A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

上原ひろみ@東京国際フォーラム ホールA 2012.12.9 (sun)

2012年12月11日 00時22分41秒 | ガールズ・アーティストの華麗な世界


上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト
feat.アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップス
『MOVE』 日本ツアー2012

上原ひろみの最新作「MOVE」のレコ発来日ツアーは11/14(水)赤坂BLITZから始まり全国計18公演。その最終公演が国際フォーラム2Days。八八、キノコホテルと2Days公演が3つ重なったのも何かの縁か。結果から言うとひろみちゃんは八八、キノコのいずれにも負けない立派な変態音楽だった(褒め言葉です)。もちろん二日間で動員1万人と一桁以上違うが変態は変態。こんな怪奇骨董音楽箱が1万人も人を集めCDがオリコンアルバムチャートで上位にランクインするというのは八八以上の音楽界の七不思議の筆頭であろう。

何が凄いって終演後の観客の会話が→30代女性(嬉しそうに)「あ~すっごく疲れました」60代男性(満面の笑顔で)「そーだろ。肩が凝っちゃうんだよね」・・・野外オールスタンディングでモッシュの嵐の激しいロックフェスならまだしも室内着席のジャズ・コンサートである。大人しく座って観て何故疲労するのか?かくいう私も2時間極度の緊張に晒され終わった後身体の節々が痛かった。身体のどこかに余計な力が入っていたのだろう。緊張というより緊縛か。一瞬たりとも気を抜けないトリオの超高密度のバトルに精神的亀甲縛りの責め苦を受けている状態なのである。

▼参考図(注:あくまで個人的な妄想でありひろみちゃんとは一切関係ありません)


ひろみちゃんはMCで「今日ここでしか出来ない一度限りの演奏を楽しんで」と語っていたが、まさにその通り。CDやDVDとは全く違う生演奏の迫力は5000人の大ホールを一瞬にして狭いジャズクラブに変えてしまった。というのはどんなにステージから遠くてもトリオの演奏にはあたかも目の前で奏でているかのような血の飛沫と丁々発止の喧噪を肉感出来るのである。脳髄に直腸浣腸されたかの如く前頭葉が痙攣する快感。

▼参考図(同上)


このような責め苦を自ら進んで享受しようという人が1万人、いや全公演でのべ5万人もいるという謎を解明出来たらこの国の抱える諸問題は一気に解決してしまうかもしれない。いやそれは既に起きてしまったという説もある。ジャズ/クラシックはロック/ポップスと違って公に「芸術」としてのお墨付きを得ている。ひろみちゃんも出演したジャズフェス、東京JAZZの後援は東京都、文化庁、千代田区といった政府・地方自治体だし、クラシックの祭典として1985~2009年に開催された<東京の夏>音楽祭は芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した。一方フジロックやサマーソニックなどロックフェスのスポンサーは一般企業だけである。スポンサーなしで頑張っている地方の夏フェスも多い。この差は一体何なのか?最近でこそ政府がゲーム・アニメ等アキバ系カルチャーの輸出に乗り出し海外で国際ゲーム・アニメフェスが開催され、そのアトラクションで日本の若手ポップス・アーティストのショーケースが行われるようになったが、一昔前まではポップ・カルチャーの海外進出に政府が金を出すなんてあり得なかった。少年ナイフや灰野さん、メルツバウ、非常階段など海外で高く評価されるアーティストは皆手弁当で持ち出し覚悟で海外公演に挑んだ。文明の上っ面だけ舐めて悦に入っているお役所は今でもヲタを海外に派遣すればオッケーと思い込んでいる。文化軽視ガバメントには何も期待出来ない。

▼参考図(同上)


それはさておき、アイドル・イベントのヲタ芸、ザ・クロマニヨンズの全員ヒロト状態、綾小路きみまろの「きみまろトランス」に匹敵する「上原ひろみ緊縛の集い」に嬉々として弄ばれる観衆は全員家畜人ヤプーなのであろうか。人類の歴史をSMの歴史として描いた作家が鬼団六でありそのポップ・アイコンが谷ナオミであった。両者の関係は以前本稿で考察した"中田ヤスタカ+きゃりーぱみゅぱみゅ関係論"にも置き換えることが出来る。

▼参考楽曲(同上)



だからといって"ピアノを弾くひとりパフューム"=上原ひろみがサディストという訳ではない。ステージ上には"太鼓を叩くラモス瑠偉"ことサイモン・フィリップスとウクレレの代わりに"ベースを持ったKONISHIKI"=アンソニー・ジャクソンという二人の冷酷な求道家が顔を並べる。ラモスじゃないやサイモンは「ナマチュウ」に加え「辛めのアツカン」と日本語が上達しているそうだし、アンソニーは合羽橋で買った食品サンプルでスタッフを驚かせて喜んでいるという。ふたりとも素顔はお茶目な紳士なのだ。しかしこの3者が一同に会し三つ巴のタッグを組んだ時ステージは修羅場と化す。ひろみちゃんの繰り出す複雑怪奇な変拍子の嵐が二人の鬼により拡張され開示された跡には累々と横たわるフレーズの屍が残されるのみ。その死骸は地に伏すと同時にゾンビのように蘇り聴き手に容赦なく襲いかかる。その間にも三人の死闘は続いているので生きた音塊とゾンビの残響が頭の中で絡み合い反発しあい頭蓋を破壊せんと暴れ回る。恐ろしいのは3人が意気揚々と笑顔で殺戮行為を行っていることである。ここまで厳しくここまで破壊的でここまで生の喜びに満ちたテロリズムが存在しただろうか。













ジャズやクラシックといえば「癒し」「ヒーリング」などと紐づけられ多くのリスナーを惹き付けるものだが、その正反対に位置する"The Art of Hiromi"の極致がこのトリオであり、本来なら、風営法で禁止される「肩が揺れ」「踵が浮いた」肉体動作を実践してマゾヒストの如く享楽に耽りつつ楽しむべきものなのかも知れない。



<Set List>
第1部
1 MOVE
2 Endeavor
3 Brand New Day
4 Delusion
5 Desire

第2部
1 Labyrinth
2 Rainmaker
3 Margarita!
4 Place To Be
-Suite Escapism-
5 "Reality"
6 "Fantasy"
7 "In Between"

Encore 11:49PM

動き(MOVE)出せ
ここにいる(Place To Be)こと
声(Voice)上げて

ラモスじゃなくてサイモンが2バス・ドラムを叩きまくっていたことが、これがジャンルを超えたプログレハードコアであることを象徴していた。






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