◇第五福竜丸(1959)
今見ると、なんか身が入らない。まあ、新藤兼人の特徴のひとつなんだろうけど、やっぱりどことなく明るい。宇野重吉のとぼけた風味がそう感じさせるのかもしれない。いや、本人はいたって大真面目に演技してるかも。ま、そんなことはいいんだけど、ピカドンを見たときの船員たちの、最初の、見世物を見るような反応がやけにリアルだ。特撮が当時としては妙に上手で、これは『ゴジラ』なんかもおなじことを感じる。
徐々に被曝状況がわかってくるのとともに、宇野重吉とその妻の乙羽信子ら家族たちに焦点が絞り込まれていくんだけど、ここもまた悲劇を煽るような演出はない。どことなくあっけらかんとした悲劇で、これもまたいい。
ただ、主張されるところは自明だからことさら声を大にする必要は無いって新藤兼人は判断したのか、宇野重吉演じる久保山愛吉が真っ黒に日焼けして焼津に帰ってくるところから死の床に就くまで、強烈な起伏もなく語られていく。現実の写真や家族の嘆きの方がつらい。だからか、物足りなさもあるにあるけど、これでいいんだろうなあ。