◎帝銀事件 死刑囚(1964)
大学の時に初見したんだけど、そのときの印象とさほど変わらない。
山本陽子が生き残りの女性事務員の役で、かわいすぎる。笹森礼子と出てくるんだけど、もちろん、ふたりとも綺麗なんだけどさ。
ま、それはさておき、熊井啓はこれが初監督作品だそうな。ちからがあるなあ。
事件で使用された劇薬はアセト・シアン・ヒドリンといい、これは陸軍の特殊研究所で取り扱われていたらしい。神奈川県川崎市稲田登戸の陸軍第九研究所、通称登戸研究所で、もちろん、一般人はこの存在はまず知らない。従って、すくなくとも画家の平沢貞道には、この劇薬を入手する手だてがない。ここに関係していた傷痍軍人の少佐を演じた佐野浅夫が上手に填まってる。見事なもんで、731部隊の生き残りっていう設定なんだけど、性根の据わった感じがあって好い。佐野は叫ぶ。
「戦争責任は敗戦国だけのものか?原爆だって、国際法上、違反ではないのか?」
昭和日報の料亭での会議で、草薙幸二郎はいう。
「犯人が帝銀で言ってたスペンサー中尉が実際におりました。それから安田荏原支店のバーカー中尉も防疫の関係者です。共犯はこの辺からかならず出てくるとおもって追ったんですが、なにしろ相手は占領軍です。どうにも入っていけないんですよ」
デスク役の鈴木瑞穂はいう。
「われわれにいま必要なのは、想像や推理なんかじゃない。はっきりした客観的事実だ。もし、米軍に共犯者がおれば、そんなものの処分は米軍に任せておけばいい。だが、帝銀に現れた犯人はまちがいなく日本人だ。われわれがこの事件を追及する大きな意味は、日本人がおなじ日本人になぜあんな残酷な真似をしたのかということじゃないのか?」
そのとおりだ。
「弁護団が言ってたね。ジャーナリズムが毎日、クロと書き立てる。すると、大衆は批評もせずにそれを鵜呑みにしてしまう。戦争中とまるきり同じだ。その世論の大きな暗示が鑑定人に大きく作用している。裁判官にもその影響がなかったとはいえない」
戦後の混乱期に限ったことじゃないな。