<金曜は本の紹介>
「老朽マンションの奇跡(井形慶子)」の購入はコチラ
この本は、英国生活情報誌を発行する出版社を経営する井形慶子さんが、自ら苦労の末、吉祥寺の中古マンションを500万円に値切って購入し、リフォームも200万円に抑えた内容を赤裸々に公表したものです。
また、売れ残った新築マンションを安く購入する秘訣についても事実に基づいて書かれています。
中古マンション購入やリフォームを検討している方、また新築マンション購入を検討している方には、とても参考となる良書だと思います。
とてもオススメです!
特に以下のことはナルホドと思いました。
・新築マンション価格未定の理由
・お寺の借地権の地代は極端に上がることはない(宗教法人は利益を追求できない)
・一軒屋より中古マンションのリフォームは難しい
・中古マンションは、何年も人が住んでいないと、配管に問題がある可能性が高い
・新築マンションの場合、1年過ぎたら30~40%安くなり、モデルルームが撤去される時期に大幅値引きになりやすい。また決算時期も安くなりやすい
とてもオススメな本です!
・日本の住宅公団は70年代半ばまで、独身者に入居資格を与えなかった。ついでに言えば住宅金融公庫も93年まで独身者には融資を行わなかった。日本の住宅システムの欠陥は、就職し、結婚して家庭を持ち、子育てを開始する人を標準的社会人とみなし、そこを手厚く支援しようとした点にある。つまり、会社に所属しない人や、結婚しない人は住むことに相当な代価が付きまとう。
・3つ年上の先輩がフランスに留学したいから、お金を貯めるために会社を辞めると打ち明けてきた。私が慕っていたこの先輩は、原宿の裏通りに住んでいた。決して安くないその部屋の家賃をどうするのかと聞くと、彼女は千葉に引っ越すと答えた。「高校時代の同級生が千葉の市営住宅に1人で住んでいるの。母親が家業の手伝いで田舎に行ったきりだから3DKの部屋が空いていて、タダで住んでいいよと言われたの。3万円の家賃は彼が払ってくれるから」私はそんなうまい話があるのかと不思議に思った。しかも1人息子であるその男性は、1年間福岡に赴任することが決まっているという。その間、空いている無人の市営住宅に彼女はタダで居候し、渡仏資金を貯めるという。先輩の話を聞いていると、公共の住宅であるはずのその市営住宅はあたかも男友達の所有物のようだった。一旦公営住宅に住んだら、それは暗黙の了解である種の権利を有するのか。公に賃借された住宅が半ば資産化され、同居する親族へと継承される矛盾。引き続き居住する子供らも結婚をし、世帯を形成するという条件をクリアすればそのまま住み続けられる。
・「新築マンションのチラシを思い出して下さい。物件をグレードアップさせるイメージ写真や間取り図をでかでかと載せてますよね。ところが、物件概要を見ても価格未定を書いてある。あれはお金をかけてモデルルームを作り、チラシをまいて客の反応を見てから値段を設定しようというやり方なんです。」価格未定-確かに新築マンションのチラシを見るたびなぜ価格を記載しないのだろうと、かねがね思っていた。そうなんだ。申し込みが多ければ価格は上がり、反応が悪ければギリギリまで下げていく。それが新築マンションの値付けなのか。
・「借地権って、あと何年残っているんですか」「実際には10年くらいだったと思いますが、マンションの底地はお寺さんが持ってるんですよ。だから心配はありません。寺は宗教法人ですから、利益を追求しない団体ということで免税されている。つまり、底地を売却して儲けちゃいけないんです」「つまりそれって・・・・」「地震が起きてこのマンションが崩壊しない限り、ほぼ永続的に借地権は更新されるはずです。地代も極端に上がることはない。そういう意味では個人所有の借地権より安心で、場所がいいのでお買い得なのは確かですが」
