窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

ウエスのバッティング

2009年02月09日 | リサイクル(しごと)の話


  「ウエスものがたり」でも述べたことですが(http://blog.goo.ne.jp/hardworkisfun/e/41b80be3a85732ea51f81ade9a9e73ae)、ウエスづくりはウィスキーづくりと似ていると思うことがよくあります。



  ウィスキーは同じ蒸留所で同じ原料を使い、同じ年数熟成させたものであっても、上の写真のような熟成庫における樽の位置の違いによって湿度や気温、蒸留所周辺の気候風土などウィスキーの品質に及ぼす影響の度合いに違いが生まれます。その他樽自身が持つ個性なども加わって、数年から数十年に及ぶ長い熟成の果てには樽ごとに違った個性をもつウィスキーが誕生します。どれ一つとして同じウィスキーは存在しません。

  しかし通常私たちが飲むウィスキーは同じ銘柄である以上、均質な品質がボトルごとに、また時間の経過に関わらず維持されている必要があります(もちろん厳密に言えばそれすらも異なってはいるのですが)。したがって、樽ごとにそれぞれ異なるウィスキーの個性を引き出しつつ一定の品質を保つために複数のウィスキーを調合するブレンダーの仕事が大変重要になります。

  一般的にモルトウィスキーとグレーンウィスキーを調合することをブレンディング、上記のように複数のモルトウィスキーを調合することをバッティングと呼んでいます。



  さてウエスに話を戻しますと、ウエスは一般の家庭から回収された主に綿系を主体とする古着を「原料」として作られます(http://blog.goo.ne.jp/hardworkisfun/e/82ccb9341fe0a60c94127062c0fe4780)。したがって、モルトウィスキーが樽ごとに一つとして同じウィスキーが存在しないように、集まってくる原料としての古着にはどれ一つとして同じものが存在しません。そればかりか、例えば同じTシャツであっても色、状態、デザイン、刺繍やプリントの位置などが違うように、一点、一点に至るまでが異なります。加えて近年衣料の流行の変化、技術革新は大変激しく、従来には見られなかったタイプの衣類が次々に登場します。

  ウエスでいう品質とは、実際にウエスをお使いになる作業環境に適合した素材・状態の洗い晒した古布で商品が構成されていること、また使いやすく無駄の少ない大きさ・形状に裁断されていることですが(http://blog.goo.ne.jp/hardworkisfun/e/41b80be3a85732ea51f81ade9a9e73ae)、同一の原料というものが存在しない以上、原料を適切に「調合」するバッティングと同じ作業が必要になります。さらにウエスの場合は、上記の品質を維持するために裁断の仕方も状況に応じて変化させなければなりません。

  ウィスキーのブレンディングやバッティングを行うブレンダーの作業は熟練した経験と勘が大変重要です。同じ原料がないわけですからレシピ通りに作るのではなく、レシピに適合するように微調整を加えていくわけですね。ウエスも同じようにレシピ(規格)がありますが、やはりレシピに適合するよう原料の組み合わせや裁断の方法に微調整を加える経験と勘が必要になります。それを異なる主観を持った多くの作業者で行うわけですから、想いの外大変です。ウエスというとただ布を切っただけの物と思われがちですが、マニュアル化できるような作業でない所以がここにあります。



  今回はフィリピンのウエス工場のマネージャーたちと上記のような品質マネジメントについて侃侃諤諤してきました。国が異なれば物の見方も考え方も異なりますので、僕にとっても良い勉強になりました。  

  繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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