迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

十年往来。

2018-10-12 22:47:22 | 浮世見聞記
十年にわたった術後検査を全て克服し、やっと通院を“卒業”した──

その親族の話しを聞ひて、私は十年といふ時間の長さを、しみじみ思った。


十年前、私は自分の求めるものはここには無いことを見極め、その組織と訣別した。

そして現在、自ら立ち上げた「現代手猿楽」を、人前で舞ふことが叶へられた。

その間、十年。

いろいろなことをやって来たからこそだらうか、「長かったなぁ……」と思ふのである。


その親族にとっては、再発の心配を抱へながらの十年であったらう。


十年前、私は毎日のやうに、その親族を病院へ訪ねた。

大部屋の病室には、それぞれの病ひと闘ふ人々の姿があった。

そこには、綺麗事ではない厳しい現実が展開されてゐた。

私はこのとき、いまなお難病を感動物語に仕立てたがるマスメディアの欺瞞を、はっきりと認識した。


あれから、十年。


そしてこれからの、十年。


浮世には何も期待していない。


ただ、おのれの手猿楽が無病息災をもって続けられることを、心から願ふのみである。
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