◇ロング、ロングバケーション(2017年 イタリア 117分)
原題/The Leisure Seeker
監督/パオロ・ビルツィ 音楽/カルロ・ヴィルズィ
出演/ヘレン・ミレン ドナルド・サザーランド ダナ・アイビ クリスチャン・マッケイ
◇キー・ウエストをめざして
癌に蝕まれて余命いくばくもない妻と、認知症になってしまった元大学教授の夫が、人生の最期を愛するヘミングウェイの暮らしたキー・ウエストをめざしてキャンピングカーを走らせていくっていう、いかにもありそうでなさそうな話なんだが、まあ、それはそれでいい。
主役のふたりは今更いうまでもなく芸達者で、癖はあるけれども味もある役者だから、まあこれもまた安心して観ていられるんだけど、でも、なんだね、イタリア映画だからってわけじゃないけど、人間ってのは最期のその瞬間までセックスを切り離しては考えられないのかしらね。
キャンピングカーで旅立ったときから車内の異臭について伏線が張られてるんだけど、実はこれには僕は気がつかなかった。認知症になってしまった夫の下の問題か、あるいはそれを未然に防ぐための薬品の類いが異臭を放ってるんだろうなっておもってた。でもちがうんだね。なるほど、心中っていう選択もあるな。
それもまた現実味にある話なんだけれども、最後の夜、夫は勃起するんだな、ちゃんと。
で、するわけだけれども、中にちゃんと入ってるかどうかを訊き、妻もまた入ってると応えるのはいったいどういう心理状態なんだろうね。これは別に夫婦でなくてもいいし、愛人同士でも、恋人同士でもかまわない。人生のある時期を共に過ごしてきた仲で、しかも最後のパートナーであった関係ならばこういう最期を迎えられるのかもしれない。
夫の浮気をここにいたって知るっていうのもまた皮肉で、なにより皮肉なのが認知症になってしまったがために語るに落ちるということで、なんともこれも人生ってことなんだろうね。