昔読んだ詩集を出してきて読んでいる。
『若葉のうた』(金子光晴著)。
社会的な詩で有名だったが、こんな詩集も出していた。
孫娘をうたった詩である。
昔に読んだ時とは、受ける気持ちが大きく変わったように思う。
こんなに味わい深い詩だったのかと。
この詩集を味わうにはある程度の年齢が必要なのでしょうね。
金子の代表作にはこんなのがある。
「洗面器」
( 僕は長いあひだ、洗面器といふうつはは、僕たちが顔や手を洗ふのに湯、水を入れるものとばかり思つてゐた。ところが爪硅(ジャワ)人たちはそれに羊(カンピン) や魚(イカン)や、鶏や果実などを煮込んだカレー汁をなみなみとたたえて、花咲く合歓木の木陰でお客を待ってゐるし、その同じ洗面器にまたがって広東の女たちは、嫖客の目の前で不浄をきよめ しゃぼりしゃぼりとさびしい音をたてて尿をする。 )
洗面器のなかの
さびしい音よ。
くれてゆく岬(タンジョン) の
雨の碇泊(とまり)。
ゆれて、
傾いて、
疲れたこころに
いつまでもはなれぬひびきよ。
人の生のつづくかぎり
耳よ。おぬしは聴くべし。
洗面器のなかの
音のさびしさを。
( 『女たちへのエレジー』 から)
凡そ、孫かわいやの詩を書く人には思えない。