読売日本交響楽団 「ブルックナー:交響曲第4番」他

読売日本交響楽団 第459回定期演奏会

ベートーヴェン 大フーガ
ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」(ノヴァーク版)

指揮 スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ
演奏 読売日本交響楽団

2007/4/17 19:00 東京芸術劇場3階

サントリーホールが改修休業中のため、会場を東京芸術劇場へと移しています。読売日響の定期演奏会です。このコンビでブルックナーを聴くのは久しぶりでした。



一曲目は大フーガです。スクロヴァチェフスキにしては随分とソフトタッチに曲をまとめていましたが、オケの状態が今ひとつだったのか、一糸乱れぬ弦楽合奏を楽しむレベルには達していなかったと思います。ただ両翼配置の効果はあったようです。錯綜するフーガの立体感は、さながらブル5の音楽のように重々しく表現されていました。また叙情的な曲想の部分では、弦楽器同士が優しく対話するようなデリケートな表現も聴くことが出来ます。あとはもう一歩、混沌と展開する部分に力強さと見通しの広さがあればより良かったのではないでしょうか。音楽をまるで魔術師のように操り、それでいながら響きをしっかりと纏め上げるミスターSですが、ここでは若干の物足りなさも感じてしまいました。

休憩を挟んでのメインはブル4です。実のところ私はミスターSのブルックナーをやや苦手としていますが、この日は第1楽章からあまり違和感なく音楽へ耳を傾けることが出来ました。いわゆる霧のトレモロは重層的でかつ瑞々しく、勇壮な金管の主題もゆったりと表現されていきます。ピアニッシモ方向にも細心の注意が払われ、総じて必要以上に肩に力の入らない、自然体で流麗な音楽が生み出されていました。スクロヴァチェフスキによる、一種の作為的(もちろんそれが彼の面白さでもあるわけですが。)とも言える解釈も目立ちません。

元々このアンダンテ楽章には、寂寥感を漂わせる情緒的な要素が多分に含まれていますが、この日のそれはさらに重々しく、言わばメランコリックな感情を強く露出するような表現がとられていました。弦のピチカートは沈むようにどっしりと重く、木管は枯れ果て、幾分美感に欠けた金管は終始控えめに大人しく演奏されていきます。「森の中を彷徨う。」(読響パンフレットより。)光景よりも、椅子に座った一人の男が終始その場で逡巡している様子が浮かんできました。遅々として進まない、またおしてはすぐに返す小波のようなアンダンテです。もちろんクライマックスでは確信に満ちた高みへと到達しますが、それもあくまでも一瞬の出来事に過ぎませんでした。ブルックナーの音楽からこれほど感傷的な想いを感じたのは初めてです。驚きました。

スケルツォはいつものミスターSです。まさしく山あり谷ありと言えるような、起伏の激しい音楽が展開されていきます。快活とした部分はやや早めのテンポで、また伸びやかな箇所ではゆっくりとしたリズムで進めていました。ただここでも読響の反応が気になります。おそらくスクロヴァチェフスキは、もっと前へと畳み掛けるような激しいリズムを要求していたのではないでしょうか。金管はかなりもたついていました。

フィナーレは手堅かったと思います。激しく打ち込まれるシンバルなどはミスターSならではと言ったところですが、終始、安心して音の波に浸ることが出来る演奏でした。巨大な芸劇の空間を満たす力強い響きも、やはり読響の地力のなせる業だったのかもしれません。フォルテッシモでの響きも雑然せず、指揮者がオーケストラを統率出来ていることが確かに感じられました。やや饒舌にも感じられるこの楽章を、難無くまとめあげています。弛緩する瞬間もありませんでした。

私がこれまで聴いたスクロヴァチェフスキのブルックナーでは、一番リラックスして楽しめたかもしれません。以前にも触れたことがありますが、彼はむしろブルックナー以外の音楽に持ち味の良さがより出ると感じているので、今後、なるべく読響との演奏会には足を運びたいと思います。ちなみに芸劇は久々でしたが、私の座った三階の前列はそう悪くありませんでした。もちろん席を選ぶホールであることは事実ですが、大編成のオーケストラを聴くには意外と適しているのかもしれません。
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