<金曜は本の紹介>
「新幹線をつくる(早田 森)」の購入はコチラ
この「新幹線をつくる」という本は、著者が2012年の夏から冬にかけて、東海道新幹線の新型車両であるN700Aを製造しているJR東海と日本車両製造株式会社の技術者・技能者たちにインタビューし、そのN700Aなど製造の技術や努力を分かりやすく明らかにしたものです。
新幹線はスピードをアップするだけではなく、騒音対策、空調の工夫、トイレの開発、「トンネルドン」を低減させる工夫、アルミ合金の活用、溶接の工夫、塗装の工夫など様々な改善が行われていて、さすが世界最先端の乗り物だなぁと感心しました。
さすが日本の技術です!
とてもオススメな本です!
以下はこの本のポイントなどです。
・東海道新幹線は1964年10月の開業以来、故障や不具合による重大な死亡事故を起こしていない。と同時に、東海道新幹線では定期列車だけでも1日に323本の列車が、東京~新大阪の約515kmをきわめて高密度に行き来している(2012年現在)。1300人以上の乗客を乗せた16両編成、全長400mの列車が、ラッシュ時にはわずか3~4分の運転間隔で、しかも最高時速270kmという猛スピードで疾走しているのだ。加えて、2011年度実績で1年間に走る全列車は約12万2000本あるが、その運行1列車あたりの平均遅延時間はたったの0.6分。これは地震やゲリラ豪雨など自然災害による遅延を含めての時間だから、通常であれば、ほとんど数秒の遅れしか記録していないのではないか。このように安全に、正確無比に、故障することなく、しかも驚くべき速さで、半世紀近くも走り続けている東海道新幹線。まさに「メイド・イン・ジャパン」の誉れというべきだろう。
・N700系は、車体傾斜システムの採用により、東京~新大阪間の所要時間を5分短縮した。また、同時期に開発された、連結部を完全に覆い、風切り音など外部からの騒音を低減させる「全周ホロ」、新型パンタグラフ、高性能セミアクティブ制振装置の採用などにより、居住性も向上させている。
・「N700Aの開発コンセプトは、「さらなる安全安定輸送の実現」と「700系との置き換えによる省エネルギー化」です。安全安定輸送に関しては、制動距離を従来より1~2割短くできる中央締結ブレーキディスク、鉄道車両の走行装置である台車の不具合を軽微な段階で自己診断できる台車振動システム、ATCの速度制限に沿って自動運転できる定速走行装置という3つの技術開発が柱になりました。また、今後700系をN700系Aに置き換えていくことで、1編成あたりの電力消費量を19%削減できます。
・新幹線の車体は、アルミニウムにマグネシウムやシリカなどを添加したアルミ合金でできている。かつての車体は鋼鉄製だったが、1992年にデビューした300系から、車体を軽くしてスピードアップを図るために、アルミ合金製に切り替えられたのだという。ちなみに、アルミニウム100%だと金属として軟らかすぎるため、マグネシウムなどを加えて強度を高めているそうだ。
・この日本車輌製造株式会社の豊川製作所では、新幹線だけでなく、国内の私鉄電車やアメリカ、台湾などに輸出される電車も数多くつくっている。製造する鉄道車両のうち5割が実は海外向けだという。
・N700系の製造に携わった車両メーカーは、日立製作所さん、川崎重工業さん、近畿車輛さん、それに日本車輌の4社ですが、実際にはもっといろいろな企業が関わっています。私たち車両メーカーがつくるのは、基本的に車体と台車の部分だけなんです。しかし、現実の新幹線を見ていただければわかりますが、もっといろいろな工業製品が積まれていますよね。たとえば、主電動機や車両・車軸などの駆動装置や制動装置、システム制御を行うコンピュータなどの電子機器、エアコンなどの空調機器、天井灯や前照灯などの照明器具、トイレ回りの水道設備などです。これらの多くは新幹線用に特別につくられる「特注品」ですから、それぞれの装置は、それぞれの専門メーカーが設計し、製造することになります。大手メーカーでいえば、東芝さんや三菱電機さんですね。そのため、実際に仕様を決め、基本設計、詳細設計と作業を進めていく際には、JR東海さんと私たち車両メーカー、さらには多くの機器メーカーさんとが長い時間をかけて作業をすり合わせながら進んでいくことになります。