・そもそも日本では、大正10年に貸主の立場が優先される借地法が制定された。江戸時代の封建制度の余韻から、まず法は社会的地位を確立した地主たちを守ろうとした。その結果、弱者となった借地人は、明治に入って日本が資本主義国家となり、発展を続けるさ中でますます窮地に追い込まれていく。特に日本の都市部では、地価の高騰によって地代ははね上がっていく。また、地主が所有権を移転すれば建物は解体され、住人は立ち退かねばならず、住まいを喪失する。まるで地震を思わせる人権無視の借地売買は、「地震売買」とおそれられた。その後、終戦直後の異常な住宅難に対応するため、地代家賃の高騰を抑え、国民生活の安定を固めようという動きが始まる。地代授受を制限する地代家賃統制令が、ポツダム勅令によって制定されたのだ。そうして昭和61年、高度経済成長を続ける日本は、いよいよ国民に家も十分行き渡り、戦後の住宅難を乗り切ったとして、この統制令も廃止された。この時、地代にまつわる制限はなくなったのだ。
・そんな中で登場した話題のローン減税は、09~11年の入居者は毎年5000万円を上限に、年末残高の1.2%を減税。10年間で最大600万円の減税になるという。ただし、この恩恵を受けるには、年収900万円以上稼ぎ、5000万円以上の物件を購入した時、うまみが出る措置に思える。いくら住宅業者がメリットをかかげても、相変わらず駆け込み需要が出ないのは当然だろう。
・彼は在日外国人という第三者的立場から興味深い話をした。「僕が来日した30年前の1970年代、日本人労働者はすべてのジャンルにおいて優秀だった。塗装屋、電気工事士、ガス屋、大工など、作業は丁寧な上、経験豊かでどんな質問にもきちんと答えてくれた。ところが、最近ではどこに頼んでも面倒な仕事は下請けに放り投げ、楽で稼ぎの良い仕事だけを取ろうとする。しかも、蓋を開ければ、「出来ない」のオンパレード。こんな現象が起きるのは、バブル経済の豊かさで育った若者達が、物質主義に染まり、体で仕事を覚えてこなかったツケなんだ」この不況下にあっても日本人は仕事を選り好みしているというのが、彼の見解だった。80年代サッチャー政権下で英国病に蝕まれていた後、金融景気に沸いたイギリスでも同じ現象が起きた。裕福になった人々は、3Kに属するきつい仕事を放棄した。その結果、ギリシャ人、ポーランド人など外国人労働者に仕事が流れていき、気が付けば大英帝国のクラフトマンシップは危うくなった。そればかりか仕事はなくなり、労働者階級の人々が外国人排除を訴えるも、後の祭り。仕事はかっさらわれた。日本でもこのままいくと老人介護のみならず、建築に関わる仕事も、外国人の熟練労働者に取られていくのではないか。まして、下請け、孫請けに属する彼らの賃金は、日本人に比べるとはるかに安い。
・「新築ばかり建てている大工は、リフォームを嫌がるんです。解りやすく言うなら、大工は完成図を逆回しにして、作業を積み上げていく。ところが曲がっているものを真っ直ぐにするリフォームには、特別な技術がいるんです。何もないところから家を組み立てる大工の仕事とリフォームは真逆なんですよ」
・「中古マンションを購入するお客さんが、耐震が不安とか配管が心配とか、よく言いますが、僕らから見たらそれは問題じゃない。実際そこに長年住んでいた人がいるわけですから、現実的には支障はないんですよ。ただし、一番気をつけなきゃいけないのが、メンテナンス状態なんです」「と言いますと」「明星はいつのように築30年以上のマンションになると、管理会社が外装だけやって配管の高圧洗浄を定期的にやっていない。もしくは、もう何年も人が住んでいないなど、ずっと配管を使っていないケースがある。こんなマンションは入居後に突然まとまった大規模修繕費用を請求されるんです。そういった場合、お金で片がつけばいいんですが、もっと厄介なケースがありまして」「どんなに古いマンションでも、基本的には新品と同じクオリティにすることは出来るんです。逆にできないことは、既存の軀体をいじることなんです。例えば、古い公団でよくある軀体であるコンクリートの中に配管が埋まっていたりする例。しかも高圧洗浄をかけてない場合、管理組合の許可がいる。許可を取っても工事中ヒビが入った、そこから水が漏れた、となれば、階下も含めた責任問題になって、業者は非常に怖がるわけです」
