やんてらの冬の総力戦「年の瀬の真空地帯」
グンジョーガクレヨン/ju sei
この日はManda-La2で割礼、Bar IssheeでDFH-M3(日野繭子+JUNKO+大西蘭子)+ASTROと興味深いライヴが重なった。知人やツイッターのフォロワーの方の多くは21日不失者→22日割礼→23日山本精一/石原洋@UFO CLUB→24日静寂@Club Goodmanの4連荘コースの様子。
その中でグンジョーガクレヨンを選んだのは園田、組原のお二人と知り合いということもあるが、前回サプライズ参加だった園田が本格復帰して初のライヴを見逃したくなかったのが最大の理由である。1980年衝撃のデビュー以来30年余りに亘ってアヴァンギャルドの最前衛を歩んできたこのバンドは現在も刻一刻と進化/深化を続けているのだ。
グンジョーが現在も活動していることを知ると「まだやってるとは!」と驚く人が多い。彼らの1st 12"「GUNJOGACRAYON」(1980)は時代を象徴する傑作である一方でその印象の強烈さ故に以降の彼らの活動に影を落としていることは間違いない。1980年代初頭のニューウェイヴの狂騒の中でフリージャズ・前衛音楽・地下芸術を出自とするグンジョーガクレヨンもパンク・カラーにコーティングされ"異端のニューウェイヴ"として喧伝された。その総本山のPass Recordsが1981年に活動休止すると共に存在自体抹殺されてしまった。
▼2008年に脱退し現在岡山在住の大森文雄氏を含むメンバーの方々から貴重な写真をいただいたので80年代のライヴ音源でスチール動画を作った。若き日のグンジョーをご覧あれ。
1986年にDIWから2ndアルバム「gunjogacrayon」をリリース、ロックの枠組みから解放され本来の自由度の高さと異形の存在感を明確に示すがロック・シーンからは無視に近い仕打ちを受ける。反応したのは前作では無縁だったジャズ・前衛芸術界だった。メンバーはその評価をとても喜んだという。
▼2ndアルバム全曲。CDは入手可能なので是非高音質で聴いていただきたい。
1994年にかつてのレーベルメイト突然段ボール主宰の日本カセットテープ・レコーヂングから3rdアルバム「群青」をリリース。少数限定盤だったため即完し熱心なファン以外には届かなかった。内容的には2ndをさらに深化させたフリーフォーム・ミュージックの純粋結晶といえる。このアルバムは日本カセットテープ・レコーヂングからボーナス・トラック入りでCDR再発されている。在庫があるうちに注文すべし→注文はコチラ
▼2005年10月前橋ガーシャにて突然段ボールと。
ただしグンジョーガクレヨンの魅力は録音作品には捉えきれないという大きなハンディがある。ライヴ映像でわかるように組原の異様な動きから放たれるギター・ノイズと舞踏家である園田の不条理情念パフォーマンスを体験しなければ理解不能な表現行為なのである。
もうひとつ指摘すべきは彼らの集合体としての強固な結束である。1979年に結成し吉祥寺マイナーで活動したが、当時灰野さんや山崎春美、工藤冬里、竹田賢一などが様々なメンバーと離散集合を繰り返し流動的なシーンを形成していたのに対し、グンジョーは5人でスタジオ練習に打ち込みバンドとしての完成度を磨くことに専念した。それ故5人の演奏の完成度が高過ぎて他のミュージシャンの侵入を拒むところがあったのかもしれない。1981年初来日時に共演したフレッド・フリスはグンジョーを「インプロヴァイザーとしての柔軟性を備えておらず、単なるジャム・セッションの域を出ていない」と酷評した(1981年10月発行 Fool's Mate Vol.18)。裏を返せばバンドとして堅固なグンジョーの壁をフリスが超えられなかったとも言えるのではなかろうか。
当時の資料を調べてたらいくつかグンジョーに関する情報が見つかった。
・大里俊晴BOX「タカラネタンチョトタカイネ」付属 伝説のマイナー図解:複雑に入り組む相関図の中でグンジョーとグランギニョルだけが独立してマイナーに直接紐付けられ他者との繋がりは記されていない。
・大里BOX、タコBOX「甘ちゃん」、園田佐登志「耳抜き」等マイナー関連発掘音源には有象無象の演奏家が参加しているがグンジョーのメンバーは誰一人参加していない。
・1981年9月開催の「10 MiNUTES SOLO iMPROViSATiON FEsTiVal」に園田游が参加。その記録本「10分間の孤独 テン・ミニッツ・ソロ・インプロヴィゼイション・ファスティバル その後」には"フェーッ○吐いてらあ・・・・ギャッ!飲んでらあ"との記述と嘔吐写真掲載。
・ピナコテカレコードの機関紙「AMALGAM#7」(日付はないが内容から1981年春の発行と思われる)に「園田游(グンジョーガクレヨン)って変な人ね」というタイトルで佐藤隆史(ピナコテカ)によるインタビュー掲載。園田が日本語で歌わない理由、国立の歩道で踊って逮捕されたこと、シンセや一弦琴やクラリネットのマウスに竹をつけたシンプルな楽器に興味があること等が語られている。短いが深い内容。
・プレイヤー誌の八木康夫(現ヤギヤスオ)の連載PIPCO'Sで1980年から八木とグンジョーの交流が綴られている。同年12月にグンジョーがトリスタン・ホンジンガー+竹田賢一と共演するとの記述あり。この記事の2ヶ月後に非常階段放尿写真問題で連載打ち切り。同記事の一部は非常階段「蔵六の奇病」裏ジャケ(CDではカバーカード)に転載された。そのページにグンジョーの記事もある。
