A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

阿部怪異/集団投射@渋谷WWW 2012.11.29 (thu)

2012年12月01日 03時25分14秒 | 素晴らしき変態音楽
doubtmusic presents 阿部怪異と集団投射

1.阿部怪異(JOJO広重g/T.美川electronics/吉田達也ds/isshee b)


最初に美川さんが阿部怪異の紹介。子連れ狼の悪役に30年前にインスパイアされ美川さんと広重さんを中心に活動し1982年に停止したユニット。今年非常階段で様々な活動をする中でまたやってみようという話になり、再結成になったとのこと。

MCが終わると美川さんが「ワンツースリーフォー!」と叫び爆音演奏がスタート。最初から飛ばすところは非常階段と同じだな、と思ったら1分強で演奏終了。即座に吉田さんが「ワンツースリーフォー!」とカウントし再び爆音、1分で終わり、次にissheeさんがカウント、以下この繰り返し。この辺で「非常階段を30秒ずつ演っている」と紹介されたピナコテカからの唯一のカセット作品のスタイルを踏襲していることに気づく。確かにカセット音源は短く編集された演奏の断片が繋ぎあわされたものである。

短時間演奏の連続といえば、JUKE/19の45曲入LP「JUKE/19」やゲロゲリゲゲゲの75曲入ライヴ盤「Tokyo Anal Dynamite/パンクの鬼」、モーガン・フィッシャー編集の51曲入コンピ「ミニチュアーズ」、ザ・レジデンツ40曲入「ザ・コマーシャル・アルバム」、ESPレコードのサンプラー42曲入「THE ESP SAMPLER」、1981年の「テン・ミニッツ・ソロ・インプロヴィゼイション・フェスティバル」の記録カセット等を思い起こす。



カウント~演奏の繰り返しを3周、3×4=12曲やったところで、長尺演奏に突入。広重さんと美川さんがフィードバック・ドローン・ノイズを鳴らす中吉田さんの超絶変拍子ドラムとissheeさんの脈動するワウファズ・ベースが響きノイズ演奏の絶頂に登り詰める。広重さんの速弾きノイズ・ギター、美川さんのスペーシーなエレクトロが桃源郷へ誘う。波が引いたところで再びカウント~演奏を1周やって終了。計算上は合計17曲になる。1分の演奏がそれぞれ違う表情を見せトータル40分間飽きることのない演奏だった。特に吉田さんのドラムとヴォーカルが際立っていた。


(動画の撮影・掲載については主催者および出演者の許可を得ています)

客席にコサカイフミオ氏の姿もあったので「一緒に演りたくなかったか」と聞いたら、客席から広重さんと美川さんの演奏を観れるチャンスは滅多にない、との返事。確かに演奏者は自分のバンドのライヴを生で観ることは不可能だからね~。

終演後美川さんに確認したら、阿部怪異はどらっぐすとぅあの常連客が経営していたライヴハウスで演奏する目的で結成されたユニットで、第五列とは無関係とのこと。

[12/1追記:阿部怪異の結成の経緯・メンバーについて美川さんから貴重な詳細情報をいただいた。『常連客が経営していた訳ではなく、常連客がメンバーとなって結成されたのです。そのハコ(蛍池クルセード)のオーナーだったのが、INUのギタリストだった北田君のお父上で、北田君は店長みたいなことをやっていたような記憶がありますが、自信はありません。存続期間も1年程度だったと思いますが、現在の非常階段の母体となった「腐食のマリイ」のライヴや最初の東京から遠征してきた角谷美智雄さん(故人)や工藤冬里さんとのセッションもそこで行われたのでした。かつて阿部怪異のメンバーだった人は、私と広重さん以外では、NGの林直樹さん、ジュラジュームの八田尚彦さん、Eel Ghostの猪狩亘さん(故人)、非常階段の岡俊之さん、海保有子(Woo)さん、ペコちゃんはエロティックスの藤本勝士さん、LD50(だったと思います)の坂本葉子さんといった面子が名を連ねていました。』]

バンドというよりコンセプトで、"カウント~演奏を3周→20分間演奏→また1周"という演奏形式のことだと言う。吉田さんとは80年代に一緒にコピー・バンドをやり、その後インキャパシタンツのライヴに参加してもらったことがある。広重さんは非常階段で共演したことがあると言っているが、たぶん勘違いで初共演の筈。非常階段ともインキャパとも違う一回限りの演奏は大変貴重なものだった。


