ももクロの表紙につられて手にした「日経エンタテインメント」最新号に2012ヒット番付が載っていた。そこに久住昌之の名前を発見しアレレとプチサプライズ。というのも数日前に”オレの庭”=Book-Off 250円CDコーナーで久住昌之&Blue Hipの「自由の筈」というCDを購入しiPodで聴いていたところだったのである。誌面にはグルメマンガ『孤独のグルメ』や『花のズボラ飯』がヒットしドラマ化。"デビューから30年にわたり「食」マンガを描き続けてきた著者が、50歳を超えてのプチブレイク"と書いてある。久住は30年前泉晴紀と組んで「泉昌之」として「ガロ」を中心に活躍。「かっこいいスキヤキ」「プロレスの鬼」などの漫画は当時のサブカル好き学生の愛読書だった。そのころ泉昌之 & THE TRENCH COATSとしてソノシート「TAKE THE "K" TRAIN /かっこいいスキヤキの食べ方」をリリースした。何処か間抜けなハードボイルドという漫画のイメージを音像化したサウンドはナゴム系やコンクリーツ等コメディタッチのニューウェイヴと共通していた。有頂天の1stピクチャーLP「土俵王子」は泉のイラストだったから音楽面でも付き合いがあった筈。30年ぶりに聴く久住のCD(発売は2006年)ははっぴぃえんど風のアーシーな演奏に明朗なヴォーカルで思わず笑みの零れるとぼけた歌詞が唄われる秀作。「四畳半ビョーク」「馬鹿でよかった」「死体戦隊ホトケンジャー」等曲タイトルだけでオカシな世界がわかるだろう。今年ドラマ化された「孤独のグルメ」のサントラでは「スクリーントーンズ」を名乗って音楽を担当している。
漫画家が音楽活動をした例はいくつもある。真っ先に思いつく有名どころは恐怖マンガの第一人者梅図かずお。作詞家として郷ひろみや近田春夫のヒット曲を手掛ける一方で1975年に自作自演の「恐怖のアルバム」を発表した後「まことちゃん」絡みのコミックソングを連発、昨年「闇のアルバム2」をリリース。近年は執筆よりもタレント活動が多い梅図だが、ロックからフォーク・シャンソン・演歌まで歌の才能も高く評価されている。
イカ天でデビューし人気を得たのがみうらじゅん率いる大島渚。やはり漫画家の喜国雅彦や写真家等による所謂”業界バンド”だったがバカバカしいほどロック魂溢れる「カリフォルニアの青いバカ」で初登場した時は衝(笑)撃的だった。当時「ビックリハウス」「宝島」で活躍していたみうらだが元々ボブ・ディランの大ファンで長髪サングラスがトレードマークだった。80年代初めには糸井重里の「モッズヘアいいね」という言葉を聞き、どうやらモッズヘアと言えばテクノカットにしてくれると思い込み、高円寺の床屋へ行って「モッズヘアにして下さい」と注文し店内を凍りつかせた伝説もある。イカ天でブレイクした後に「見仏記」「マイブーム」「フェロモンレコード」「ゆるキャラ」「色即ぜねれいしょん」など社会現象ヒットを次々飛ばす。1994年には元ばちかぶりで俳優の田口トモロヲと「ブロンソンズ」を結成。やはりバカバカしいロックアルバムを発表している。
「シニカル・ヒステリー・アワー」「いまどきのこども」でカワイくも不気味な子供の世界を描き人気を博した玖保キリコは”日本のレジデンツ”=ピッキー・ピクニックに参加した。今でいう宅録を80年代初頭に実践していた謎のテクノユニットでデビュー・アルバムがドイツのアヴァンポップレーベルATATAKからリリースされ話題になった。玖保はそのアルバムの後にヴォーカルで参加し"こどもニューウェイヴ"を展開した。現在奈良美智が描く残酷なこどものルーツ的存在だった。
アングラシーンでカルト的な人気を誇る漫画家・イラストレーターの宮西計三は当初から独特の音楽活動を行っていた。1983年にリリースされた宮西率いるOnnaのシングル盤「コルティジアーナ・ダル・ベーロ」はエロティックなジャケット通りの濡れたアシッドフォークの傑作。2009年にアメリカのレーベルから未発表曲入りでCD化された。2007年にはOnnaの10数年ぶりの新作「片羽」をリリース。現在も舞踏家・薔薇絵をパートナーに地下世界で耽美的な演奏活動を続けている。
「けいおん」のヒットに象徴されるように漫画・アニメとロックの関係は親密で他にもロックする漫画家は多いに違いないが、ここに挙げた漫画家は皆極度のマニア性を持った個性派揃いである。久住は三鷹生まれで梅図は吉祥寺に有名なまことちゃんハウスを構えている。また久住は1999年第6回みうらじゅん賞の受賞者である。こういう繋がりが発見できるから探求は辞められない。
漫画家は
ロックに憧れ
ロッカーは
漫画に憧れる
海外でもロックとコミックは切り離せない関係がある。