デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ビリー・ホリデイは言いわけしないで、と哀しそうに唄った

2011-07-24 09:01:47 | Weblog
 初代内閣総理大臣である伊藤博文は、明治天皇から「女遊びもいい加減にしてはどうかね」と、じきじき苦言を呈されたほど芸者好きだったそうだ。塩田丸男著「言いわけ読本」(白水社刊)によると、「囲い者ではありません。公許の芸人を公然と招いているのです」と答えたという。公許の芸人とは芸者のことを言い繕った言葉であり、建前は芸を売る商売だから芸人には間違いない。この言いわけに明治天皇は納得なさったとのことだ。

 こんな理屈の通った言いわけを出来なかったのはジミー・モンローである。妻のビリー・ホリデイに、シャツに口紅の跡があることを問い詰められ、しどろもどろで苦しい言いわけをした。この実際の出来事を元にしてビリー自身が作った歌が、「ドント・エクスプレイン」だ。♪Hush now, don't explain Just say you'll remain...の歌詞は、「一緒にいてくれるなら女を作ってもいい、私にはあなたしかいないの」という男に縋らなければ生きていけない女の弱さ、哀しさ、悔しさ、嘆きまでをも表している。それは生涯、男に裏切られ、男運に恵まれなかったビリーならではの痛いほどの女の叫びなのだろう。

 実生活の男運を抜きにしても哀しいまでの女心は一度は歌いたい曲とみえて多くの女性シンガーが取り上げている。感情をグッと抑えて歌うのはノルウェー出身のインガー・マリエで、デビュー2作目ながら遅咲きということもあり十分なキャリアに裏付けられた貫禄だ。デビュー作「Make This Moment」でノルウェー独特の気品にあふれた歌声に注目された方もあろうが、この「By Myself」は一歩踏み込んだ大人のヴォーカルであり、それはワインを愉しみタバコを燻らすジャケットからも伝わってくる。この曲を取り上げるシンガーは皆同じだが、ビリーへの尊敬の念が込められており何れ劣らぬ名唱が並ぶ。

 言いわけといえば被災地で、「知恵を出したところは助けるが、出さない奴は助けない」と言って、就任わずか9日目で辞任した暴言大臣は、九州生まれのB型で短絡的なところがあって・・・と釈明していた。引き際を忘れたどこぞの首相と比べると潔い辞任ではあるが、言いわけひとつにも知恵を出せず、女性誌みたいな統計学的論理で出身地や血液型を持ち出されては迷惑というものだ。小生もB型である。
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30 コメント

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ドント・エクスプレイン・ベスト3 (duke)
2011-07-24 09:12:59
皆さん、今週もご覧いただきありがとうございます。

ビリー・ホリデイの自作自唱曲ドント・エクスプレインは多くのシンガーが取り上げております。ビリーならではの女心に共感するとともに、ビリーほどではなくても一度や二度はある苦い男の想いに重ねるのでしょうか。名唱が揃っております。ビリーは別格ですので、ビリー以外のお気に入りをお寄せください。インストは別の機会に話題にします。

管理人 Don't Explain Best 3

Helen Merrill with Clifford Brown (EmArcy)
Carmen McRae / Woman Talk (Mainstream)
Abbey Lincoln / Thats Him (Riverside)

他にもニーナ・シモン、ダコタ・ステイトン、シーラ・ジョーダン、ローズマリー・クルーニー等々、多くのヴァージョンがありますので誰が挙がるのか楽しみです。

今週も皆様のコメントをお待ちしております。

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Don't Explain (25-25)
2011-07-24 09:43:15

正直、そんなに好きな曲じゃないんですが・・・、

すぐ思いつくのは、ロレツのArgo 盤ですね。
あと、シーラのSteeplechase盤、ダコタのCapitol盤もいい。
ジューン・クリスティも歌ってませんでしたっけ?
ちょっと探してみます。

アビー、ニーナのはちょっと苦手です。
ロージーは好きだけど、ビリーへのTribute 盤は
あんまり好みじゃないですね。

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忘れ物 (25-25)
2011-07-24 12:28:36

これを忘れちゃ、いけませんわ。

「Mary Coughlan Sings Billy Holiday」

ビリー追悼盤の中では、イチオシに
ハートを揺さぶられるアルバムですね。
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メリー・コクラン (duke)
2011-07-24 19:16:24
25-25 さん、こんばんは。

私はメリルをすぐに思いつきましたが、ロレツでしたか。Early In The Morning ですね。ラムゼイ・ルイスが入っていましたが、落ち着いた演奏です。

ジューン・クリスティは、「Intimate Miss Christy」に収録されております。このアルバムでは、「It Never Entered My Mind」がベストトラックと思いますが、こちらもなかなかのものです。コンボがバックですのでビッグバンドとは違い、しっとりした感じですね。

ビリー追悼盤にはオール・オブ・ミーと並んで外せないこの曲ですが、メリー・コクランは聴かせますね。江國香織さんが好きなシンガーとか。
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せめて1枚だけでも・・・・ (KAMI)
2011-07-24 22:02:52
dukeさん、皆さん、こんばんは。

