迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

天照登極。

2023-01-07 21:35:00 | 浮世見聞記


早朝の北天に名残りの月を見て、今日も頑張って生きるべき一日が始まるのだと知る。


三十四年前の今日、昭和天皇が崩御云々。



昭和六十四年は七日までにて、翌日より「平成」と改元云々。

まだ小學生だった三十四年前のこの日のことは、いまも憶えてゐる。

その日は雪でも降りさうな曇天で、冬休みを利用して鐵道冩真を撮りに行かうとしてゐる時、ラジオで崩御が報じられたのだ。

その瞬間、悲愴なBGMが耳朶を打ったことも記憶してゐるが、いまにして思へばその放送局は、あらかじめさういふ音樂(おと)を用意してゐたわけで、さうした手回しの良さはこの際いかがなものか、といまさらながら疑問が沸かぬでもない。


昭和天皇と云ふと、戰中戰後の“テンノウ ヒロヒト”を「一人の人間」として描いた、露人映画監督アレクサンドル・ソクーロフの「太陽」が印象深い。



劇中で昭和天皇を演じたイッセー尾形にとても魅せられて、上映館だった現在は無い銀座シネパトスへ日参したものだ。

軍人たちに「軍神」などと祀り上げられた前半生、自分も「人」であると告白して日本國民の象徴へと祀り上げられた後半生──

扱ひは変はれど宿命は変はらぬ。

映画は昭和天皇を好意的に描いてゐて、それが日本で高評価を得た一因であるが、ラストシーンはそんなミカドの立場を皮肉ったやうにも觀て取ることが出来、それは日を照らせば必ずどこかに蔭が出来る道理にもつながる。



萬民に落差があることで、浮世は平衡が保たれてゐるのだ。












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