「この素晴らしき世界」 チェコ映画祭2005 9/4

東京都写真美術館(目黒区三田)
「この素晴らしき世界」
(2000年/チェコ/ヤン・フジェベイク監督)
9/4(チェコ映画祭2005)

今、東京都写真美術館のホールでは、チェコ共和国の愛知万博関連プログラムである「チェコ映画祭2005」が開催されています。先日の日曜日に、2000年に日本でも公開された「この素晴らしき世界」という作品を見てきました。

舞台はナチス占領下のチェコです。子供のできないヨゼフとマリエ夫婦、マリエに執拗に迫りながらも、夫婦を不気味に追い回すナチス党員のホルスト、それに収容所を逃げてヨゼフとマリエ夫妻にかくまわれたユダヤ人ダヴィトなどが、入れ代わり立ち代わり登場し、占領下の厳しい状況の中で、それぞれが必死に生き延びる様を描きます。実話をヒントにして仕上げられたというストーリーは、収容所から逃亡してきたダヴィトを、ナチス党員のホルストから隠すために思いついた夫妻の凄まじい奇策の成功によって、思いがけない方向へ進みますが、最後には戦争が終結し、妙に後味の悪いハッピーエンドを迎えます。

ともかく喜劇として見るべき作品だと思います。展開は途中まで、ナチス占領下のチェコの極限の状況を色濃く反映したような、かなりシリアスな雰囲気で進みますが、「とんでもないアイデアを思い付いた。」というある事件をきっかけに、突如ドタバタ劇的な、コミカルな視点が全面に押し出されます。と言っても、逆にそのコミカルさが、当時のチェコの状況の悲惨さを喚起させる面もあり、完全な喜劇として腹の底から笑うことは出来ないような様相も呈しています。シリアスさとコミカルさ。題材として戦争を取り上げた場合、喜劇的な要素を多く取り入れると、全くの娯楽映画と化す場合もありますが、この作品は決してそうでありません。笑いと恐怖の隣り合わせ。ある意味で非常に恐ろしい作品でしょう。

ヨセフとマリア、ダヴィトなどという登場人物の名からも推測される通り、この作品にはキリストの生誕を思わせる一種の鍵が隠されています。結果キリストは、映画の一番最後に誕生し、それが戦争の集結と、未来への期待に重なり合うのですが、その後のチェコの歴史を鑑みる時、それが決して救済とならないことを痛感させられます。

もう少しそれぞれの登場人物への掘り下げがあっても良く、特にホルストの描写に物足りなさを感じたのですが、アイロニー的な笑いと、その背後で垣間見せる作品自体の強いメッセージは、希有なバランス感覚で体現出来ていたと思いました。
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