ラジオ放送の金剛流「夕顔」を聴く。
貴人の男と女が、互ひに正体を隠したまま逢瀬を重ねるうち、“なにがしの院”で女ひとりが散る怪しき悲戀噺。
源氏物語「夕顔」の巻と和歌の素養がなければ味はひの半減する曲のやうで、だとすれば私などはまさに味はひ不知のクチだが、それでも樂しく聴けたのは、低くよく響く、そして歯切れよい謠のチカラゆゑだ。
わからないことを無理にわからうとして却って嫌ひになるより、そこから他にどんな樂しみを見つけられるか──
物事の視野はそこから擴がり、そして、退屈しのぎと云ふ最強の武器となる。