・走行中の音や振動は、号車や座席位置によって意外に大きな違いがある。たとえば、パンタグラフの付いている5号車と12号車の車内では、パンタグラフによる風切り音が聞こえる。また、各車両の床下には、走行装置である台車以外に架線から送られてくる単相交流2万5000Vの電気を変圧するトランス、交流を直流に変換するコンバータ、さらには空調機器や電子機器など、様々な機材を積んでいる。しかも、その種類や配置は号車によっても違う。そのため、床下から聞こえる音や振動も、乗っている号車や座席位置によってかなり違ってくるのだという。しかし、座る座席によって騒音や振動に差があっていいhずはない。そこで、どの座席でも音と振動が均等に小さく感じられるよう、内装材の厚さを部分的に変えるなど、内装設計者はいろいろと頭を悩ませているようだ。「内装材が軽くなればなるほど、車両の速達性と省エネルギー性能は高まります。ところが、内装材が軽くなればなるほど、音の透過率が上がって、聞こえてくる車内騒音のレベルは上がってしまいます。そこのところのせめぎ合いというか、軽量化と遮音性のあいだでどうバランスを取っていくかが難しかったですね」
・700系とN700系では、実は座席シートの幅が変わっている。700系普通車の場合、3人掛けの両側A・C席と二人掛けのD・E席は幅430mmだったのが、N700系ではそれぞれ440mmに10mmずつ広くなったのだ(B席は460mmのまま)。この変化はもちろん、居住性・快適性を高めるため。とはいえ、ただでさえ限られた空間しか確保できない車内で、座席全体の幅が40mmも増えたことになる。その一方で、N700系は700系より、車体外形の全幅が3380mmから3360mmへと20mmも小さくなった。何度も書いているように、N700系は車体傾斜システムを採用したため、車体が傾いたときでも地上の建築物に接触しないよう、小さめに作らなければならないのだという。つまり、N700系は700系より外側の幅が20mm短くなり、内側にある座席の幅が40mm長くなっている。単純に計算すれば、客室の通路の幅が差し引き60mmも短くなってしまう。「そうならないために、60mmの差を構体や内装材で吸収することになりました。具体的には、座席がぎりぎり回転できるまで座席と化粧パネルの間隔を狭めるなど、涙ぐましい努力をしています。それでも遮音性は犠牲にできませんから、厚くできるところは厚くするなどして、トータルで遮音性を確保しました。このときの設計は、一手間、二手間加えていくという、細かな工夫の積み重ねでしたね」
・N700系では、客室の前後方向で空気の温度が変わらないようにしただけでなく、実は客室の左右方向でも、空気が均一に流れるようにしています。そのために工夫したのは、空調吹き出し口から吹き出す空気の角度と、荷物棚下面の曲面形状ですね。空気を室内に循環させたいときには、壁に沿って空気の流れをつくってやればいい。そこで、空調吹き出し口から荷物棚の下面に向かって、斜め上向きに空気をぶつけてやることにしました。そのとき、荷物棚の下面が上向きのカーブ形状になっていれば、吹き出された空気はそのカーブに沿って客室の天井まで上っていく。天井にぶつかる角度をうまくコントロールしてやれば、そこで空気が跳ね返って対流が起こり、吹き出された空気は通路付近に下りてきます。この状態がつくれれば、窓側の席と通路側の席とのあいだで、温度ムラが生じにくい。
・N700系を設計していたときは、作業工程の「基本設計」に入るか入らないかのタイミングで、随分いろいろなモックアップをつくりました。そのうちの一つが、われわれのチームが設計した多機能トイレのモックアップ。便座やおむつ交換台などすべて現物を配置して本物そっくりにつくり、自分自身が車椅子に乗って、トイレ内であちこち動いてみました。すると、実際には思いのほか動きにくくて、ちょっとした出っ張りがすごく邪魔になることがわかった。そこで、張り出した壁面を思いきってえぐるなど、図面をかなり手直ししたのを覚えています。また、オストメイト対応のトイレも初めて本格的につくったので、オストメイト用福祉機器の評価を行っている団体の人に関西から来ていただき、モックアップを見てご意見を頂きました。私たちの図面は、一般の方にはわかりにくいものなので、実際にモックアップの形にしてお見せすることはとても有意義だと思いました。
・N700系のグリーン車のカーペットについて。床下からの振動を低減させるため、乗客が座席に座ったときにちょうど両足を置く部分にのみ、カーペットの下にクッション材を敷いて、厚さを10mmだけ厚くしてあるとか。この処理に気づいた乗客は、おそらく一人もいないだろう。だが、この誰も気づかないような、ささやかなホスピタリティを実現させるために、大石さんたちは何週間もかけてクッション材を吟味し、振動計で何度もデータを取っている。こうと決めたら、妥協はしない。「できることは、とにかく全部やる」。大石さんの設計の仕事には、そんなすごみさえ感じられるのだ。
