Stoned Soul Picnic Vol.50
向井千惠&いとうまく&工藤冬里/蔦木俊二/Maher Shalal Hash Baz/ソルジャーガレージ with しまりえ子
Stoned Soul Picnicは伊藤まく(現いとうまく)主宰ジャパノイズ・ネット独自企画ライヴとして2003年3月にスタートした。Vol.1は横浜駅近くの美術予備校の駐車場(!)が会場だった。出演は伊藤まく(g)+Novko(さとうのぶこ、舞踏)+長久保(B,ex.C.C.C.C.、宇宙エンジン)+あだち麗三郎(Per)等。Vol.2は今はなき代官山クラシックスで、まく+タバタミツル他の共演に加えイギリスからCindy Talkが出演。Vol.3はマリア観音(木幡東介)等。以来9年半も続きこの日で50回目の開催を誇る長寿イベントである。ノイズ~ポップを自由に泳ぎ廻る伊藤まくの様々なユニットを中心に若手からベテラン、海外アーティストが多数出演している。パンクやノイズ・オンリーのイベントは他にもいくつか開催されているが、ジャンルを限定せず現代日本カルチャーの地下水脈を掘り起こし個性的な音楽家や舞踏家を紹介するこのイベントの意義は大きい。私は灰野さんが出演した同イベントに何回か参戦したことがある。灰野さんとまく氏のデュオは2008年12月のStoned Soul Picnic Vol.19から「沙無座」というユニットになり今年11月の青山ノイズVo.4で3回目の出演。灰野さんの多彩な活動の中でもまくのコアに偏らない演奏が独特のアヴァンポップ・ワールドを現出するユニークなユニットである。因みに「青山ノイズ」は2010年8月から始まったジャパノイズ・ネット企画イベントでStoned Soul Picnicシリーズの拡大版といえる。
記念すべきVol.50 には正に現代を代表する個性派アーティストが出演した。イベント告知ビデオをご覧いただきたい。こうした小規模なイベントの告知ビデオを作成すること自体、一部のマニアではなく幅広いリスナーにアピールしようというまく氏の基本姿勢が伺える。
平日の夜にも関わらずShowBoatにはなかなかの賑わい。
トップはイラストレーターでもあるギターインプロヴァイザーの清水沙=ソルジャーガレージとダンサーしまりえ子のデュオ。ソルジャーガレージについては知人から「灰野さんに似た若手アーティストがいる」と勧められいつか観たいと思っていた。ルックスは灰野さんとは対極の短髪ベースボールキャップのDJ風。ギターは最初ジャズマスターかと思ったらテスコのヴィンテージだった。このギターのクリアトーンの音が素晴らしい。深いリバーヴは確かに灰野さんっぽいが、その演奏には情念性とは逆の無機的な即物性が感じられる。歪ませても透明感溢れるサウンドは昨日のバニビじゃないが北欧の風が吹くようだ。ECM系北欧ジャズやポストロック/音響派に近い感触。共演のしまのダンスは身体のしなやかさを十二分に発揮した滑らかな動きで解き放たれるギターの深いリバーヴの海の中を泳ぎ回る。極めてストイックでクールな空間を産み出し30分間夢想の旅に誘ってくれた。
(撮影・掲載に関しては主催者・出演者の許可を得ています。以下同)
続いて工藤冬里率いるマヘル・シャラル・ハシュ・バズ。観るのは久々だが、6月の新宿シアターPOOのライヴでは演奏はほとんどせず寸劇めいたナンセンスなパフォーマンスに終始したと聞いていたから一体どんなステージなるのか不安かつ楽しみだった。彼らのライヴに何か期待や先入観を持って挑むと必ずはぐらかされることになる、ということは身をもって体験してきた。音合わせだと思ってたらそれが本番だったり、途中で練習が始まったり、突然不可解な行動に出たり、冬里氏の演奏姿勢は常に観る者を戸惑わせることを狙っているのでは?と思っていたら、配布されたフライヤーの紹介欄に「劇団としてのバンドを率いる」と書かれており妙に納得した。噂に聞いた新宿公演に比べればこの日のマヘルは30分間一応ちゃんと曲を演奏しただけでもまともなパフォーマンスだったといえる。6人のメンバーは譜面を見て演奏、冬里氏はパソコンに映し出される詩を朗読する。3.11以来冬里氏のパフォーマンスはメロディーではなく言葉の洪水に変わった。ソロやセッションでも詩の朗読が大きな比重を占める。「地震」「津波」等震災をイメージさせる言葉も出てくる。震災の影響について話を聞きたいものだ。たぶんはぐらかされるだろうけど。
3番手は青山ノイズにも出演した突然段ボールの蔦木俊二の弾き語りソロ。前回「酔っ払っている」と言っていたがこの日もライヴ前に焼酎の瓶が4分の1に減っていた。青山ではケヴィン・エアーズやビートルズ等のカヴァーも歌ったが今回はオリジナル曲のみ。突段の既発曲や新曲をアコギ弾き語りで披露。前のめりの性急な歌い方がフリクションやミラーズ等東京ロッカーズを思わせる。当時の突段は東京ロッカーズとは次元の違う別格の存在だと思っていたが、30余年経ってみて逆に80年代初頭のスタイルを継承している感じなのが面白い。
最後にスペシャル・セッション=向井千惠&いとうまく&工藤冬里。元々は「いとう向井」に冬里を迎えるという趣旨だったらしい。ステージにはエレピ、ドラムス、マイクスタンド2本がセットされる。全員がマルチプレイヤーなので誰が何をいつ演奏するか予測不可能である。SEが鳴ってるうちに冬里氏がアコギをポロポロ弾き始める。例によって音合わせかと思ったらそのままセッションに突入。向井がドラムをまくがテレキャスを演奏しヴォイスを被せるが我関せずとアブストラクトなフレーズを奏で続ける冬里に支配されたようにベクトルが定まらない演奏。纏まらないまま向井がエレピ~胡弓に移るが方向性は見えない。結局アコースティック版アモンデュールといった風情の混沌が40分続きそのまま終了。メンバー紹介でまく氏が「工藤さんは橋下に似ている」と言うと冬里氏が「あいつ嫌いなんだよね」と返すオチがついた。即興本来の原初の形と考えればこんなセッションも充分あり。よくあるフリージャズ崩れのモードを引き摺った即興やただのメチャクチャ似非インプロとはレベルの違う演奏だった。まく氏によるとリハでは「歌モノ」だったとのこと。共演者にとっても予定調和が通用しない冬里氏の本領発揮だったようだ。
繰り出そう
イカれた魂
ピクニック
<孤高のギターインプロ2作>
●ソルジャーガレージ「赤い星」
●蔦木俊二「ソロ&デュオ インプロヴィゼーションズ」