A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

エリオット・シャープ@六本木Super Deluxe 2012.12.4 (tue)

2012年12月06日 00時29分52秒 | 素晴らしき変態音楽


Elliott Sharp's SysOrk:"Foliage" (2012)

出演:
エリオット・シャープ(ギター)
ジム・オルーク(ギター他)
臼井康浩(ギター)
八木美知依(21絃箏、17絃ベース箏)
横川タダヒコ(ヴァイオリン)
坂本弘道(チェロ)
パール・アレキサンダー(コントラバス)
山本達久(ドラムス)
高良久美子(パーカッション)
U-zhaan(タブラ)

ニューヨークを拠点としながらジャズ、ロック、ブルース、クラシックを自由に行き来する天才ギターリスト/作曲家、エリオット・シャープがオールスター・グループを率いてSDLXに登場!SysOrk(システムズ・オーケストラの略)と名付けられた10人編成の弦打楽団が演奏するのはシャープ作の最新グラフィック・スコア”Foliage”。プロジェクターを使って客席からも見えるように映し出される“Foliage”のスコアは、譜面・ヴィジュアル・アートのいずれとしても成り立っており、パフォーマー及びオーディエンスの聴覚と視覚を同時に刺激します。奇をてらったゲーム・ピースとは一線を画した“Foliage”はSysOrkをダイナミックな自己組織化アンサンブルとして機能させながら、演奏者1人1人の個性も最大限に引き出します。
Super Deluxe HPより)

エリオット・シャープの名前はジョン・ゾーン、クリスチャン・マークレー、アート・リンゼイなどと並ぶNYアンダーグラウンド・シーンの重鎮ミュージシャンとして20年前から知っていたが観たり聴いたりしたことはなかった。彼の活動はいち前衛ギタリストに留まらず、ブルースやワールドミュージック、現代音楽など多岐に渡り、サックスやエレクトロニクスを演奏したり、作曲家/プロデューサーとして映画・TV音楽や舞台音楽で活躍したり、カメレオンのように色を変え多面的で今ひとつとらえどころがなかった。2007年に制作された「Elliott Sharp: Do the don't」というドキュメンタリー映画には彼の様々な面が捉えられている。



エリオットが日本で知られるきっかけは様々な日本の音楽家とのコラボレーションであろう。何度か来日もしている。今年名古屋の前衛ギタリスト臼井康浩氏が2年ぶりのエリオットの来日ツアーを企画。全9公演は臼井氏とのデュオを中心に大友良英、八木美知依、ホッピー神山、ジム・オルークなどとのセッションを予定。その中でSDLX公演のみ冒頭に載せた告知にある通り演奏家よりも作曲家としてのエリオット・シャープに焦点があてられている。9人の演奏家も皆ひと癖ある個性派揃い。彼らによるシャープ作品が果たしてどういうものか予想がつかない。しかも事前に掲載されたグラフィック・スコアに一体どういう曲になるのか興味津津である。


2部構成で第1部は「KATALLASSO」と題された作品で世界初演とのこと。シャープは演奏せず指揮者に徹する。演奏者に合図しひとりひとり順番に音を出していく。シャープが指や身振りで指示を送るたびに演奏が変化する。指示は個別の演奏家に対するものの場合と楽団全員に向けてのものがある。譜面なしに即興で演奏されるので、ジョン・ゾーンのコブラに近い印象。ただし管楽器がない弦楽と打楽器のアンサンブルだからジャズではなく現代音楽に近い。特に坂本のチェロと横川のヴァイオリンが活躍し、レコメン系チェンバー・ロックの香りが漂う。徐々に盛り上がりまた潮が引くように弱音に戻る。起伏が余りなく視覚的にもシャープの指揮の動きしかないのでだんだん眠気に襲われる。ふと気付くと演奏が終わるところだった。


(動画の撮影・掲載に関しては主催者・演奏者の許可を得ています。以下同)

臼井氏にこの曲の譜面というか指示書を見せてもらった。
一枚の紙に5つの指示が書かれている。
1 グルーヴをつくれ
2 周りの人(の演奏を)を聴かずに即興せよ
3 周りの音を真似て即興せよ
4 他の人と違ったタイミングでグルーヴを作れ
5 逆に演奏をせよ
シャープの指揮はこの指示書の番号を演奏者に伝えていたようである。個々に違った指示を出すことで演奏のバラエティが広がる訳だ。指示に対してどう演奏するかは各人に任されているのでよほどの即興演奏の達人じゃないと曲として成立しない。それだけの力量を持ったメンバーが集まって初めて演奏可能な作品なのである。

それは第2部で披露されたグラフィック・スコア作品「Foliage」でさらに顕著になる。この曲は楽譜があるのでシャープもギターで演奏に参加。ステージ前方に設置されたモニターに映るスコアを見て演奏する。ステージ後ろのスクリーンに同じものが映写されるので観客にも何を演奏しているのか分かる仕組み。しかしそのスコアといったら!掲載されたものにはかろうじて楽譜の痕跡が残っているが、演奏が進むにつれスコアが滲んで溶けて流れ出し渦を巻き抽象絵画のような判読不明の文様になっていく。まるで水の上に垂らした絵具を掻き混ぜるように畸形化していく楽譜。それを解釈して10人のプレイヤーが演奏を続けていく。今度は譜面の変化に応じた演奏の流れが目に見えるので面白い。1時間を超える長時間の演奏は音だけ聴けば第1部と同様のミニマルな現代音楽だった。



ジョン・ケージ以来のアメリカ前衛音楽の伝統を継承するユニークな作品に未体験のNYシーンの深遠さを感じた夜だった。

エリオット
マーフィーは今
どうしてる

翌日発売されたばかりのNYアンダーグラウンド・ロックの雄ソニック・ユースの1985年のライヴCDがamazonから届いた。ニューヨークはやはりエキサイティングな街である。


コメント (2)
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