・トンネル微気圧波とは、自動車や鉄道列車が高速でトンネルに進入した際、トンネル内の空気が急激かつ一気に圧縮され、圧力波となって押し出される現象のこと。その圧力波は自動車や列車に先行してトンネル内を進み、トンネル出口付近で衝撃波となって「ドーン」と大きな破裂音を発生させる。「トンネルドン」とも呼ばれるこのような現象を考慮することも、新幹線では重要である。
・1992年デビューの300系では、時速270kmでの営業運転を可能にするため、100系よりも先頭車両の断面積を小さくした。が、トンネル微気圧波対策を徹底したのが、1997年にJR西日本が投入した500系だ。500系の先頭形状はロケットのように先の尖った円筒形であり、しかも先頭部が15mときわめて長かった。そのため500系は、東海道区間で時速270km、山陽区間で時速300kmと、当時最速の営業速度が実現できた。シャープな先頭形状を持っていたから加速がよくなったのではなく、シャープな先頭形状を持っていたからこそ、時速300kmで走行してもトンネル微気圧の影響が小さく抑えられたからだ。しかし500系は、この最高速度を手に入れるために、いくつかのものを手放した。まず、全長27mの先頭車両のうち先頭部だけで15mも使ってしまったため、先頭車両の客室面積が圧縮されてしまった。300系に比べ、1号車・16号車の定員が12名ずつ減ってしまったのだ。1車両16両で300系と同数の定員を確保するには、普通車での前後の座席間隔を20mm詰めざるを得ず、居住性が犠牲になった。また、スペース確保のために先頭車両の運転席寄りの客用扉を廃止したが、その結果1号車と16号車には乗降口が1ヶ所しかなくなってしまった。そのためラッシュ時には客の乗降に時間がかかり、それがダイヤの乱れにつながることもあった。
・これらの点を考慮しつつ、500系登場の2年後にJR東海が投入したのが700系だ。300系では6mだった先頭部分を9.2mまで伸長し、「エアロストリーム形状」という独自の流線型フォルムを採用したため、トンネル微気圧波をかなり抑え込むことができた。とはいえ、500系ほどの思い切ったトンネル微気圧波対策は取れず、最高速度は東海道区間で時速270km、山陽区間で時速285kmに留まった。
・遺伝的アルゴリズムとは、人工知能の分野で活用されている進化的計算方法のこと。簡単にいえば、人工知能事態が膨大なパターンの組み合わせを1秒間に1兆回もの速さで計算・シュミレートしていき、最終的に最適な値を見つけ出すというプログラムだ。その掛け算の様子が、両親の遺伝子を組み合わせたり、組み換えたり、突然変異させたりして生物が進化していく様子に似ているため、「遺伝的」と呼ばれる。ともあれ、N700系の場合は、膨大な数のパターンがある車体の断面積形状のなかから、最適と思われる形状が導き出された。N700系の、あのなんとも形容しがたい複雑な先頭形状は、こうして生まれたのだ。先頭部の長さは10.7m。700系より1.5m伸びただけ。にもかかわらず、トンネル微気圧波を500系並みに小さくできたため、N700系は東海道区間で時速270km、山陽区間で時速300km走行を実現したのである。
・東海道新幹線の車体に使われている白は、正式には「オイスターホワイト」といいます。色彩の国際的な基準であるマンセル値でいえば、N9.05.黒がN1.0、白がN9.5ですから、オイスターホワイトは純白よりも少しだけ黒に近い、つまりほんの少しくすんだ白になります。一方、東海道新幹線の青は「ディープブルー」。ブライトブルーともいいます。先ほどのマンセル値でいえば、4.5PB 2.5/7.8.色相が4.5PBでやや紫に近い青、明度が2.5でかなり濃いめの色、彩度が7.8でかなり鮮やかな色、ということになります。
・近藤さんのお話を伺っていて、内装工場は一つの「バッファ」なのだと強く感じた。内装工場に送られてくる新幹線の車体は、それまでにかかわった多くの技能者たちの努力の結晶だ。現図工場、鉄工工場、機械工場、ブロック工場、構体工場で働く技能者数百名分の、緻密で精度の高い仕事ぶりが1台の車両に集約されている。とはいえ、人間のやる仕事だから、どうしても誤差は出るだろう。その誤差を、各工程の技能者はなんとか自分たちのところで吸収しようとするが、吸収しきれない誤差がやっぱり残るのである。この工程に来るまでに少しずつ積み重なってきた、誤差や歪み。それらを最後に吸収するのが、近藤さんたち内装工場の仕事だ。そして全体の帳尻を合わせるために、内装工場の技能者たちはカンナやノミを振るって、自分たちにしかできない仕事をし、最終的には図面どおりに調整していく。
