山口県周防大島の瀬戸みゆうさんからお贈りいただきました。
60頁の個人誌。
筆者の瀬戸さんからは以前にも小説集『周防大島の青い海』(編集工房ノア刊)をお贈りいただき読ませて頂きましたが、優れた小説集でした。
今号は4編が載ってます。
小説の評なんてわたしにはできませんので、感想。いや、雑感ということで。
「明け方の満月」
老女のわたしが、明け方の満月を見て、昔に犯していた過ちに気づいてしまう話。
明け方に満月は出ないと信じていたのだが、それが間違いだったと今ごろ気づき、8年ほど前に通っていた創作教室でのことを思い出す。
ある若者の作品「明け方の満月」はその彼の絶望的な体験の話。
彼、芳川透は身体不自由者であり、性格的にも難しいところのある青年。
その作品の最後に明け方の満月が描かれていた。
教室で感想を述べることになったのだが、「明け方に満月はありえません」と言ってしまった。それに対して作者の彼は何も反論しなかった。
そのことを今頃になって苦く思い出し「よっちゃん……ごめんね」と謝る。
だれにもありがちのこと。その苦い気もちに共感します。
「わたしの未来の家」
48年ぶりに故郷に帰り実家で暮らす。そこでの思い出。
これも昔の自分の嘘を苦く思い出す話。
なぜか年行くと、昔の苦い思い出が蘇ることが増えますねえ。なのでこれも共感します
「閉じ籠る」
同い年で、一番の友達であると思っていた夏代からある日、「一年ほど家に閉じ籠ろうと思います…」というメールがあって後、連絡が途絶える。
一年半たって連絡を取り戻そうとして、やっと電話がつながったが、彼女は死んだことになっていた。
ところがこれは嘘。そして、
「ありがとう。……たぶん、今晩の阪神巨人戦を見るのが、この世での最後かなと思うの(略)死ぬ方法なんか、訊かないでね」
夏代は二度、亡くなることになる。《だが、……。本当にご亭主と息子さんは現実に存在していたのだろうか。すべては、夏代の企てた、書きかけのミステリー作品の一部ではないだろうか。》
というのが結末。
そんな馬鹿なと思いながらも、ありそうな話に思えてしまう。これは作者の筆力によるものでしょう。小説を書く人に必要な力。
「トンネルの向こう」
最も長い作品。
現実と幻想が混じり合っているような不思議な作品。
一人で夜道を車で運転するのが怖くなるような。
たしかに、田舎の山中を夜遅く一人で運転したことがあるが、ルームミラーには漆黒があるだけなので気味悪い思いをしたことがある。
これも、さもありなんという話。小説を読む楽しさですね。
瀬戸みゆうさん、ありがとうございました。暑い中で少し涼しさを味わいました。