2.集団投射(井野信義b/藤川義明as/今井和雄g/本田珠也ds)

集団投射はフリーのみならず日本ジャズ界の大巨匠、故・高柳”JOJO”昌行さんが提唱・実践した演奏コンセプトである。1969年に結成した「ニュー・ディレクション・ユニット」において「漸次投射(Gradual Projection)」と「集団投射(Mass Projection)」という二つの演奏=即興形態を提唱した。独特の音楽理論や演奏概念に基づいた思想を展開し、それ故に他のミュージシャンや評論家やライヴハウスとの衝突も多かった氏の演奏の中核にはこの二つのコンセプトが透徹していた。「漸次投射」は「沈黙に大きな役割を与え空間を浮かび上がらせる形態」すなわち<静>であり、「集団投射」は「聴き手が時間的経過についてのあらゆる感覚を失って連続体としてのサウンドしか意識しなくなるまで速度を速める形態」すなわち<動>である(「解体的交感」CD 佐々木敦氏ライナーより)。高柳さんの著述は膨大な量があるが、どれも難解かつ観念的で解読するのが困難である。手っ取り早く阿部薫さんとの共演盤か70年代のニュー・ディレクション・ユニット名義の作品を聴いてみればよい。少ない音数の中に生じる間(空間)の緊張感を伝えるのが「漸次投射」で、全員が徹頭徹尾全力で音を奏で続けるのが「集団投射」である。



井野さんと藤川さんはニュー・ディレクション・ユニットのメンバーだった。今井さんは高柳さんの私的スクール「高柳昌行煉塾」の唯一の卒業生。この3人で「集団投射」を名乗り2度ピットインで演奏した。今回初めてドラマーに若手No.1の本田氏を加えたカルテットでのステージ。

井野さんは広瀬淳二さんや坂田明さんとの共演で何度も観たことがある。今井さんは8月のノイズ温泉での激烈なソロが目に焼きついている。藤川さんは2003年8月に大泉学園in Fで灰野さんとベースの翠川敬基さんとのトリオで観た。本田氏も何度かピットインやスーデラで観ている。しかしこの四者が高柳メソッドを実践するとどうなるのか。

本田氏以外は阿部怪異のメンバーに比べれてかなり年長なのでルックスはかなり地味だ。しかし演奏が始まった途端に空気が音でパンクする。冒頭から全てを捨て去った激烈な演奏。機材トラブルで今井さんのギターの音が出ないが他の3人は誰も気にせず自分に没頭している。あたかもアクション・ペインティングのように音の上に音が重なり塗り潰していく。ギターが直ると俄然ヴォリュームアップの四つ巴。髪振り乱して弦を掻き毟る今井さんの迫力は恐ろしいほど。ノイズ温泉でのソロは「ひとり集団投射」だったんだな、と納得する。音量は阿部怪異より小さいが、そのエネルギーは上回っている。凄まじいのは40分間一瞬も立ち止まらず超ハイテンションの演奏が持続することだ。下手なノイズ演奏より格段にノイジーであり同時にテクニシャン揃いの奥深さが感じられる。音楽を聴くというレベルを遥かに超えたひとつの「体験」だった。終了後アンコールを求める拍手が起こるが、これ以上何を聴こうというのだろうか?案の定アンコールはなし。

本田氏におつかれさまと挨拶したら「ホント疲れたわ~」と疲労困憊の様子。美川さんによれば演奏前のミーティングで井野さんが「3時間くらいやろうか」と言っていたらしい。この演奏を3時間や演ったら演奏者も観客も別の次元にワープしてしまうのでは?究極の「Altered States=変性意識状態」になるであろう。

阿部怪異=80年代ロック、集団投射=70年代ジャズの即興の対決といえるイベントだった。同じ即興・ノイズでも大きく趣の異なる演奏を目の当たりにして音楽の深淵を垣間見れた素晴らしい夜だった。

怪異する
投射する
ノイズする

翌日は不失者、その次はMASONNAワンマンという濃厚な3日間の始まりである。
コメント (1)
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