・「いやぁ、ガラクタ物件はいいですよ。ましてこの不況で新宿から20分くらいの駅前にも、昔は手が届かなかった利便性のいい高級マンションが、軒並み2000万台に値下がりしている。ということは、リフォームに思い切った予算がかけられるという時代になったんです。だから、僕のところには、井形さんのように古い物件を理想の家にしたいという依頼が引きも切らない。まして中古の一戸建てだと、マンションより制約がないから、夢の御殿が数百万で完成するわけです」「まるで、イギリスのようですね。廃屋を買ってリフォームし、しかも値段がつり上がる」私は日本に新しい受託の流れができつつあることに興奮した。「そうですよ。この前のお客さんなんかは、駅前のボロボロなマンションを1戸1000万円代で購入して、5年後には倍の金額で売却した。まだ30代の新婚さんでしたが、賢いなと思いました。その利益を頭金に、彼らも今は駐車場付き戸建てに住んでますよ」
・親が家も含めた自分の資産を子どもに残す考えがないため、イギリスの子ども達は、18歳になると親元を出て、自動的に自分の力で仕事を見つけ、住居を探し、生計を組み立てなければならない。まして、大学に進学する若者は、学費もローンを組み、出世払いで返していく慣例がある。経済的に縛られた若者達は、居心地の良い実家を出た途端、質素な学生寮に入り、働き始めたら見知らぬ者同士、安普請の家を借りルームシェアする。つまり、欧米社会で大人になるということは、富裕層を除くと、実家との激しいギャップを受け入れるシンプルライフに突入しなければいけないのだ。だから若者の多くは銀行から住宅ローンを借りるべく就職する。数年経てばガラクタ物件をバーゲン価格で購入する。ホームセンターなどに通い、DIYでできるだけ安くリフォームを上げ、貧しい賃貸と手を切るべく自分の住まいを確保しようとする。バイタリティアル若年層がこと家の購入に熱心なのは、自ら考え、動き回り、工夫を凝らしてステップアップするためだ。考え抜いて、こだわり抜いて、上質な住まいになった元ガラクタ物件は、手を入れるほど査定価格が上がり、若者達はさらに次の広い家に住み替えることができる。
・老朽化したガラクタ物件を購入した人がまず、リフォーム業者に依頼することは、ほぼ、同じらしい。①給湯管、②配管、③エアコンの穴開け、④給湯器を外に出す。ところが、マンションの場合第一に管理人にお伺いを立て、理事会に打診する手続きが必要となる。そこで、発生するのは「今まで事例がないからだめだ」という拒絶反応だ。世の中には工事ができないため買ったものの、住むことができないマンションもあると聞いた。泥沼化すれば、仲介業者との裁判にも発展する。宇野社長が、かねがね同じガラクタ物件でも戸建ては本当に気が楽。外壁に穴を開けようが、ダクトを通そうが、思ったことが何でも出来ると言っていた意味が、身にしみてわかった。
・「イギリスなら階と階の間がとても広いため、床下もしくは天井裏に人が入れる十分なスペースがある。ところが日本の場合、1つの建物に何階まで作れるかというフロア数が優先されるから、電線や配管工事をするにも職人が難儀するのだ。」
・無垢材の建具や床を使いたがるお客さんは多いが、一枚板だと反り返って施工が大変と、改めて説明した。それは私がイギリスの解体業者からパイン材の古いドアを送ってもらうのだと、当初から主張していたからだ。「井形さん好みの趣あるバーに行ってみて下さいよ。厚いカウンターの一枚板でさえ、よく見るとたいて反り返っている。まして、一般家庭で無垢板を使うと湿気で反ってしまって大変なんです。フローリングが合板なのも反らないためですよ。もちろん、コスト面もありますけどね」
