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日本暗殺秘録

2024年11月01日 18時49分05秒 | 邦画1961~1970年

 ◎日本暗殺秘録(1969)

 

 製作はもちろん大川博なんだけど、製作補に俊藤浩滋のタイトルになってる。まあ、藤純子がヒロインだしね。

 企画は天尾完次ひとり。すげえ。

 のっけから黛敏郎の打楽器と男性コーラスにしてやられる。かっこええ。

 有村次左衛門を演じた若山富三郎、ワンシーンのみの出演。

「もう行けもはん」

 って台詞だけで、井伊直弼を刺し殺し、首を下げて歩き出し、刺されて倒れ、割腹する。

 それだけで、そこにナレーションが被さる。明治天皇が激怒のあまり下したという詔勅で、

『そもそも維新より以来大臣の害に罹るもの三人におよべり。これ朕が不逮にして朝憲の立たず綱紀の粛ならざるの致すところ。朕甚だこれを憾む』

 ただしこれはプロローグで、つづく大久保利通と大隈重信の暗殺行もおなじように序章あつかいだ。趣向を変えているのは星亨の暗殺でワンカットの主観撮影だから暗殺者の顔は映らない。でもこの処理をしないと、そのあとの安田善次郎の暗殺が埋もれてしまう。せっかく神州義団団長の朝日平吾こと菅原文太が正座からいきなり座卓に飛び上がって斬りつけるという誰もやったことのない刺殺行をワンカットで見せる凄技を披露してくれたんだからもったいない。

『きみたちは、結局は、自分の人生の上に、自分の血で美しい詩を書いてみたいだけなんだ』

 ギロチン社の高橋長英演じる吉田大次郎に向けられた五十嵐義弘演じる小川義夫の台詞だが、なるほど、これが主題か。つぎの本章、千葉真一演じる小沼正の裁判にかぶせるナレーションよりも説得力があるなあ。

 それにしても黛敏郎のちからづよいこと。千葉真一のカステラ職人の修行にかぶさる曲の短く単調ながらも階段を上っていく強さがある。千葉真一の鬼気迫る演技がそれとオーバーラップしてて、恋人が死んだとき、入水しようとしても果たせず波打ち際に打上げられたとき、おもわず目に入った旭日に向かって合掌し、題目を一心不乱に唱えるときの音楽もまた男性コーラスと打楽器で迫力がある。このお題目の伏線は片岡千恵蔵演じる井上日召の凄まじい眼力の「お題目を唱えるのなら本気で唱えなさい」という言葉だ。

 背景になっているのは、ロンドン軍縮条約が調印された昭和五年四月。この年、と字幕が始まり、こうつづく。

『全国の失業者三十一万人、スト件数九百八十四件、小作争議件数三千四百十九件』

 田宮二郎演じる藤井斉は大洗の海岸で千葉真一の『とうしたら和尚のいう正義が日本に生まれるんですか』という問いかけに答える。

「革命だよ。財閥、重臣、金によって動く既成政党を倒し、国家を改造するんだ。小沼くん、水戸は桜田門の烈士を生んだ土地だ。もし、やるときがきたら、おれか、きみか、どっちかがトップを切ろうじゃないか」

 ここに主題が通じてくる。そのあとの会話の中で「国民大衆はエログロナンセンスだ」と軽蔑していうところがある。東映のジレンマなのかもしれないね。田宮二郎の「革命には現状打破が必要なんだ。まず破壊なんだ」と主張したとき、片岡千恵蔵のバックで踊る盆踊りの囃子と歌声が大きく響き始める。黛敏郎の音楽はない。常道なんだけど、これでいい。

 千葉真一がワカメを売りに上京した場面たけど、どこから観ても京都で、しかも京極東宝の裏にある裏寺町通だ。そして、誓願寺の墓場。

 十月事件のくだりは数分後の場面のスチール処理。片岡千恵蔵や田宮二郎まで繰り出してセットで撮影してるのを編集して前に持ってきたんだね。

 満洲事変、上海事変ときて血盟団事件の小沼正は井上準之助を暗殺。あとはエピローグなんだけど、いやいや相澤三郎を高倉健が演じてる。ワンシーンだけなんだけど、ここを白黒でやるべきだったね。

 最後の二・二六事件が白黒にして、銃殺のときだけカラーにしてるのは意味がわからない。鶴田浩二、里見浩太朗、川谷拓三(大部屋のため台詞なし)が出てるし、かなりの尺があるんたから、健さんのところを白黒にした方がわかりやすかったろうに。

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