・台車は、鉄道車両の安全走行を司る最重要パーツである。N700系・N700Aの車輪径は860mm、1編成(16両)の質量は約700t。たとえば、N700系が時速270kmで走行しているとき、各車輪は5t以上の荷重を支えながら、1秒間に約28回という超高速回転をしていることになる。また、新幹線車両の台車検査はおおよそ走行距離60万km(東京~新大阪間580往復以上)ごとに行われるが、最初の台車検査の時点で、車輪の回転数はすでに2.2億回転以上に達している。これだけ酷使されても、絶対に壊れないこと。新幹線の安全性は、まさに台車の堅牢性・耐久性によって守られているのだ。
・鉄道車両の動力方式には、大きく分けて2つあるらしい。「動力集中方式」と「動力分散方式」。前者の例がかつてのSLやブルートレインだ。動力を持つ機関車が、動力を持たない客車を牽引するスタイル。だが、動力を1両に集中させ、その1両で長い列車を牽引する場合、高速走行したくても限界がある。そこで、新幹線はデビュー当初から動力分散方式を採用してきた。架線の交流2万5000Vを交流2000V程度まで落とす主変圧器、走行用モーターへの電力を制御する主変換装置など、動力を得るのに必要な重たい装置を1両にすべて積み込むのではなく、複数の車両に振り分けて積むことにしたのだ。0系・100系は必要な装置を2両に、300系は3両に、500系以降は16両中4両に分散。つまりN700Aも4両1組でないと走れないわけだ。そのため、走行試験を含むこの最終試験も、4両単位で行われるという。
<目次>
〔はじめに〕メイド・イン・ジャパンを見に行く
第1章 より速く、より安全に、より快適に ~コンセプト策定~
新型車両のコンセプトとは?
あくまでも技術開発を先行させる
車体傾斜システムを実用化したN700系
最新型N700Aはなぜ生まれたのか?
最先端の技術は使わない
第2章 いざ、製造現場へ ~豊川製作所探訪~
新幹線のふるさと豊川製作所
新幹線をつくる10の工場
工場見学1・アルミ合金の板を加工する
工場見学2・台車枠を溶接する
工場見学3・構体を組み立てる
第3章 未来に線を引く ~基本設計・詳細設計~
新幹線設計の大まかな流れ
設計は車両メーカー4社で分担
基本設計・詳細設計・生産設計の違い
内装から「コンセプト」を考える
内装材の化粧パネルの秘密
空調ダクトで空気の流れを読む
モックアップでトイレを研究
喫煙ルームでタバコを吹かす
できることは、とにかく全部やる
第4章 先頭に続け ~車体製造その1~
新幹線の先頭はなぜ尖っているのか
トンネル微気圧波対策とは?
空力性能に優れたN700系の先頭車両
先頭構体を構成する12ブロック
溶接には繊細な動きが必要
骨組を削るために機械工場へ
複雑な形の部品はアルミ削り出しで
現場を知る者だけができる作業
アルミ溶接には捨て材が必要
12ブロックで先頭構体を組み立てる
100点を目指す終わりのない旅
第5章 美しく、整える ~車体製造その2~
オイスターホワイトとディープブルー
ブラスト打ちで表面に傷をつける
防錆効果のあるプライマーを塗る
パテ付けには技量が問われる
サーフェイサーの二つの働き
トップコートは青から塗る
塗装現場の二人の専門家
伊藤さん自身の色に染める
塗装工程を終えて内装工場へ
客室に設けられたキャンバーとは?
車体は小さめにつくられる
内装の取り付けは大工仕事
すべての誤差を吸収する
第6章 安全の砦 ~台車製造~
はじめに台車枠を溶接する
台車枠溶接の2つの手法
歪み取りにはコツがある
重要な溶接部には特別な加工を施す
美しい溶接ほど強度は高い
溶接した台車は検査を受ける
芯出し作業用のお手製治具を開発
機械工場に送り加工する
プログラミングして終わり、ではない
新幹線への特別な思い
台車組立でモーターなどを取り付ける
機器の配置は点対称が基本
車軸を装着する意外な方法
台車は10日間かけて組み立てられる
自ら発明した治具で特許を取る
これまでの知恵をファイルに残して
第7章 スイッチを入れて命を吹き込む
納入前に完成検査を実施
試験は4両単位で行われる
およそ3万本の配線を1本ずつチェック
通電試験でトラブルシューティング
走行試験を行う構内運転士とは?