・「10年くらい前からでしょうか、材木屋が総合卸問屋に変わっていったのは。まず、今は昔のように家を建てるのにトラック一杯材木を持っていくことはなくなった。皆、人件費が安く済むよう、プレカットされたものを工場から現場に直接届け、それを金づちではなく、釘打ち機でスピーディーに組み立てる。まして輸入材はますます安くなり、北米産のスプルース(マツ科)など広く使われるようになった。すべて効率が優先しているのに、今の人達が、わざわざお金のかかる床柱や床板付きの和風家屋を建てるわけがない。淋しいけど、職人技が必要な銘木は必要とされなくなったのです」それゆえ、街の材木屋は商売が成り立たなくなって廃れてきた。昔は12センチ角が標準だった柱も、今では10.5センチ角になった。細くなったが、支える金具や接着剤の性能が格段に進歩したため、地震にも耐えうる。「昔のようにホゾもいらない。ボルトで締める方が早いうえ、強度も勝るんです。費用、効率から考えても、木が売れなくなった原理がわかるでしょ」
・駅前に設置されたPスクエアガーデンのモデルルームが、1月末で撤退するということ。新築マンションの場合、1年過ぎたら30ないし40%安くなることは、業界の常識らしい。いわゆる、「完成在庫」を抱えた業者は、モデルルームが撤去される時期に大幅値引きもいとわない。次にこのマンションの販売元であるP商事の決算が、3月に控えていること。損失を一気に吐き出してでも、今期中に在庫処分をしたい大手マンション業者のふところ事情を考えると、営業マンの思い切った値引きも社内の稟議に通りやすいはずだと思った。これらのことから営業責任者は、ローンが確実なサラリーマン、もしくは購入意志の堅い、頭金豊富な顧客には何としても売却しようと奮闘するはずだ。
<目次>
はじめに
第1章 住宅営業マンの悲鳴
1 公団入居のために婚約した女性
2 新築マンション価格未定のナゾ
3 不況が追い風になった?!
4 吉祥寺駅徒歩8分の老朽マンション
第2章 普通の人々の住宅政策
5 借地権のメリットを見直す
6 誰が住まいを守るのか
7 使えない大型住宅ローン減税
8 「500万円マンション」契約の日
第3章 たそがれロンドンフラットを再現
9 技なし、知恵なし、ヤル気なしのリフォーム業者
10 築30年以上の公団リフォーム専門店x
11 若者たちはなぜ住まいに疎いのか
第4章 200万円の丸裸リフォーム
12 得体の知れない電線、ふりかけ水道管
13 風呂場を掘るよ、どこまでも
14 意志を持つコンクリート
15 木を売れない材木屋の役割
第5章 高級マンションを半値で買う時代
16 自己破産男のマイホーム大作戦
17 完成在庫をダンピングする
18 「買い得」と「買い時」を間違えない
第6章 増える空き家とさまよう日本人
19 工事遅延
20 ゼロゼロ物件の未来
21 単身高齢者の幸せな古家
第7章 ガラクタ物件の壮大な夢
22 リフォームに不可能はない
23 在日外国人と再建築不可物件-ドアより引き戸の住宅論
24 グアムのホームセンターで色決めをする
25 利回り22%のロンドンフラット誕生
あとがき リフォームが営繕と呼ばれていた頃
面白かった本まとめ(2010年上半期)
<今日の独り言>
またカブトムシネタで申し訳ありませんが、またその林に行くと、今度はもういませんでした。きっといい場所に移れたのだと思います。これで安心しました^_^)
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この本は、英国生活情報誌を発行する出版社を経営する井形慶子さんが、自ら苦労の末、吉祥寺の中古マンションを500万円に値切って購入し、リフォームも200万円に抑えた内容を赤裸々に公表したものです。
また、売れ残った新築マンションを安く購入する秘訣についても事実に基づいて書かれています。
中古マンション購入やリフォームを検討している方、また新築マンション購入を検討している方には、とても参考となる良書だと思います。
とてもオススメです!
