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戒厳令

2024年11月08日 01時27分04秒 | 邦画1971~1980年

 ◇戒厳令(1973)

 

  のっけから一柳慧の現代的な電子音楽、また広角的な奥行きを見せたコントラストの強い画面。蝉の声の降り注ぐ中で、十かぞえて下駄を脱いで短刀を引き抜いた朝日平吾(辻󠄀萬長)が安田善次郎の暗殺に走る。

 画面の端に人物を置いて空虚な空間を見せる、なんとも不安定な構図がつづく。ひと目でそれとわかる吉田山の東面の長屋住宅。ここでも不安をかきたてる画面は変わらない。

 三國連太郎演じる北一輝は、墓場の中でいう。

『戒厳令の下ではどんな小さな行いもまちがいですらも厳粛さの内に取り込まれる。戒厳令が場所を得てすべての無秩序の中から秩序を見出しつつあるからだ。戒厳令は人々に秩序を与えるのではない。ただ人々の無秩序の中にある秩序を見出すのだ。やがて人々も気づくだろう。自分たちの内にある秩序について。(略)もしかしたら人々はそこに陛下を見るかもしれない。陛下がそこにおられてもいいということに気づくかもしれない。そしてもしかしたら人々はそこに感動することもできるだろう。そのとき人々はすべてを許すことができるからだ。いいかね、われわれの革命はそんなふうにして成就する』

 わかるよーなわからんよーな台詞だ。

 軍人勅諭を唱える兵(三宅康夫)はいう。

『陛下はいまたいへんお苦しみになっておられる。だからわたしはいまこそお国のために一命をあげてご奉公しなければならないと考えている』

 実にわかりやすい。

 ま、理屈をこねくりまわすより、一途な人間の言葉の方がすうっと入ってきちゃうね。吉田喜重や別役実はそんなことをおもってなかったかもしれないけど。

 ただ、この作品はまんなかまで緊迫感があるんだけど、五一五事件のあたりからがくっと緊張が切れる。なんでかなあ。

 で、叛乱が起きたのだが、憲兵隊の下士官(飯沼慧)は、上(内藤武敏)に訊ねる。

『われわれはなにをすればよいのです』

『まあ当面はじっとしていることさ。陛下のご意思がはっきりとするまではな』

『陛下はどうお考えになるとおもいます』

『う〜ん、もしかしたら陛下はなにもお考えになっておられないのかもしれない。そんなことを考えてみたことはないかね。考えているのは向こう側とこっち側で、陛下はただ黙ってそこにおられるだけなのかもしれない』

 吉田喜重と別役実の言葉に聞こえる。

 

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