都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「収蔵品展 難波田史男」 東京オペラシティアートギャラリー 9/11
東京オペラシティアートギャラリー(新宿区西新宿)
「東京オペラシティアートギャラリー収蔵品展 難波田史男」
7/15~9/25
「難波田龍起展」に合わせた収蔵品展では、龍起の次男として生まれ、32歳の若さで亡くなった史男の作品が紹介されています。以前、彼の回顧展を東京ステーションギャラリーで見て以来、その世界に惹かれた私にとっては、久々に史男の作品をまとめて鑑賞出来る貴重な機会となりました。
展覧会は、史男の画業の中心となった水彩画、約100点ほどで構成されていますが、時系列に並べられたそれら一連の作品からは、彼の作風の変化を読み取ることが出来るのではないでしょうか。もちろん、どれも細い線によって描かれた、半ば「愛くるしい物語絵巻」とも言えそうな雰囲気を持っていますが、そこに見られる色や水彩のにじみ、または画面構成の変化は、不思議と史男の死へ向かうにつれて、陰鬱に、そして儚くなっていくのです。この変化を、史男自身の心情の変遷と関係付けて見るのはあまりにも安易ですが、まるで32歳で事故死という惨い結末を迎えた彼の人生を、どこか予兆しているかのようにも思えます。「死への軌跡」が描かれている。彼の作品からはいつも、涙を誘われるような、非常に感傷的な気持ちにさせられます。
比較的初期の作品では、登場する事物が、明るい色で生き生きと表現されていて、ダイナミックな構図の元に描かれています。幼い頃に心に抱くような、ユートピア的な、空想上の楽しい街の賑わい。そんなことも連想させるでしょう。しかしそれは、後年へ向かうにつれて徐々に薄暗くなり、最後にはまるで戦禍の果てのように、全てが崩れ去っていくのです。水彩やペンのにじみは、画面に色の多様性をもたらしますが、灰色の面や黒い線が多くなってくると、それも何やら破滅的な雰囲気となって、物悲しさを感じさせます。当初輝いていた生き生きとした事物は、いつの間にか死に絶えてしまったか、あるいは非常に苦しんでいる姿にも見えます。
彼の作品としては比較的珍しい油彩画も何点か展示されていました。こちらは重厚感のある質感で、後期の水彩画に見せたような脆さとは無縁ですが、色や形の気配は何処か幾分哀愁を帯びていて、決して明るい作品とは言えません。また、水彩画よりも、形態の動きに面白さがあるようにも思えます。興味深い作品ばかりです。
パンフレットによれば、彼の作品には「一貫して流れる物語性や詩情」があり、それは「幼い頃からの文学への関心によるもの」と言えるのだそうです。確かに夢想的ともとれるような詩的な題材と、アニメーション的な可愛らしい動きを交差させた画面からは、あくまでも非現実的な、遠い世界の幻想や物語を呼び起こさせるような力があると思います。それが、見る者自身の過去への郷愁や追憶になるのかは分かりませんが、作品には、それぞれの生の過程を自省させるような、強いエネルギーが内包されているようにも感じました。
「東京オペラシティアートギャラリー収蔵品展 難波田史男」
7/15~9/25
「難波田龍起展」に合わせた収蔵品展では、龍起の次男として生まれ、32歳の若さで亡くなった史男の作品が紹介されています。以前、彼の回顧展を東京ステーションギャラリーで見て以来、その世界に惹かれた私にとっては、久々に史男の作品をまとめて鑑賞出来る貴重な機会となりました。
展覧会は、史男の画業の中心となった水彩画、約100点ほどで構成されていますが、時系列に並べられたそれら一連の作品からは、彼の作風の変化を読み取ることが出来るのではないでしょうか。もちろん、どれも細い線によって描かれた、半ば「愛くるしい物語絵巻」とも言えそうな雰囲気を持っていますが、そこに見られる色や水彩のにじみ、または画面構成の変化は、不思議と史男の死へ向かうにつれて、陰鬱に、そして儚くなっていくのです。この変化を、史男自身の心情の変遷と関係付けて見るのはあまりにも安易ですが、まるで32歳で事故死という惨い結末を迎えた彼の人生を、どこか予兆しているかのようにも思えます。「死への軌跡」が描かれている。彼の作品からはいつも、涙を誘われるような、非常に感傷的な気持ちにさせられます。
比較的初期の作品では、登場する事物が、明るい色で生き生きと表現されていて、ダイナミックな構図の元に描かれています。幼い頃に心に抱くような、ユートピア的な、空想上の楽しい街の賑わい。そんなことも連想させるでしょう。しかしそれは、後年へ向かうにつれて徐々に薄暗くなり、最後にはまるで戦禍の果てのように、全てが崩れ去っていくのです。水彩やペンのにじみは、画面に色の多様性をもたらしますが、灰色の面や黒い線が多くなってくると、それも何やら破滅的な雰囲気となって、物悲しさを感じさせます。当初輝いていた生き生きとした事物は、いつの間にか死に絶えてしまったか、あるいは非常に苦しんでいる姿にも見えます。
彼の作品としては比較的珍しい油彩画も何点か展示されていました。こちらは重厚感のある質感で、後期の水彩画に見せたような脆さとは無縁ですが、色や形の気配は何処か幾分哀愁を帯びていて、決して明るい作品とは言えません。また、水彩画よりも、形態の動きに面白さがあるようにも思えます。興味深い作品ばかりです。
パンフレットによれば、彼の作品には「一貫して流れる物語性や詩情」があり、それは「幼い頃からの文学への関心によるもの」と言えるのだそうです。確かに夢想的ともとれるような詩的な題材と、アニメーション的な可愛らしい動きを交差させた画面からは、あくまでも非現実的な、遠い世界の幻想や物語を呼び起こさせるような力があると思います。それが、見る者自身の過去への郷愁や追憶になるのかは分かりませんが、作品には、それぞれの生の過程を自省させるような、強いエネルギーが内包されているようにも感じました。
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