特に以下のことはナルホドと思いました。
・新築マンション価格未定の理由
・お寺の借地権の地代は極端に上がることはない(宗教法人は利益を追求できない)
・一軒屋より中古マンションのリフォームは難しい
・中古マンションは、何年も人が住んでいないと、配管に問題がある可能性が高い
・新築マンションの場合、1年過ぎたら30~40%安くなり、モデルルームが撤去される時期に大幅値引きになりやすい。また決算時期も安くなりやすい
とてもオススメな本です!
・日本の住宅公団は70年代半ばまで、独身者に入居資格を与えなかった。ついでに言えば住宅金融公庫も93年まで独身者には融資を行わなかった。日本の住宅システムの欠陥は、就職し、結婚して家庭を持ち、子育てを開始する人を標準的社会人とみなし、そこを手厚く支援しようとした点にある。つまり、会社に所属しない人や、結婚しない人は住むことに相当な代価が付きまとう。
・3つ年上の先輩がフランスに留学したいから、お金を貯めるために会社を辞めると打ち明けてきた。私が慕っていたこの先輩は、原宿の裏通りに住んでいた。決して安くないその部屋の家賃をどうするのかと聞くと、彼女は千葉に引っ越すと答えた。「高校時代の同級生が千葉の市営住宅に1人で住んでいるの。母親が家業の手伝いで田舎に行ったきりだから3DKの部屋が空いていて、タダで住んでいいよと言われたの。3万円の家賃は彼が払ってくれるから」私はそんなうまい話があるのかと不思議に思った。しかも1人息子であるその男性は、1年間福岡に赴任することが決まっているという。その間、空いている無人の市営住宅に彼女はタダで居候し、渡仏資金を貯めるという。先輩の話を聞いていると、公共の住宅であるはずのその市営住宅はあたかも男友達の所有物のようだった。一旦公営住宅に住んだら、それは暗黙の了解である種の権利を有するのか。公に賃借された住宅が半ば資産化され、同居する親族へと継承される矛盾。引き続き居住する子供らも結婚をし、世帯を形成するという条件をクリアすればそのまま住み続けられる。
・「新築マンションのチラシを思い出して下さい。物件をグレードアップさせるイメージ写真や間取り図をでかでかと載せてますよね。ところが、物件概要を見ても価格未定を書いてある。あれはお金をかけてモデルルームを作り、チラシをまいて客の反応を見てから値段を設定しようというやり方なんです。」価格未定-確かに新築マンションのチラシを見るたびなぜ価格を記載しないのだろうと、かねがね思っていた。そうなんだ。申し込みが多ければ価格は上がり、反応が悪ければギリギリまで下げていく。それが新築マンションの値付けなのか。
・「借地権って、あと何年残っているんですか」「実際には10年くらいだったと思いますが、マンションの底地はお寺さんが持ってるんですよ。だから心配はありません。寺は宗教法人ですから、利益を追求しない団体ということで免税されている。つまり、底地を売却して儲けちゃいけないんです」「つまりそれって・・・・」「地震が起きてこのマンションが崩壊しない限り、ほぼ永続的に借地権は更新されるはずです。地代も極端に上がることはない。そういう意味では個人所有の借地権より安心で、場所がいいのでお買い得なのは確かですが」