試験転線を3ノッチで走行
輪重測定は走行試験の後で
JR東海の浜松工場へ
新幹線に灯された火
〔おわりに〕わが心のG4編成16号車
面白かった本まとめ(2013年上半期)
<今日の独り言>
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この「新幹線をつくる」という本は、著者が2012年の夏から冬にかけて、東海道新幹線の新型車両であるN700Aを製造しているJR東海と日本車両製造株式会社の技術者・技能者たちにインタビューし、そのN700Aなど製造の技術や努力を分かりやすく明らかにしたものです。
新幹線はスピードをアップするだけではなく、騒音対策、空調の工夫、トイレの開発、「トンネルドン」を低減させる工夫、アルミ合金の活用、溶接の工夫、塗装の工夫など様々な改善が行われていて、さすが世界最先端の乗り物だなぁと感心しました。
さすが日本の技術です!
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以下はこの本のポイントなどです。
・東海道新幹線は1964年10月の開業以来、故障や不具合による重大な死亡事故を起こしていない。と同時に、東海道新幹線では定期列車だけでも1日に323本の列車が、東京~新大阪の約515kmをきわめて高密度に行き来している(2012年現在)。1300人以上の乗客を乗せた16両編成、全長400mの列車が、ラッシュ時にはわずか3~4分の運転間隔で、しかも最高時速270kmという猛スピードで疾走しているのだ。加えて、2011年度実績で1年間に走る全列車は約12万2000本あるが、その運行1列車あたりの平均遅延時間はたったの0.6分。これは地震やゲリラ豪雨など自然災害による遅延を含めての時間だから、通常であれば、ほとんど数秒の遅れしか記録していないのではないか。このように安全に、正確無比に、故障することなく、しかも驚くべき速さで、半世紀近くも走り続けている東海道新幹線。まさに「メイド・イン・ジャパン」の誉れというべきだろう。
・N700系は、車体傾斜システムの採用により、東京~新大阪間の所要時間を5分短縮した。また、同時期に開発された、連結部を完全に覆い、風切り音など外部からの騒音を低減させる「全周ホロ」、新型パンタグラフ、高性能セミアクティブ制振装置の採用などにより、居住性も向上させている。
・「N700Aの開発コンセプトは、「さらなる安全安定輸送の実現」と「700系との置き換えによる省エネルギー化」です。安全安定輸送に関しては、制動距離を従来より1~2割短くできる中央締結ブレーキディスク、鉄道車両の走行装置である台車の不具合を軽微な段階で自己診断できる台車振動システム、ATCの速度制限に沿って自動運転できる定速走行装置という3つの技術開発が柱になりました。また、今後700系をN700系Aに置き換えていくことで、1編成あたりの電力消費量を19%削減できます。
・新幹線の車体は、アルミニウムにマグネシウムやシリカなどを添加したアルミ合金でできている。かつての車体は鋼鉄製だったが、1992年にデビューした300系から、車体を軽くしてスピードアップを図るために、アルミ合金製に切り替えられたのだという。ちなみに、アルミニウム100%だと金属として軟らかすぎるため、マグネシウムなどを加えて強度を高めているそうだ。
・この日本車輌製造株式会社の豊川製作所では、新幹線だけでなく、国内の私鉄電車やアメリカ、台湾などに輸出される電車も数多くつくっている。製造する鉄道車両のうち5割が実は海外向けだという。
・N700系の製造に携わった車両メーカーは、日立製作所さん、川崎重工業さん、近畿車輛さん、それに日本車輌の4社ですが、実際にはもっといろいろな企業が関わっています。私たち車両メーカーがつくるのは、基本的に車体と台車の部分だけなんです。しかし、現実の新幹線を見ていただければわかりますが、もっといろいろな工業製品が積まれていますよね。たとえば、主電動機や車両・車軸などの駆動装置や制動装置、システム制御を行うコンピュータなどの電子機器、エアコンなどの空調機器、天井灯や前照灯などの照明器具、トイレ回りの水道設備などです。これらの多くは新幹線用に特別につくられる「特注品」ですから、それぞれの装置は、それぞれの専門メーカーが設計し、製造することになります。大手メーカーでいえば、東芝さんや三菱電機さんですね。そのため、実際に仕様を決め、基本設計、詳細設計と作業を進めていく際には、JR東海さんと私たち車両メーカー、さらには多くの機器メーカーさんとが長い時間をかけて作業をすり合わせながら進んでいくことになります。
