二・二六事件 脱出
冒頭、秘書官の三國連太郎が帰ってくると応接間にふたり、よく似た男がいる。首相ともうひとり。応援演説に立った代議士。これで、あ〜このふたりが入れ代わるのかと察しはつくんだけど、複雑なあらすじな分、これは良い伏線だ。庭を眺めて赤坂までの地下道は使えるのかと尋ねる伏線もわかりやすい。中原ひとみと久保菜穂子がふりはじめた雪を眺める静けさのあと官邸襲撃が始まる静と動の展開もいい。
高岩肇、親切で上手い脚本だ。
ただまあ、斬られたり撃たれたりしたときの断末魔はあいかわらずの東映調で、音楽もそうだが、ちょいといただけない。
特高部曹長の高倉健の登場はやや遅いけど、長いプロローグは二・二六事件の官邸襲撃の前に持ってくるのもなんだか役者中心になって野暮だから、これでいい。この脚本はじつにうまくて、健さんが出勤したところへ官邸斜め前の官舎から電話、これが三國連太郎で、総理の死命の確認に来いと。健さんは道路が封鎖されてるからむりだと無碍に断る。伏線の連続だね。
三國連太郎が総理の代わりに代議士が死んだと知るのはそれからで、この時間差もいい。
部下が見た枕元の人影を幽霊だと一笑した織本順吉がいい。ただひとり疑いをもって女中部屋まで探しにくるあたり、けっこうどきどきするわ。
さらに千葉真一がいい。班長どのの健さんの部下なんだが、ひとり、襲撃時に潜り込んで押入れの総理を確認したただひとりの若造憲兵なんだが、血気盛んな純粋さがいい。
撮影がんばってる。雪の総理官邸のオープンだけじゃなくて、模造戦車の隊列の横をゆく歩兵部隊もだが、憲兵隊司令部の切り返しはスクリーン・プロセスだ。健さんと千葉真一の後ろを戦車部隊がゆく。三宅坂の横の堀はたぶん書き割りに合成、凄い。
音楽。ラスト曲はええね。