コタツ評論

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永沢光雄が死んだ

2006-11-15 00:48:45 | ノンジャンル
AV女優にインタビューした『AV女優』(ビレッジセンター)は名著だった。いわゆるエロ雑誌で糊口をしのぐフリーライターにも、こんな優れものがいたのかと驚いた。一読すれば、誰しも小説を書かしたいと思うほど、インタビューの一編一編に短編小説の味わいがあった。AV女優たちは、かなり不幸な生い立ちだったり、変な考えの持ち主だったりだが、まぎれもなく俺たちの妹や娘であることが、永沢の筆によってわかった。身体を壊しながら、ひどい酒飲みだったらしい。冥福を。


嫌われ松子の一生

2006-11-15 00:14:08 | レンタルDVD映画
な、な、中谷美紀が素晴らしい。というか、川尻松子は、この時期の中谷美紀しかできない。『オズの魔法使い』のジュディ・ガーランドのように。そう思わせるほど、中谷美紀は完璧。映画としても10年に一度の傑作。


一言でいえば、メルヘン映画だ。『オズの魔法使い』のように。また、メルヘンでなければ松子の一生は描けない。そんなギリギリのところで成立した映画だと思う。これほど凝った造りをするには、大変な苦労と苦心があったろう。だから、笑えるし、泣ける。しかし、ズンと骨太の人間賛歌だ。

「人は何をされたかではない。人に何をしてあげたかだ」。
松子は、「何をされたか」。そりゃあ、酷い目に遭わされた。しかし、松子は挫けなかった。それでもいいが、こうともいえる。無事平穏の日常より、まるで1時間が1分のように過ぎ去る濃い時間を松子は選んだのだ。

中小企業の社長が騙されて返しきれない借金を背負い、死に物狂いで資金繰りに駆け回り、強盗しようか一家心中しようかという日々を、何とかしのいで社業順調になった現在から振り返ったとき、もちろん懐かしくなんかない。酷い目に遭った、と思うし、いうだろう。しかし、現在とその時とどちらが濃い時間だったか。それは決まっているのだ。

「曲あげて伸ばあして~お星様をつかもう~♪」。
お星様はけっしてつかめない。だが、それでも腕と身体を曲げ伸ばそうとする。星には近づくことすらできないのは本人がいちばん知っている。それが濃いということだ。でも、曲げて伸ばしているその瞬間は、誰のものでもないその人の時間だ。嫌われても松子の一生なのだ。かけがえのないただひとつの時間。そんな一生はどうだい? メルヘンに乗せて、観客の私たちを指さしているのだ。

「曲あげて伸ばあして~お星様をつかもう~♪」。当分、頭のなかでリフレインしそうだ。それにしても、松子がヒンズースクワットで、曲げて伸ばしている場面が繰り返し挿入されるのは、可笑しくて涙が滲む。滑稽な聖女。こんなメルヘン観たことない。ざまあみやがれハリウッド!

香川照之(脂がのって旬!)、黒沢あすか(初見、こんなよい女優がいたのか!)、伊勢谷友介(よい。ただ、若かった頃の北村一輝に演じさせたかった!)など、映画で育った俳優たちがこの映画に貢献している姿は嬉しい。あのね、韓流映画なんぞちょっと休んで、ぜひこれ観てください。いずれ古典になります、世界の。