「雑煮音鍋セッション祭vol.3」
BIGスパゲティ企画
出演:
セッション:
1st set:灰野敬二(g,vo)+松居徹(g/DMBQ)+HIKO (ds/GAUZE)+平野イサム (ds/exマリア観音) +岩見継吾 (b/exミドリ) +池田ゴッホ(銅羅/BIGスパゲティ)
2nd set:灰野敬二 (g,vo)+庄田次郎(tp.sax...)
バンド出演者:BIGスパゲティ/KIRIHITO/ねたのよい/スギムラリョウイチ
BARスペースでの演奏:JON(犬)/ひしょちの穴 ● ひしょち (ぱやよしsax) + 濁朗 (syn)/渡邊知樹(似顔絵描きます)
DJ:川口雅巳(川口雅巳ニューロックシンジケイト)
司会:てっちゃん+コマツ(デアデビル、我々)
雑煮音鍋(ザツニオトナベ)セッション祭はバンドBIGスパゲティが企画するその名の通りお祭りセッション・イベントである。2011年8月から開催され1Vol.1はダモ鈴木、Vol.2は巻上公一をゲストに迎えた。今回のVo.3は灰野さんを迎えてのセッション。
このイベントを知ったのはメイン企画者の池田ゴッホのブログだった。今年5月下旬に次回イベントのゲストとして灰野さんに出演依頼しようと思いついた時から灰野さんのライヴに通い交渉、許諾を得てから他の出演者のセレクション、イベントの内容・告知、実施まで心のトキメキや緊張を事細かに描いたブログは心底面白い読み物になっている。イベント企画者の夢と苦労の生々しいドキュメントである。これを読んで感動し連絡を取りFBの友達になった。通っているライヴが重なっていて何度かニアミスしたのだが、ある11/29ライヴで初めてお会い出来た。レゲエっぽい風貌がファンキーだがブログの文章通り誠実で一途な熱血青年だった。
実は私も数年前に灰野さんのライヴ企画を打診したことがある。灰野さん自身もOKと言ってくれたが、当時の灰野さんのブッキング・マネージャーから「今までの"ファンとアーティスト"の関係から"企画者と出演者"の関係に変わり、会場・機材の手配やギャラの支払い等責任が生じることになるが覚悟は出来てるか」とのメールが届き正直ビビってしまい不安に苛まれた。そのことを灰野さんに伝えると「誰かが無理するならやらない方がいいんだよ」と諭され肩の荷が下り企画は諦めた。以来好きな音楽に対してはあくまでファンの立場を貫くことにした。
だからイベントを企画する方には心から敬服する。音楽好きが高じて"自分が観たい"ライヴを企画するようになったのだろう。イベントを成功させるために一生懸命考えて告知や宣伝に精を出すが必ずしも成功するとは限らない。持ち出しの場合もあるかもしれない。しかしお金の問題ではなく理想のライヴの実現への夢が彼らの原動力なのだろう。私がブログに賭ける情熱に近いが彼らは金銭面以上にアーティストとの関係性の逆転というリスクを背負っている分、大きな尊敬に値する。
今回のイベントの出演者は雑煮音鍋常連もいれば初参戦組もいる。その経緯についてはゴッホ氏のブログに詳しい。タイトル通り様々なスタイルごちゃ混ぜのワンナイト・ロック・フェスといった趣だが、よくぞここまでユニークな面子を集めたものだと感心する。誤解を覚悟で言えばキーワードは「トライバル&サイケデリック」だろうか。灰野さんが嫌煙家なのでBARスペース以外禁煙との告知が会場内の掲示・アナウンスで何度も繰り返される。お陰でホールでは気持ちよく観戦出来た。
EARTHDOMに着くと既に最初のスギムラリョウイチが演奏していた。フォークギターの弾き語り。オープニングにはいい感じ。続いてねたのよい。高円寺周辺の地下ロック・シーンでは有名なバンドでいつか観たいと思っていた。全員腰までのロングヘアーと仲屋むげん堂風衣装はBO NINGENや下山(Gezan)、小さいテレーズの系譜に繋がるが彼らならではの強力なオリジナリティを持っている。サウンド的には村八分を思わせる土着ロック。MCで「ガンジャは吸っちゃダメですか?」と言うのも納得出来るラリったロックが気持ちいい。UFO CLUBあたりで長髪ロックイベントをやったら面白い。
(撮影・掲載に関しては主催者・出演者の許可を得ています。以下同)
ホール(メイン・ステージ)とBARステージで交互にライヴが進行する。次はBARでひしょちの穴 =ひしょち (sax) + 濁朗 (syn)。フリーキーなサックスが浮遊する電子音と絡み合っていい感じだがいかんせんBARスペースは喫煙可なのでタバコの煙が耐えられず途中で退散。