・走行中の音や振動は、号車や座席位置によって意外に大きな違いがある。たとえば、パンタグラフの付いている5号車と12号車の車内では、パンタグラフによる風切り音が聞こえる。また、各車両の床下には、走行装置である台車以外に架線から送られてくる単相交流2万5000Vの電気を変圧するトランス、交流を直流に変換するコンバータ、さらには空調機器や電子機器など、様々な機材を積んでいる。しかも、その種類や配置は号車によっても違う。そのため、床下から聞こえる音や振動も、乗っている号車や座席位置によってかなり違ってくるのだという。しかし、座る座席によって騒音や振動に差があっていいhずはない。そこで、どの座席でも音と振動が均等に小さく感じられるよう、内装材の厚さを部分的に変えるなど、内装設計者はいろいろと頭を悩ませているようだ。「内装材が軽くなればなるほど、車両の速達性と省エネルギー性能は高まります。ところが、内装材が軽くなればなるほど、音の透過率が上がって、聞こえてくる車内騒音のレベルは上がってしまいます。そこのところのせめぎ合いというか、軽量化と遮音性のあいだでどうバランスを取っていくかが難しかったですね」
・700系とN700系では、実は座席シートの幅が変わっている。700系普通車の場合、3人掛けの両側A・C席と二人掛けのD・E席は幅430mmだったのが、N700系ではそれぞれ440mmに10mmずつ広くなったのだ(B席は460mmのまま)。この変化はもちろん、居住性・快適性を高めるため。とはいえ、ただでさえ限られた空間しか確保できない車内で、座席全体の幅が40mmも増えたことになる。その一方で、N700系は700系より、車体外形の全幅が3380mmから3360mmへと20mmも小さくなった。何度も書いているように、N700系は車体傾斜システムを採用したため、車体が傾いたときでも地上の建築物に接触しないよう、小さめに作らなければならないのだという。つまり、N700系は700系より外側の幅が20mm短くなり、内側にある座席の幅が40mm長くなっている。単純に計算すれば、客室の通路の幅が差し引き60mmも短くなってしまう。「そうならないために、60mmの差を構体や内装材で吸収することになりました。具体的には、座席がぎりぎり回転できるまで座席と化粧パネルの間隔を狭めるなど、涙ぐましい努力をしています。それでも遮音性は犠牲にできませんから、厚くできるところは厚くするなどして、トータルで遮音性を確保しました。このときの設計は、一手間、二手間加えていくという、細かな工夫の積み重ねでしたね」
・N700系では、客室の前後方向で空気の温度が変わらないようにしただけでなく、実は客室の左右方向でも、空気が均一に流れるようにしています。そのために工夫したのは、空調吹き出し口から吹き出す空気の角度と、荷物棚下面の曲面形状ですね。空気を室内に循環させたいときには、壁に沿って空気の流れをつくってやればいい。そこで、空調吹き出し口から荷物棚の下面に向かって、斜め上向きに空気をぶつけてやることにしました。そのとき、荷物棚の下面が上向きのカーブ形状になっていれば、吹き出された空気はそのカーブに沿って客室の天井まで上っていく。天井にぶつかる角度をうまくコントロールしてやれば、そこで空気が跳ね返って対流が起こり、吹き出された空気は通路付近に下りてきます。この状態がつくれれば、窓側の席と通路側の席とのあいだで、温度ムラが生じにくい。
・N700系を設計していたときは、作業工程の「基本設計」に入るか入らないかのタイミングで、随分いろいろなモックアップをつくりました。そのうちの一つが、われわれのチームが設計した多機能トイレのモックアップ。便座やおむつ交換台などすべて現物を配置して本物そっくりにつくり、自分自身が車椅子に乗って、トイレ内であちこち動いてみました。すると、実際には思いのほか動きにくくて、ちょっとした出っ張りがすごく邪魔になることがわかった。そこで、張り出した壁面を思いきってえぐるなど、図面をかなり手直ししたのを覚えています。また、オストメイト対応のトイレも初めて本格的につくったので、オストメイト用福祉機器の評価を行っている団体の人に関西から来ていただき、モックアップを見てご意見を頂きました。私たちの図面は、一般の方にはわかりにくいものなので、実際にモックアップの形にしてお見せすることはとても有意義だと思いました。
・N700系のグリーン車のカーペットについて。床下からの振動を低減させるため、乗客が座席に座ったときにちょうど両足を置く部分にのみ、カーペットの下にクッション材を敷いて、厚さを10mmだけ厚くしてあるとか。この処理に気づいた乗客は、おそらく一人もいないだろう。だが、この誰も気づかないような、ささやかなホスピタリティを実現させるために、大石さんたちは何週間もかけてクッション材を吟味し、振動計で何度もデータを取っている。こうと決めたら、妥協はしない。「できることは、とにかく全部やる」。大石さんの設計の仕事には、そんなすごみさえ感じられるのだ。
