喫茶 輪

コーヒーカップの耳

幸田文さん

2012-11-19 11:38:04 | 本・雑誌

必要があって今、幸田文さんのものを読んでいるが、上手いですねえ。
父、露伴の死の床での誕生日を祝う魚のことである。終戦直後、なにもない時代だ。

 つくづく見るそのちいさい魚。生きは極上だった。えも云われぬ美しい整っ

たすがたをしている。鰭の薄い膜は人体のどこにもない美しさ。穏やかな眼つ

き。一枚も損じていない鱗。魚のからだ中の表情がすなおだった。魚屋の盤台に

並ぶ魚にだって表情はいろいろある。潮を離れるとき絶叫したことをおもわせる

のもあるし、ふわふわっとあがって来てしまったというのも、さんざ駆引きをし

てくたびれきったのもある。眼に血をさしたむごい形相のさえもいる。これは親

魚に云いつけられると何の疑うところもなく忽ち、はいと云ってまっすぐうちへ

やって来た魚だ。あわれに美しく、あまりに可憐な魚だった。秋の快気祝いに

は、これの親兄弟一族がずらっとやって来るつもりだろう。この幼い魚をおとう


さんにおあげしよう。 

文章になんともいえない味があります。哀しみとぬくもり。そしてかすかなユーモア。頑固で昔堅気のお父様に大きな鯛を準備できなかった残念さ。そして愛情。
いいなあ、幸田文さん。
追記(2017年11月4日) 幸田文さんについては拙著『触媒のうた』に宮崎翁とのエピソードを書きました。
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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
うーん 何ともいえないですね。 (Unknown)
2012-11-20 09:57:29
うーん 何ともいえないですね。
観察力、洞察力表現力が半端ではありませんね。
何度くり返して読んでも心に喰い込んで来ます。
返信する
個性的ないい文章ですねえ。以前からいいとは聞い... (akaru)
2012-11-20 12:14:21
個性的ないい文章ですねえ。以前からいいとは聞いてたのですが、読むのは初めてでした。
返信する

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