・そもそも日本では、大正10年に貸主の立場が優先される借地法が制定された。江戸時代の封建制度の余韻から、まず法は社会的地位を確立した地主たちを守ろうとした。その結果、弱者となった借地人は、明治に入って日本が資本主義国家となり、発展を続けるさ中でますます窮地に追い込まれていく。特に日本の都市部では、地価の高騰によって地代ははね上がっていく。また、地主が所有権を移転すれば建物は解体され、住人は立ち退かねばならず、住まいを喪失する。まるで地震を思わせる人権無視の借地売買は、「地震売買」とおそれられた。その後、終戦直後の異常な住宅難に対応するため、地代家賃の高騰を抑え、国民生活の安定を固めようという動きが始まる。地代授受を制限する地代家賃統制令が、ポツダム勅令によって制定されたのだ。そうして昭和61年、高度経済成長を続ける日本は、いよいよ国民に家も十分行き渡り、戦後の住宅難を乗り切ったとして、この統制令も廃止された。この時、地代にまつわる制限はなくなったのだ。
・そんな中で登場した話題のローン減税は、09~11年の入居者は毎年5000万円を上限に、年末残高の1.2%を減税。10年間で最大600万円の減税になるという。ただし、この恩恵を受けるには、年収900万円以上稼ぎ、5000万円以上の物件を購入した時、うまみが出る措置に思える。いくら住宅業者がメリットをかかげても、相変わらず駆け込み需要が出ないのは当然だろう。
・彼は在日外国人という第三者的立場から興味深い話をした。「僕が来日した30年前の1970年代、日本人労働者はすべてのジャンルにおいて優秀だった。塗装屋、電気工事士、ガス屋、大工など、作業は丁寧な上、経験豊かでどんな質問にもきちんと答えてくれた。ところが、最近ではどこに頼んでも面倒な仕事は下請けに放り投げ、楽で稼ぎの良い仕事だけを取ろうとする。しかも、蓋を開ければ、「出来ない」のオンパレード。こんな現象が起きるのは、バブル経済の豊かさで育った若者達が、物質主義に染まり、体で仕事を覚えてこなかったツケなんだ」この不況下にあっても日本人は仕事を選り好みしているというのが、彼の見解だった。80年代サッチャー政権下で英国病に蝕まれていた後、金融景気に沸いたイギリスでも同じ現象が起きた。裕福になった人々は、3Kに属するきつい仕事を放棄した。その結果、ギリシャ人、ポーランド人など外国人労働者に仕事が流れていき、気が付けば大英帝国のクラフトマンシップは危うくなった。そればかりか仕事はなくなり、労働者階級の人々が外国人排除を訴えるも、後の祭り。仕事はかっさらわれた。日本でもこのままいくと老人介護のみならず、建築に関わる仕事も、外国人の熟練労働者に取られていくのではないか。まして、下請け、孫請けに属する彼らの賃金は、日本人に比べるとはるかに安い。
・「新築ばかり建てている大工は、リフォームを嫌がるんです。解りやすく言うなら、大工は完成図を逆回しにして、作業を積み上げていく。ところが曲がっているものを真っ直ぐにするリフォームには、特別な技術がいるんです。何もないところから家を組み立てる大工の仕事とリフォームは真逆なんですよ」
・「中古マンションを購入するお客さんが、耐震が不安とか配管が心配とか、よく言いますが、僕らから見たらそれは問題じゃない。実際そこに長年住んでいた人がいるわけですから、現実的には支障はないんですよ。ただし、一番気をつけなきゃいけないのが、メンテナンス状態なんです」「と言いますと」「明星はいつのように築30年以上のマンションになると、管理会社が外装だけやって配管の高圧洗浄を定期的にやっていない。もしくは、もう何年も人が住んでいないなど、ずっと配管を使っていないケースがある。こんなマンションは入居後に突然まとまった大規模修繕費用を請求されるんです。そういった場合、お金で片がつけばいいんですが、もっと厄介なケースがありまして」「どんなに古いマンションでも、基本的には新品と同じクオリティにすることは出来るんです。逆にできないことは、既存の軀体をいじることなんです。例えば、古い公団でよくある軀体であるコンクリートの中に配管が埋まっていたりする例。しかも高圧洗浄をかけてない場合、管理組合の許可がいる。許可を取っても工事中ヒビが入った、そこから水が漏れた、となれば、階下も含めた責任問題になって、業者は非常に怖がるわけです」
