取ろうとした。


しかし、その人にわたしの手を取ることはできない。

それは叶わない。


もう叶わないのだ。


その人は、どうやら知らないらしい。


わたしは、打ち明けなくてはならない、と覚悟した。






なぜなら。
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