・トンネル微気圧波とは、自動車や鉄道列車が高速でトンネルに進入した際、トンネル内の空気が急激かつ一気に圧縮され、圧力波となって押し出される現象のこと。その圧力波は自動車や列車に先行してトンネル内を進み、トンネル出口付近で衝撃波となって「ドーン」と大きな破裂音を発生させる。「トンネルドン」とも呼ばれるこのような現象を考慮することも、新幹線では重要である。
・1992年デビューの300系では、時速270kmでの営業運転を可能にするため、100系よりも先頭車両の断面積を小さくした。が、トンネル微気圧波対策を徹底したのが、1997年にJR西日本が投入した500系だ。500系の先頭形状はロケットのように先の尖った円筒形であり、しかも先頭部が15mときわめて長かった。そのため500系は、東海道区間で時速270km、山陽区間で時速300kmと、当時最速の営業速度が実現できた。シャープな先頭形状を持っていたから加速がよくなったのではなく、シャープな先頭形状を持っていたからこそ、時速300kmで走行してもトンネル微気圧の影響が小さく抑えられたからだ。しかし500系は、この最高速度を手に入れるために、いくつかのものを手放した。まず、全長27mの先頭車両のうち先頭部だけで15mも使ってしまったため、先頭車両の客室面積が圧縮されてしまった。300系に比べ、1号車・16号車の定員が12名ずつ減ってしまったのだ。1車両16両で300系と同数の定員を確保するには、普通車での前後の座席間隔を20mm詰めざるを得ず、居住性が犠牲になった。また、スペース確保のために先頭車両の運転席寄りの客用扉を廃止したが、その結果1号車と16号車には乗降口が1ヶ所しかなくなってしまった。そのためラッシュ時には客の乗降に時間がかかり、それがダイヤの乱れにつながることもあった。
・これらの点を考慮しつつ、500系登場の2年後にJR東海が投入したのが700系だ。300系では6mだった先頭部分を9.2mまで伸長し、「エアロストリーム形状」という独自の流線型フォルムを採用したため、トンネル微気圧波をかなり抑え込むことができた。とはいえ、500系ほどの思い切ったトンネル微気圧波対策は取れず、最高速度は東海道区間で時速270km、山陽区間で時速285kmに留まった。
・遺伝的アルゴリズムとは、人工知能の分野で活用されている進化的計算方法のこと。簡単にいえば、人工知能事態が膨大なパターンの組み合わせを1秒間に1兆回もの速さで計算・シュミレートしていき、最終的に最適な値を見つけ出すというプログラムだ。その掛け算の様子が、両親の遺伝子を組み合わせたり、組み換えたり、突然変異させたりして生物が進化していく様子に似ているため、「遺伝的」と呼ばれる。ともあれ、N700系の場合は、膨大な数のパターンがある車体の断面積形状のなかから、最適と思われる形状が導き出された。N700系の、あのなんとも形容しがたい複雑な先頭形状は、こうして生まれたのだ。先頭部の長さは10.7m。700系より1.5m伸びただけ。にもかかわらず、トンネル微気圧波を500系並みに小さくできたため、N700系は東海道区間で時速270km、山陽区間で時速300km走行を実現したのである。
・東海道新幹線の車体に使われている白は、正式には「オイスターホワイト」といいます。色彩の国際的な基準であるマンセル値でいえば、N9.05.黒がN1.0、白がN9.5ですから、オイスターホワイトは純白よりも少しだけ黒に近い、つまりほんの少しくすんだ白になります。一方、東海道新幹線の青は「ディープブルー」。ブライトブルーともいいます。先ほどのマンセル値でいえば、4.5PB 2.5/7.8.色相が4.5PBでやや紫に近い青、明度が2.5でかなり濃いめの色、彩度が7.8でかなり鮮やかな色、ということになります。
・近藤さんのお話を伺っていて、内装工場は一つの「バッファ」なのだと強く感じた。内装工場に送られてくる新幹線の車体は、それまでにかかわった多くの技能者たちの努力の結晶だ。現図工場、鉄工工場、機械工場、ブロック工場、構体工場で働く技能者数百名分の、緻密で精度の高い仕事ぶりが1台の車両に集約されている。とはいえ、人間のやる仕事だから、どうしても誤差は出るだろう。その誤差を、各工程の技能者はなんとか自分たちのところで吸収しようとするが、吸収しきれない誤差がやっぱり残るのである。この工程に来るまでに少しずつ積み重なってきた、誤差や歪み。それらを最後に吸収するのが、近藤さんたち内装工場の仕事だ。そして全体の帳尻を合わせるために、内装工場の技能者たちはカンナやノミを振るって、自分たちにしかできない仕事をし、最終的には図面どおりに調整していく。