・「いやぁ、ガラクタ物件はいいですよ。ましてこの不況で新宿から20分くらいの駅前にも、昔は手が届かなかった利便性のいい高級マンションが、軒並み2000万台に値下がりしている。ということは、リフォームに思い切った予算がかけられるという時代になったんです。だから、僕のところには、井形さんのように古い物件を理想の家にしたいという依頼が引きも切らない。まして中古の一戸建てだと、マンションより制約がないから、夢の御殿が数百万で完成するわけです」「まるで、イギリスのようですね。廃屋を買ってリフォームし、しかも値段がつり上がる」私は日本に新しい受託の流れができつつあることに興奮した。「そうですよ。この前のお客さんなんかは、駅前のボロボロなマンションを1戸1000万円代で購入して、5年後には倍の金額で売却した。まだ30代の新婚さんでしたが、賢いなと思いました。その利益を頭金に、彼らも今は駐車場付き戸建てに住んでますよ」
・親が家も含めた自分の資産を子どもに残す考えがないため、イギリスの子ども達は、18歳になると親元を出て、自動的に自分の力で仕事を見つけ、住居を探し、生計を組み立てなければならない。まして、大学に進学する若者は、学費もローンを組み、出世払いで返していく慣例がある。経済的に縛られた若者達は、居心地の良い実家を出た途端、質素な学生寮に入り、働き始めたら見知らぬ者同士、安普請の家を借りルームシェアする。つまり、欧米社会で大人になるということは、富裕層を除くと、実家との激しいギャップを受け入れるシンプルライフに突入しなければいけないのだ。だから若者の多くは銀行から住宅ローンを借りるべく就職する。数年経てばガラクタ物件をバーゲン価格で購入する。ホームセンターなどに通い、DIYでできるだけ安くリフォームを上げ、貧しい賃貸と手を切るべく自分の住まいを確保しようとする。バイタリティアル若年層がこと家の購入に熱心なのは、自ら考え、動き回り、工夫を凝らしてステップアップするためだ。考え抜いて、こだわり抜いて、上質な住まいになった元ガラクタ物件は、手を入れるほど査定価格が上がり、若者達はさらに次の広い家に住み替えることができる。
・老朽化したガラクタ物件を購入した人がまず、リフォーム業者に依頼することは、ほぼ、同じらしい。①給湯管、②配管、③エアコンの穴開け、④給湯器を外に出す。ところが、マンションの場合第一に管理人にお伺いを立て、理事会に打診する手続きが必要となる。そこで、発生するのは「今まで事例がないからだめだ」という拒絶反応だ。世の中には工事ができないため買ったものの、住むことができないマンションもあると聞いた。泥沼化すれば、仲介業者との裁判にも発展する。宇野社長が、かねがね同じガラクタ物件でも戸建ては本当に気が楽。外壁に穴を開けようが、ダクトを通そうが、思ったことが何でも出来ると言っていた意味が、身にしみてわかった。
・「イギリスなら階と階の間がとても広いため、床下もしくは天井裏に人が入れる十分なスペースがある。ところが日本の場合、1つの建物に何階まで作れるかというフロア数が優先されるから、電線や配管工事をするにも職人が難儀するのだ。」
・無垢材の建具や床を使いたがるお客さんは多いが、一枚板だと反り返って施工が大変と、改めて説明した。それは私がイギリスの解体業者からパイン材の古いドアを送ってもらうのだと、当初から主張していたからだ。「井形さん好みの趣あるバーに行ってみて下さいよ。厚いカウンターの一枚板でさえ、よく見るとたいて反り返っている。まして、一般家庭で無垢板を使うと湿気で反ってしまって大変なんです。フローリングが合板なのも反らないためですよ。もちろん、コスト面もありますけどね」
