もう6時頃には暗くなる。ボクは5時近くに畑にいく。さつまいもを掘り、じゃがいもを植え、そしてそのほかの作物を育てるために、耕して畝をつくる。
西の空をみる。美しい夕焼けが見える。西洋の風景画のように、ボクの視界の半分以上が空だ。雲が流れる。雲の西側は、夕焼けの太陽に照らされて赤みを帯びる。鳥が空を横切る。大自然に包まれたような気分に浸りながら、鍬を振るう。土の中から、赤っぽいさつまいもが顔をのぞかせる。太いもの、長いもの、細いもの、様々な表情のさつまいもが次々と出てくる。
暗くなるまで、ボクは畑にいた。秋の日暮れは早い。畑での仕事はたくさんあるのに、太陽は遠慮なく地平線の向こうに消えていく。
一日、1~2時間畑で身体を動かす。
帰宅して、ボクは読みかけの本の活字を追い始める。本田靖春『誘拐』(ちくま文庫)である。他にしなければならない仕事を放っておいて、この本を今日は読んだ。
1963年に起きた「吉展ちゃん誘拐事件」。名前だけは知っている。だがその全体像は知らなかった。東京オリンピックの前年に起きた事件だ。
日本は高度経済成長の中にあった。数値で表される経済成長は、右肩上がりであったであろう。その最中に、身代金を求めた誘拐事件が起きた。吉展ちゃんは、誘拐されてすぐに殺された。身代金は50万。犯人は小原保。福島県の寒村出身であった。そして学歴は小学校卒だ。1933年生まれ、本田と同じ年だ。
本書は、小原を中心に描かれる。小原の生育歴、小原の仕事、小原の交友関係・・・・犯罪を犯すことになる小原保という人間は、その環境の中に生きてきた。その環境をつらぬくものは、貧困である。そして犯罪の原因は、そのなかにある。
本田は、こう記す。
犯罪という二文字で片付けられる多くが、社会の暗部に根ざした病理現象であり、犯罪者というのは、しばしば社会的弱者と同義語である
小原には、死刑判決が下された。小原のもとに捜査が及んでも、なかなか「ホシ」とされなかった。しかし小原は、平塚八兵衛の手によって、自白した。いったん自白してからは、小原は事件のあらましを正直に語った。
小原は死刑判決のあと、拘置所で歌を詠んでいた。その歌は、犯罪からまったく遠く離れた心境から詠まれたものだ。死を前にしてつくられた歌は、『昭和万葉集』に載せられているという。
小原が、違った社会環境のもとに生きていたら、果たして犯罪者になっただろうか。
犯罪をどうとらえるのか、そのためにこの本を読んで欲しい。今、仇討ち的報道が満ちあふれているとき、犯罪を犯罪のなかだけで捉えてはいけないことがわかるはずだ。
小原も、福島の寒村で夕焼けを見て育ったのだろうか。小原が育ったところは、山の中。夕焼けは見えなかったのかもしれない。空も狭かったかもしれない。自然も、平等ではない。
西の空をみる。美しい夕焼けが見える。西洋の風景画のように、ボクの視界の半分以上が空だ。雲が流れる。雲の西側は、夕焼けの太陽に照らされて赤みを帯びる。鳥が空を横切る。大自然に包まれたような気分に浸りながら、鍬を振るう。土の中から、赤っぽいさつまいもが顔をのぞかせる。太いもの、長いもの、細いもの、様々な表情のさつまいもが次々と出てくる。
暗くなるまで、ボクは畑にいた。秋の日暮れは早い。畑での仕事はたくさんあるのに、太陽は遠慮なく地平線の向こうに消えていく。
一日、1~2時間畑で身体を動かす。
帰宅して、ボクは読みかけの本の活字を追い始める。本田靖春『誘拐』(ちくま文庫)である。他にしなければならない仕事を放っておいて、この本を今日は読んだ。
1963年に起きた「吉展ちゃん誘拐事件」。名前だけは知っている。だがその全体像は知らなかった。東京オリンピックの前年に起きた事件だ。
日本は高度経済成長の中にあった。数値で表される経済成長は、右肩上がりであったであろう。その最中に、身代金を求めた誘拐事件が起きた。吉展ちゃんは、誘拐されてすぐに殺された。身代金は50万。犯人は小原保。福島県の寒村出身であった。そして学歴は小学校卒だ。1933年生まれ、本田と同じ年だ。
本書は、小原を中心に描かれる。小原の生育歴、小原の仕事、小原の交友関係・・・・犯罪を犯すことになる小原保という人間は、その環境の中に生きてきた。その環境をつらぬくものは、貧困である。そして犯罪の原因は、そのなかにある。
本田は、こう記す。
犯罪という二文字で片付けられる多くが、社会の暗部に根ざした病理現象であり、犯罪者というのは、しばしば社会的弱者と同義語である
小原には、死刑判決が下された。小原のもとに捜査が及んでも、なかなか「ホシ」とされなかった。しかし小原は、平塚八兵衛の手によって、自白した。いったん自白してからは、小原は事件のあらましを正直に語った。
小原は死刑判決のあと、拘置所で歌を詠んでいた。その歌は、犯罪からまったく遠く離れた心境から詠まれたものだ。死を前にしてつくられた歌は、『昭和万葉集』に載せられているという。
小原が、違った社会環境のもとに生きていたら、果たして犯罪者になっただろうか。
犯罪をどうとらえるのか、そのためにこの本を読んで欲しい。今、仇討ち的報道が満ちあふれているとき、犯罪を犯罪のなかだけで捉えてはいけないことがわかるはずだ。
小原も、福島の寒村で夕焼けを見て育ったのだろうか。小原が育ったところは、山の中。夕焼けは見えなかったのかもしれない。空も狭かったかもしれない。自然も、平等ではない。