・Pass Recordsは長い沈黙の後、2005年レーベルを再開。旧作品のリイシューとともに2007年3月には26年ぶりの新作第一弾として組原正の初ソロ作「Hyoi」をリリース。
また追憶のハイウェイを突っ走り肝心のライヴレポに辿り着かないので現実世界へ戻ることとする。
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八丁堀七針は何度来ても土地勘がなく迷子になりそうだ。中央線住民にとって東東京は未知の暗黒街である。鴬谷東京キネマ倶楽部、入谷なってるハウス、小岩BUSH BASH、亀戸ハードコアなど個性的なハコが多いのが特色。その中でも七針は"東東京の円盤"と形容すべき特殊音楽小屋である。キャパはギュウギュウに詰め込んでも40名、飲食物持ち込み自由という気の置けない空間はアーティストが冒険や実験をするのに最適な環境である。
対バンのju seiをてっきり"私は~です"という意味のフランス語"ju suis"だと思い込んでいた。男女二人のデュオ。田中淳一郎+せい=ju(ジュ) sei(セイ)という訳。間違いなく"受精"という言葉もかけているのだろう。見るからに若い二人なのでぽっと出の新人かと思ったら結成10年のベテランとのこと。見てくれは草食系男子とナゴムギャルの組み合わせで最初がエレクトロ+ヴォイスの音響テクノだったのでポストロック系かと油断したら次は渚にてやテニスコーツを思わせる歌モノ、それが急転直下男女掛け合いの音響詩になり、アコースティック版ゲルニカ~ジャーマントランス~ジミヘン風サイケ~チェンバーロック....と予想を覆すパノラマ的展開に驚く。せいのスタイルは戸川純・PHEW・工藤礼子等80年代の異形の歌姫を継承している。田中はのっぽのグーニーというソロプロジェクトで何枚もCDを出しており高円寺円盤の常連だというので納得。ju seiのCD「コーンソロ」が宇波拓サウンドプロデュースというのも円盤人脈。円盤周辺はいつも面白い。さすが田口史人。
▼ju seiの動画は公開していないとのことなのでのっぽのグーニー。
待望のグンジョーガクレヨン。客席を動かして布を敷き園田の舞踏スペースを作る。組原はパソコンをセット。宮川篤のマレットの連打と前田隆のぶち切れベースに乗せて組原のヴォイス・パフォーマンスでスタート。1年前に組原が声の面白さに目覚めギターに加えヴォイスを披露するようになり、以前ヴォイス担当だった園田は舞踏に集中。言葉にならない無意味な声の羅列をパソコンでグロテスクに変調させたサウンドは彼のギター同様本来のヴォイスとしての意味性を完全に剥ぎ取られただの"音=Tone"になって渦を巻く。
凄まじいのは宮川のドラム。初期グンジョーではタイトな8ビートを叩き出しロック/パンク・ファンにアピールしたが、ニューウェイヴ期以降は完全フリーフォームへと脱皮、富樫雅彦や森山威男などフリージャズ・ドラマーを彷彿させる表情豊かな演奏を展開する。まさに歌うようなドラムは活動30年に亘るベテランならではの深みがある。それは前田のベースにも当てはまる。前田の場合は演奏スタイルが80年代と殆ど変わっていないのに驚かされる。ベースを弾くのではなく掻きむしる。20代の時とテンションが変わっていないのは驚異的。年輪で熟成された強靭さは30年前よりもエネルギーがアップしているようだ。
この鉄壁かつ柔軟なリズムセクションがいるからこそ組原や園田が自由に飛び回れるのである。前も書いたが組原のギターはギターじゃない。ギターの音を聴き取ることは不可能である。彼にしか出せないアブストラクト音響彫刻。飛び跳ね身を震わせギターをいたぶる全身表現は生で体験しなければわからない波動がある。そして園田の舞踏。一見演奏とは無関係にゆっくりと蠢く肉体の鼓動は間違いなく奏でられる音響への異化作用を有する。本来ならいるべきキーボードの大森の不在を組原のヴォイスが補い4+1の表現が一体化するパワーは聴き手を異次元へをワープさせてしまう。阿吽の呼吸で繰り出される音の交配で新たな生物が生まれるような感覚。最後は園田が声にならない唸りを発し組原のユーモラスな言葉と睦み合う。長年の信頼関係が産み出す奇蹟。1時間余りの心の高揚を体験した。
▼ju seiの二人と。家族の肖像のような不思議な一体感。
群青に
染まった空を
飛んで行く
グンジョーのパフォーマンスをバンドの長年の友人の方が撮影していたので近々公開されるだろう。しかし何はともあれ生のグンジョーを体験していただきたい。グンジョー伝説はまだまだ終わってはいない。
<グンジョーガクレヨン関連ライヴ情報>
2013年
1.6 (日) 阿佐ヶ谷Yellow Vision 吉本裕美子企画
組原正(g)・園田游(buto)・吉本裕美子(g)solo+duo+trio
2.1(金) 東高円寺U.F.O.CLUB【FLASHBACK】企画
LIVE/出演順 グンジョーガクレヨン/AMAZON SALIVA(HIDE[ULTRA BIDE]+田畑満+砂十島NANI)/ななのば(嶽本野ばら+北出菜奈)/プンクボイシネ/HOMMヨ
2.13 (水)八丁堀七針 やんてら企画
組原正(el.g)・高原朝彦(10弦g)・古池寿浩(トロンボーン)trio
3.15(金) 国分寺モルガーナ 「国分寺モルガーナ実験室」肥後ヒロシ企画 (詳細未定)