都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
第36回サントリー音楽賞受賞記念コンサート「西村朗」 9/10

雅楽「夢幻の光」
室内交響楽第3番「メタモルフォーシス」
ピアノ協奏曲「シャーマン」
雅楽 伶楽舎
舞 霊友会雅楽部
ピアノ 高橋アキ
指揮 本名徹次
管弦楽 東京シンフォニエッタ
2005/9/10 15:00 サントリーホール大ホール
第36回(2004年度)サントリー音楽賞の栄誉に輝いた、現代作曲家の西村朗氏の受賞記念コンサートを聴いてきました。
ところで、私は西村氏の音楽に、CDでも一度も接したことがないので、今回が初めての「西村体験」となったわけですが、近作の雅楽「夢幻の光」やピアノ協奏曲「シャーマン」など、氏の多彩な音楽の表現は、全く飽きることがありません。静謐さと無骨さの狭間に大きく揺れる、刺激的でかつ穏やかな音楽の波に、いつの間にか飲み込まれたようです。これほど緊張感を持って音楽に接したのは久々でした。
一曲目は伶楽舎による雅楽「夢幻の光」でした。この曲は、全50分程度の三部構成で、第三楽章には今回の公演のために用意されたという、霊友会雅楽部による舞いが付けられています。そしてもちろん演奏は雅楽の団体ということで、これまた私がこれまで体験したことのない笙(しょう)や篳篥(ひちりき)、それに龍笛(りゅうてき)などの楽器が、全く想像もつかない音で鳴り響きます。特に第一楽章は、西村氏によれば「蒼穹」(蒼空、蒼天の意味。yahoo辞書より。)ということで、まるでオルガンのようにたっぷりと響く笙の音が、ゆったりとした息遣いで壮大な音の大伽藍を形成し、そこへ龍笛がその伽藍を上へ上へと飛翔してゆくかのように鳴り渡ります。非常にシンプルな構成でありながら、笙と龍笛の組み合わせが、ホールの空間を無限に広げるように、圧倒的な音の一大世界を組み立てます。雅楽の持つ表現の奥深さ。これほどまでとは思いませんでした。
第三楽章の「海」では、優雅な舞いが、まるで音と空気を程よく混ぜ合わせるかのようなゆったりした所作で披露されました。音楽はここで太鼓やりんなどによって、半ばリズミカルに、一層の厚みを増していきます。りんは、時の経過を淡々と知らせるかのように、美しく規則的に響きますが、その打つ鳴らす様の何と優雅なこと…。この部分は、氏によれば「命のざわめき」というイメージが付いていますが、りんと太鼓はまさに生命の息吹でしょうか。静謐な舞いの所作と、雅楽器の自然な息遣い。現代音楽というジャンルを超越した場がそこに体現されていたようにも思いました。
一曲目の雅楽があまりにも心に残ったもので、その後の二曲は、大変失礼ながら深く印象に残らなかったのですが、ピアノ独奏に高橋アキを迎えてのピアノ協奏曲「シャーマン」は、ピアノという楽器の持つ音の繊細さを、オーケストラが器用に演出していた美しい曲だと思いました。ハープのようにざわめくヴァイオリンや、龍笛のような音を発する管楽器などは、指揮の本名の元に、薄い音の層が一枚一枚積み重ねられたかのような音塊を生み出します。時折、「人々をトランスへと導く」(パンフレットから。)という大きな叫び。シャーマンはピアノであるとも説明されていましたが、オーケストラ全体に強固な魂が取り憑いています。ピアノによる刹那的な主題が何度も回帰してはまた過ぎ去る様子。ふと「輪廻転生」という言葉が頭を横切りました。また、ピアノは揺さぶられながら生を模索している。そんな風にも聴こえました。
10月の伶楽舎の公演では、武満徹の雅楽の大作が演奏されるそうです。同じく10月に予定された、現代音楽をリーズナブルに聴くことの出来るサントリー音楽財団の「作曲家の個展 松平頼暁」と合わせて、是非聴きに行こうかと思います。
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