今週は、苦手のヴォーカル。
せめて1枚だけでも挙げておきます。

Helen Merrill with Clifford Brown
ヘレン・メリルは、(味はあるが)決して上手い歌い手だとは思いませんが、枯れた音色で吹くブラウニーの参加により名演になったのだと思います。
あの若さで、好サポートが出来るブラウニーは非凡だと思います。若くして亡くなったのが、残念です。
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年月 (まん丸クミ)
2011-07-25 05:23:18
dukeさん、お久しぶりです。

暑い日々が続いておりますね、エビスで夏バテなんて吹っ飛ばしておられる事でしょう。
さて、今回の御題で一番最初に頭に浮かぶのがこの人:

Etta James - Mystery Lady: Songs of Billie Holiday です。甘いも苦いもどんな人生もありのままに受け入れてきた人だから歌えるその哀愁おびた歌声は心を打ちます。私にとって Etta のこの歌唱力は絶品だと思います。

Molly Johnson - Molly Johnson カナダの歌姫です。Billie と Janis Joplin を足して割ったようなブルースとジャズが融合したスタイルを持つ彼女は私のお気に入り、Billie のようにねっとり感がなく悲惨さもないから素直に詩が聞けるというのがツボです。また彼女の個性が光っています。

Clifford Brown with Helen Merril 彼女の乾いた声質が重くなるのを防いでいるのが気に入っています。淡々と歌う Helen に Clifford のトランペットが実に素敵な効果をもたらし素晴らしいと思います。

実際私は40歳を過ぎるまで Billie Holiday がまともに聴けませんでした。彼女の良さがまったく分かりませんでした。ただただ重すぎるというか、あの重さが気分を落ち込ませてしまう要素が大きすぎましたけど。中年になりうんと超えた辺りから急に彼女の歌が違和感なく聴けるようになったのです。不思議ですね、いったいこれはどうした事でしょうか?私には彼女の歌を消化するには年月が必要だったのでしょうね。
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グチャグチャいい訳するんじゃねぇ! (SHIN(4438miles))
2011-07-25 13:26:23
・・・などと言いたくなることが多い昨今、皆様いかがお過ごしでしょうか。加えて暑さが盛り返してきました。
証拠は掴んだ、いい訳無用、さっさと白状しろ、という訳で・・

Helen Merrill with Clifford Brown (EmArcy)
Carmen McRae / Woman Talk (Mainstream)

この二つには異存はなし。
三番が・・・考えた末に、ニーナシモンにするか・・・ケイコ・リーなどという裏技もあるのだが・・・
しかし「まんまるクミさん」の言う通り、私も40過ぎるまでレディはあまりうけつけませんでした、何しろ暗くて・・重くて・・ダイアナ・ロスのビリー・ホリデイ物語を観てなおさら・・。
しかし、フレディー・グリーンが最後の恋人でこの二人最後まで結構いい雰囲気でやっていたと聴き、良かったなぁ・・と・・そしたら聴けるようになりました。
じゃあ、次回は「レフト・アローン」かなと先読み予想など・・暑さで頭が狂い気味です。

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ジャズ喫茶名盤 (duke)
2011-07-25 18:41:01
KAMI さん、こんばんは。

ジャズ喫茶世代にはメリルのこのアルバムは耳ダコですが、ブラウニーの絶妙なソロもあり何度聴いても飽きることがありません。メリルのベスト・アルバムと言っていいでしょう。
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ソリチュード (duke)
2011-07-25 19:07:36
クミさん、こんばんは。

こちらも夏らしくなりました。サッポロ・ジャズとヱビスで短い夏を楽しんでおります。

トップにエタ・ジェイムズが挙がりましたか。数あるビリー追悼盤ですが、ビリーとエタ自身のドラッグ中毒に重ねるような陰影の表現は見事です。

モーリー・ジョンソンソのこの曲は残念ながら聴いておりませんが、ソリチュードを歌ったアルバムは聴いたことがあります。ブルースフィーリングにあふれておりますね。

そして下馬評ではトップのメリルが挙がりましたね。ヴォーカルファンもジャズファンも納得の1枚です。

ビリー・ホリデイは素晴らしいシンガーと言われながらも日本では大きく好みが別れます。やはり重さや暗さの印象が強いせいでしょう。私は若い頃から聴いておりますが、それとてコンボがバックのものが中心でした。ある程度の歳になってからストリングスがバックでも、すんなり入るようになりました。札幌に「ソリチュード」というジャズバーがありますが、マスターに言わせると落ち込んだときこそビリーが効くそうです。
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恋多き女 (duke)
2011-07-25 19:33:36
SHIN さん、こんばんは。

何かと言い訳が多い昨今ですが、言い訳できないのがジャズであります。そんなジャズを暑い中楽しみましょう。

ワンツーが私と同じとはあっさり白状しましたね。ため息が漏れても、仮面がまくれても言い訳できないわけでして。(笑)

ケイコ・リーも歌ってましたね。昨年ライブを聴きましたが今風でした。エレキを入れないほうがいいと思うのですがねぇ。

今は聴かなくてもいつか箱から出すときがあると思い、ビリーのボックスセットを若い頃買いました。今は重宝しております。心から愛した男はフレディー・グリーンですが、生涯愛した男はレスター・ヤングとか。恋多き女です。

「レフト・アローン」も話題にしたい曲ですが、続けてでは暗くなりますので、次はライトの話題にしましょう。(笑)

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