ホールではKIRIHITO。会場にP-VineのTADZIOのディレクター氏がいたので久しぶりと挨拶。KIRIHITOも担当とのこと。この二人組は何度か観たことがある。TADZIOやガガキライズ、最近ではチャットモンチーまでベースレス・デュオが増えているのには低音離れの傾向があるのだろうか?KIRIHITOの変態ハードコアが炸裂、前列ではパンクの革ジャン・Tシャツを着た若者が盛り上がっている。活動歴20年を誇る演奏力はタダ者じゃない。たまの石川浩司似のドラマーのパフォーマンスが楽しい。
BARでJON(犬)。煙を我慢して最初だけ観る。彼女も何度も観ているベテランだがそのほのぼのした不思議な世界は唯一無二。アングラ系イベントの常連だが幼稚園などで幼児の前で演奏したら大ウケに違いない。
企画者池田ゴッホ率いるBIGスパゲティ。g,b,sax,dsの4人組。皆一癖ありそうなルックスなのにドラマーだけふつうのおっさん風なのが可笑しい。しかしこのおっさんのドラミングはなかなか凄かった。基本的にお祭りビートのアゲアゲバンド。ゴッホ氏は飛び跳ねながら歌い客席に乱入してくる。ぐいぐい客を引っ張っる祭りだワッショイ精神がバンドだけじゃなくこのイベントの本質なのだと実感。
お待ちかねの灰野敬二セッション。第1部は選りすぐりのメンバーのロック・セッション。のっけから灰野さんの気合いの入ったギターが爆発、混沌とパワーに満ちた演奏が展開される。KIRIHITOで最前列で踊っていた革ジャン青年は元マリア観音の平野だったが今度はChaos UKのTシャツを着て切れ味鋭いドラムを聴かせる。DMBQの松居はアームを駆使したハイトーンのフレーズを奏で、岩見はミドリ時代のトレードマークのアップライトベースで柔軟かつ重厚なビートを繰り出す。素晴らしいカオスが10数分続いたところでトラブル発生。突然灰野さんのギターの音が出なくなったのだ。エフェクターの電源プラグが抜けたのにスタッフが気がつき直すがまた切断。それが3回続きキレた灰野さんはアンプを蹴り倒して退場。ステージは勿論客席にも緊張が走る。そのまま演奏放棄かと焦ったがさすが百戦錬磨の灰野さん、数分後に手ぶらで再登場し激烈なヴォイス・パフォーマンスを展開。演奏もテンションが高まり嵐のような激しいセッションに発展。まさに怪我の功名の迫真ライヴだった。
第2部はニュージャズ・シンジケートの庄田次郎とのセッション。ニュージャズ~は1970年代に庄田、原尞(p)、宇梶昌二(ts)が中心になって結成された組織でプロからアマチュアまで多くのフリージャズ・ミュージシャンが参加した。阿部薫や近藤等則もよく参加していたらしい。その中心人物が庄田で現在でも毎年夏に伊豆下田でフリージャズ&アートイベント「スピリッツ・リジョイス」を主催している。灰野さんとの共演は30数年ぶりとのこと。トライバルなメイクをした庄田のトランペットに灰野さんは微音ギターで応える。微に入り細に入ったプレイは第1部とは打って変わった静寂演奏。岩見と平野が加わり徐々にグルーヴを産み出す。後半は轟音ギターとサックスが泣き叫ぶ爆撃ハードコアジャズ・セッションに突入。祭りに相応しい盛り上がりで終了。後で聞いたら岩見と平野の参加はサウンドチェック後に「イベントの最後が静かなジャズじゃ収まらない」と灰野さんが提案したとのこと。灰野さんの閃きが見事に当たり恍惚の嵐が会場を吹き荒れた。
アクシデントはあったもののライヴ演奏にハプニングはつきもの。結果良ければ全て良しとは言わないが充実した祭りをどうもありがとう。
スパゲティ
食べて踊って
銅鑼鳴らせ
雑煮音鍋セッション祭vol.4のゲストは遠藤ミチロウとJOJO広重に決まりそうとのこと。80年代を象徴する過激派パンクとノイズの激突にどんなハプニングが起きるか楽しみだ。
<灰野敬二ライヴ情報>
12.21(金) 六本木SuperDeluxe SDLX十周年記念ワンマンLIVE 不失者
12.24(月・祝) 秋葉原CLUB GOODMAN 「静寂」 Last Live ブラック・クリスマス
12.30(月) 高円寺ShowBoat 灰野敬二 ワンマンライブ
2013.1.27(日)東高円寺U.F.O. CLUB U.F.O.CLUB 17周年記念 灰野敬二ワンマンライブ
LIVE:灰野敬二 [ゲストミュージシャン; 菊地成孔, やくしまるえつこ]