・台車は、鉄道車両の安全走行を司る最重要パーツである。N700系・N700Aの車輪径は860mm、1編成(16両)の質量は約700t。たとえば、N700系が時速270kmで走行しているとき、各車輪は5t以上の荷重を支えながら、1秒間に約28回という超高速回転をしていることになる。また、新幹線車両の台車検査はおおよそ走行距離60万km(東京~新大阪間580往復以上)ごとに行われるが、最初の台車検査の時点で、車輪の回転数はすでに2.2億回転以上に達している。これだけ酷使されても、絶対に壊れないこと。新幹線の安全性は、まさに台車の堅牢性・耐久性によって守られているのだ。
・鉄道車両の動力方式には、大きく分けて2つあるらしい。「動力集中方式」と「動力分散方式」。前者の例がかつてのSLやブルートレインだ。動力を持つ機関車が、動力を持たない客車を牽引するスタイル。だが、動力を1両に集中させ、その1両で長い列車を牽引する場合、高速走行したくても限界がある。そこで、新幹線はデビュー当初から動力分散方式を採用してきた。架線の交流2万5000Vを交流2000V程度まで落とす主変圧器、走行用モーターへの電力を制御する主変換装置など、動力を得るのに必要な重たい装置を1両にすべて積み込むのではなく、複数の車両に振り分けて積むことにしたのだ。0系・100系は必要な装置を2両に、300系は3両に、500系以降は16両中4両に分散。つまりN700Aも4両1組でないと走れないわけだ。そのため、走行試験を含むこの最終試験も、4両単位で行われるという。
<目次>
〔はじめに〕メイド・イン・ジャパンを見に行く
第1章 より速く、より安全に、より快適に ~コンセプト策定~
新型車両のコンセプトとは?
あくまでも技術開発を先行させる
車体傾斜システムを実用化したN700系
最新型N700Aはなぜ生まれたのか?
最先端の技術は使わない
第2章 いざ、製造現場へ ~豊川製作所探訪~
新幹線のふるさと豊川製作所
新幹線をつくる10の工場
工場見学1・アルミ合金の板を加工する
工場見学2・台車枠を溶接する
工場見学3・構体を組み立てる
第3章 未来に線を引く ~基本設計・詳細設計~
新幹線設計の大まかな流れ
設計は車両メーカー4社で分担
基本設計・詳細設計・生産設計の違い
内装から「コンセプト」を考える
内装材の化粧パネルの秘密
空調ダクトで空気の流れを読む
モックアップでトイレを研究
喫煙ルームでタバコを吹かす
できることは、とにかく全部やる
第4章 先頭に続け ~車体製造その1~
新幹線の先頭はなぜ尖っているのか
トンネル微気圧波対策とは?
空力性能に優れたN700系の先頭車両
先頭構体を構成する12ブロック
溶接には繊細な動きが必要
骨組を削るために機械工場へ
複雑な形の部品はアルミ削り出しで
現場を知る者だけができる作業
アルミ溶接には捨て材が必要
12ブロックで先頭構体を組み立てる
100点を目指す終わりのない旅
第5章 美しく、整える ~車体製造その2~
オイスターホワイトとディープブルー
ブラスト打ちで表面に傷をつける
防錆効果のあるプライマーを塗る
パテ付けには技量が問われる
サーフェイサーの二つの働き
トップコートは青から塗る
塗装現場の二人の専門家
伊藤さん自身の色に染める
塗装工程を終えて内装工場へ
客室に設けられたキャンバーとは?
車体は小さめにつくられる
内装の取り付けは大工仕事
すべての誤差を吸収する
第6章 安全の砦 ~台車製造~
はじめに台車枠を溶接する
台車枠溶接の2つの手法
歪み取りにはコツがある
重要な溶接部には特別な加工を施す
美しい溶接ほど強度は高い
溶接した台車は検査を受ける
芯出し作業用のお手製治具を開発
機械工場に送り加工する
プログラミングして終わり、ではない
新幹線への特別な思い
台車組立でモーターなどを取り付ける
機器の配置は点対称が基本
車軸を装着する意外な方法
台車は10日間かけて組み立てられる
自ら発明した治具で特許を取る
これまでの知恵をファイルに残して
第7章 スイッチを入れて命を吹き込む
納入前に完成検査を実施
試験は4両単位で行われる
およそ3万本の配線を1本ずつチェック
通電試験でトラブルシューティング
走行試験を行う構内運転士とは?
試験転線を3ノッチで走行
輪重測定は走行試験の後で
JR東海の浜松工場へ
新幹線に灯された火
〔おわりに〕わが心のG4編成16号車
面白かった本まとめ(2013年上半期)
<今日の独り言>
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