やうやく都内の文化施設が再開したので、ずっと氣になってゐた港区虎ノ門にある大倉集古館の企画展「彩られた紙─料紙装飾の世界─」を、観に出かける。
書に用ゐる、いはゆる“料紙”の材質を主題とした内容で、紙が白く映えるやう胡粉を混ぜて漉く歴史があったことを今回初めて知る。
しかし、それ以上の専門的な話しになると私のアタマでは理解の枠を越えてしまふため、奈良時代から江戸時代、それぞれの時代の紙に揮はれた文字や模様を、目に映るまま樂しんで巡る。
庶民の街道土産だった大津繪の粗味がやがて雅味とされ、掛け軸に表装されてゐるのは大津繪ほんらいの魅力を損なってゐて「なんか違ふよなぁ……」と首を傾げたあと、冷泉為親の優雅な復古大和繪二幅にしばし時を忘れ──
しかし私がもっとも興味を惹ひたのは、奈良時代から鎌倉時代にかけての様々な土地問題に絡んだ書状を集めた、一隻の貼交(はりまぜ)屏風。
その一枚一枚にしたためられた墨文字からは、筆者の死活を懸けた生々しい聲が聞こえてくるやうで、私はしばらく足を留めて、それぞれの言ひ分に心を澄ます。