・「10年くらい前からでしょうか、材木屋が総合卸問屋に変わっていったのは。まず、今は昔のように家を建てるのにトラック一杯材木を持っていくことはなくなった。皆、人件費が安く済むよう、プレカットされたものを工場から現場に直接届け、それを金づちではなく、釘打ち機でスピーディーに組み立てる。まして輸入材はますます安くなり、北米産のスプルース(マツ科)など広く使われるようになった。すべて効率が優先しているのに、今の人達が、わざわざお金のかかる床柱や床板付きの和風家屋を建てるわけがない。淋しいけど、職人技が必要な銘木は必要とされなくなったのです」それゆえ、街の材木屋は商売が成り立たなくなって廃れてきた。昔は12センチ角が標準だった柱も、今では10.5センチ角になった。細くなったが、支える金具や接着剤の性能が格段に進歩したため、地震にも耐えうる。「昔のようにホゾもいらない。ボルトで締める方が早いうえ、強度も勝るんです。費用、効率から考えても、木が売れなくなった原理がわかるでしょ」
・駅前に設置されたPスクエアガーデンのモデルルームが、1月末で撤退するということ。新築マンションの場合、1年過ぎたら30ないし40%安くなることは、業界の常識らしい。いわゆる、「完成在庫」を抱えた業者は、モデルルームが撤去される時期に大幅値引きもいとわない。次にこのマンションの販売元であるP商事の決算が、3月に控えていること。損失を一気に吐き出してでも、今期中に在庫処分をしたい大手マンション業者のふところ事情を考えると、営業マンの思い切った値引きも社内の稟議に通りやすいはずだと思った。これらのことから営業責任者は、ローンが確実なサラリーマン、もしくは購入意志の堅い、頭金豊富な顧客には何としても売却しようと奮闘するはずだ。
<目次>
はじめに
第1章 住宅営業マンの悲鳴
1 公団入居のために婚約した女性
2 新築マンション価格未定のナゾ
3 不況が追い風になった?!
4 吉祥寺駅徒歩8分の老朽マンション
第2章 普通の人々の住宅政策
5 借地権のメリットを見直す
6 誰が住まいを守るのか
7 使えない大型住宅ローン減税
8 「500万円マンション」契約の日
第3章 たそがれロンドンフラットを再現
9 技なし、知恵なし、ヤル気なしのリフォーム業者
10 築30年以上の公団リフォーム専門店x
11 若者たちはなぜ住まいに疎いのか
第4章 200万円の丸裸リフォーム
12 得体の知れない電線、ふりかけ水道管
13 風呂場を掘るよ、どこまでも
14 意志を持つコンクリート
15 木を売れない材木屋の役割
第5章 高級マンションを半値で買う時代
16 自己破産男のマイホーム大作戦
17 完成在庫をダンピングする
18 「買い得」と「買い時」を間違えない
第6章 増える空き家とさまよう日本人
19 工事遅延
20 ゼロゼロ物件の未来
21 単身高齢者の幸せな古家
第7章 ガラクタ物件の壮大な夢
22 リフォームに不可能はない
23 在日外国人と再建築不可物件-ドアより引き戸の住宅論
24 グアムのホームセンターで色決めをする
25 利回り22%のロンドンフラット誕生
あとがき リフォームが営繕と呼ばれていた頃
面白かった本まとめ(2010年上半期)
<今日の独り言>
またカブトムシネタで申し訳ありませんが、またその林に行くと、今度はもういませんでした。きっといい場所に移れたのだと思います。これで安心しました^_^)