◇ナチュラルウーマン(2017年 チリ 104分)
原題/Una mujer fantástica
監督/セバスティアン・レリオ
出演/ダニエラ・ベガ フランシスコ・レジェス ルイス・ニェッコ アントニア・セヘルス
◇他人事ではないかな
LGBTだからどうこうという問題ではなく、愛人と同衾していて循環器系や呼吸器系の発作に見舞われることはままあるんだろう。そうでなくても、非日常の場でおもいもよらない発作に見舞われることもまた、ある一定の年齢になってくれば当然の不安としてある。そうしたとき、発作だけで済めばいいし、まんがいち、命に係わるような事態になることがないとはいえない。この映画はそういう実にありがちな冒頭から始まる。
で、妻子ある男が、独身の歌手をめざしている男とつきあっているときにそういう窮地に陥ってしまったために、まあいろいろと不都合が重なっていき、最愛の相手との別れをいかにしてしていくのかというわけだけれども、これって、なにもゲイうんぬんの話でもないよねって、観ながらおもってた。
まあ、それはさておき、ふたつばかり、あれれ?とおもうことがある。
ひとつは、ダニエラ・ベガの演じているオペラ歌手を希望している独身カフェ・バイトの設定なんだけど、最初は酒場でポップを歌っている歌手として登場してくる。で、次がバイトの店員だ。あ、そうか、歌手だけじゃ食べていけないからバイトしているのかとわかるんだけど、ラストになってなにもかも振り切ったと宣言して、生まれ変わったというのはわかるものの、いきなり舞台で「ラルゴ」を歌えるようになってる。
ちょっと説明が足りなくない?っておもったんだけど、そうでもないのかな。
もうひとつは、最初から途中までの伏線になってる「イグアスの滝」なんだけど、イグアスの滝に行きたいといっていた独身男に妻子持ちの男は切符を手配してあるんだけど、どうやらそのあたりから血圧か脳かわからないものの具合が良くないのかどこかに置き忘れてしまったみたいだってことから「イグアスの滝に行ける券」を渡す。
これは明らかな前振りで、だからこそ、独身男は謎の鍵がサウナの鍵だとしてサウナに忍び込み、相手が券を忘れたかもしれないサウナのロッカーを開けるわけで、そこで切符がないっていう絶望がそのままそこで終わっちゃって、それでようやく自分との縁はもう切れたんだなとほんとの別れを実感するんだけど、でもさ、やっぱり切符はどこへ行っちゃったの?っていう小さなわだかまりは残っちゃうんだよね。
ひっぱりにひっぱってきたイグアスの滝がどこかに行っちゃうのはなんだかなって。