「写真はものの見方をどのように変えてきたか 第3部 -再生- 」 東京都写真美術館 9/4

東京都写真美術館(目黒区三田)
「写真はものの見方をどのように変えてきたか 第3部 -再生- 」
7/23~9/11

東京都写真美術館による「写真はものの見方をどのように変えてきた」シリーズの第三部は、「再生」と題された、第二次大戦前後の日本の写真表現を追った展覧会でした。木村伊兵衛や濱谷浩、または福島菊次郎など、この時期に活躍した12人の写真家の視点は、戦争の色を濃く反映しながらも、とても多様に提示されています。一筋縄ではいきません。

報道を含んだ写真表現、または芸術としての写真など、様々な統制の元にあった戦争中の写真には、写真家の表現の方向と、それを抑圧する大きな力のせめぎ合いが見られます。国策雑誌であった「フロント」で活躍した木村伊兵衛の戦中の写真には、当然ながら国威発揚的な勇ましい作品も多く見られますが、反戦の意を滲ませる表現を追求した小石清の作品を見ると、この時期の写真を、一概に全体主義的な方向として捉えることの危険性を感じさせます。

広島の惨状を捉えた福島菊次郎や、米軍基地の様子をおさめた東松照明の作品などには、大戦後にも敢然と残る、ある意味で現在進行形だった戦争の痕跡が見事におさめられています。被爆者の生々しい傷跡が、写真によってさらに克明に、そして人の生死を超えて半永久的に残されます。見る者それぞれが何を汲み取るのか。芸術としての写真云々以前に、ここからは様々な問いかけが発しそうです。

12人の写真家の中で最も印象に残ったのは、雪の降り積もる新潟県の様子をシリーズ化した濱谷浩の「雪国」です。この作品は戦中戦後に渡って制作が続けられたものようですが、そこには雪の圧倒的な質感が、人間や家、そしてそこから発生する生活の匂いなどを半ば支配して存在します。もちろん、雪の中での不自由な生活に負けずに、人の生き生きとした生活感を見せている面もあるのですが、それよりも主役はあくまでも雪です。雪原の上に儚く残る人間の足跡を見ていると、まるで雪にそのまま埋もれてしまいそうな気持ちにさせられます。モノクロの雪景色が雄弁に語りかけて来るような雰囲気でした。

その他には、砂丘の上に人を配した独特の演出写真を手がけた植田正治や、戦後のグラフ・ジャーナリズムを活気づけたという林忠彦の作品が印象に残りました。中でも林の「復員」は大変に見事です。品川駅集まる復員兵が、底抜けの明るい笑顔を見せて、生き生きとしている様が深く記憶に残ります。この作品一枚が戦争の多くを語っているとも言えるでしょう。極限の状況から解放された者にしか得られない笑顔。そんな気もしました。

「写真はものの見方をどのように変えてきたか」展シリーズとしては、今までで最も地味な印象を受けました。決して個々の作品が見劣りするわけではないのですが、不思議と全体のトーンが低めです。もちろん、第二次大戦前後という時期を取り上げたテーマの重みは受け止めなくてはいけませんが、私としては国内のみの写真家という構成に、もう一つ物足りなさを感じてしまいました。次回最終回の「混沌」は、1970年以降の写真表現を捉えた企画です。今月17日からの開催です。
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