都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ジュリアン・オピー」 水戸芸術館
水戸芸術館現代美術ギャラリー(水戸市五軒町1-6-8)
「ジュリアン・オピー」
7/19-10/5

1958年にロンドンに生まれ、イギリスを中心に世界で活躍するアーティスト、ジュリアン・オピーの全体像を紹介します。アジア初となるオピーの大型個展へ行ってきました。

率直なところオピーと言うと、あの異彩を放つ東近美の常設程度しか知りませんでしたが、今回の展示に接してその印象を大いに改めさせられました。もはや水戸芸術館はオピーの一大テーマパークです。芸術館前、アートタワーを望む芝生広場は、カラフルな動物のオブジェによって動物園と化し、また建物入り口正面、大型LEDの「スカートとトップスで歩くスザンヌ」は、半ばオピーのキャラクターとなった人物像がのんびりと散歩しています。そして同じく館内でも、ダンサーや女優たちが、まさに多様なショーを繰り広げて観客を楽しませていました。前回、宮島の謎めいたドローイングが印象的だった階段上の壁面には、ちらし表紙にもある無数の「歩く人々」がぞろぞろと歩き、こちら側もそれに連なってgallery1へ入場すると、突き当たり正面、今度はスザンヌではなくシャノーザが、何とも懐かしげなステップを踏みながら、観客を誘うかのようにして踊っています。この一連の導入部だけでも、オピーが芸術館の空間を見事に把握し、また巧みに用いていることが十分に見て取れるというものではないでしょうか。インスタレーションとしての掴みは抜群でした。

館内は主に二つ、つまりはその身体性、特にエロスに関心の払われたキャラクター、人物モチーフの作品群と、動く現代版広重風浮世絵とも言えるような「日本八景」などの風景作品の展示に分かれています。もちろんここでは見慣れた後者でのバーチャルな日本周遊も楽しめますが、やはり彼の真髄は前者の動くポートレートにあると言えるでしょう。例の簡略化された人物表現、「ジャック」や「アン」などが、いつものごとく目を点にしてバックライトに照らし出され、また「アーニャ」と「ルース」は今度は目をぱちぱちとさせ、またイヤリングを揺らしながら、ゆうゆうとくつろいでいます。またその先はいささか刺激的な大人の世界です。「キエラ」と「サラ」とが、適切ではないかもしれませんがストリップのごとく衣服を脱ぎ捨て、さらには同じく「サラ」が殆ど全裸に近い様相にて激しいダンスを披露していました。ぐるりと一周、円を描くように腰を一心不乱に振り続ける姿は、何とエロチックなことでしょうか。その足に履かれた網のタイツが何ともセクシャルでした。ここは欲望に満ちたエロスの国です。

オピーが「日本八景」など、例えば広重などの浮世絵モチーフをよく使うことは周知のとおりですが、人物表現や作品素材においても、同様な日本に由来するイメージを好んでいたとは知りません。歌麿風美人画をオピーの手を返して記号化されたポートレートはもちろんのこと、今回、半ば衝撃的ですらあるのは、日本の墓石を用いた作品群です。カラフルな世界から一転して、モノクロのgallery3へ入った時には目を疑いました。展示室中央にて、アクロバットなポーズをとる「シャノーザ」が描かれた石のオブジェがまさに墓石そのものなのです。墓石へ直接、極太のサインペンで直に描いたかのような線が人物を象り、それが積み木のように組み合わされた石の表面にへばりついています。またこの空間では墓石の他、フロッキー加工による同じく黒のペインティングも見逃せません。かのシャノーザがトルソーの如く分割され、その足をさらしています。ようは町田久美ならぬ艶やかな線だけが、肉感的なその体躯を見事に表しているわけです。オピーの身体への関心は並々ならぬものがあります。

それほど広くはない水戸芸術館が、今回ほど魅力あるスペースに変化していたことなどそうありません。オピーワールドを楽しめるとあれば、水戸への旅程もそう労を感じることもなさそうです。
10月5日までの開催です。当然ながらおすすめします。
「ジュリアン・オピー」
7/19-10/5

1958年にロンドンに生まれ、イギリスを中心に世界で活躍するアーティスト、ジュリアン・オピーの全体像を紹介します。アジア初となるオピーの大型個展へ行ってきました。


率直なところオピーと言うと、あの異彩を放つ東近美の常設程度しか知りませんでしたが、今回の展示に接してその印象を大いに改めさせられました。もはや水戸芸術館はオピーの一大テーマパークです。芸術館前、アートタワーを望む芝生広場は、カラフルな動物のオブジェによって動物園と化し、また建物入り口正面、大型LEDの「スカートとトップスで歩くスザンヌ」は、半ばオピーのキャラクターとなった人物像がのんびりと散歩しています。そして同じく館内でも、ダンサーや女優たちが、まさに多様なショーを繰り広げて観客を楽しませていました。前回、宮島の謎めいたドローイングが印象的だった階段上の壁面には、ちらし表紙にもある無数の「歩く人々」がぞろぞろと歩き、こちら側もそれに連なってgallery1へ入場すると、突き当たり正面、今度はスザンヌではなくシャノーザが、何とも懐かしげなステップを踏みながら、観客を誘うかのようにして踊っています。この一連の導入部だけでも、オピーが芸術館の空間を見事に把握し、また巧みに用いていることが十分に見て取れるというものではないでしょうか。インスタレーションとしての掴みは抜群でした。

館内は主に二つ、つまりはその身体性、特にエロスに関心の払われたキャラクター、人物モチーフの作品群と、動く現代版広重風浮世絵とも言えるような「日本八景」などの風景作品の展示に分かれています。もちろんここでは見慣れた後者でのバーチャルな日本周遊も楽しめますが、やはり彼の真髄は前者の動くポートレートにあると言えるでしょう。例の簡略化された人物表現、「ジャック」や「アン」などが、いつものごとく目を点にしてバックライトに照らし出され、また「アーニャ」と「ルース」は今度は目をぱちぱちとさせ、またイヤリングを揺らしながら、ゆうゆうとくつろいでいます。またその先はいささか刺激的な大人の世界です。「キエラ」と「サラ」とが、適切ではないかもしれませんがストリップのごとく衣服を脱ぎ捨て、さらには同じく「サラ」が殆ど全裸に近い様相にて激しいダンスを披露していました。ぐるりと一周、円を描くように腰を一心不乱に振り続ける姿は、何とエロチックなことでしょうか。その足に履かれた網のタイツが何ともセクシャルでした。ここは欲望に満ちたエロスの国です。

オピーが「日本八景」など、例えば広重などの浮世絵モチーフをよく使うことは周知のとおりですが、人物表現や作品素材においても、同様な日本に由来するイメージを好んでいたとは知りません。歌麿風美人画をオピーの手を返して記号化されたポートレートはもちろんのこと、今回、半ば衝撃的ですらあるのは、日本の墓石を用いた作品群です。カラフルな世界から一転して、モノクロのgallery3へ入った時には目を疑いました。展示室中央にて、アクロバットなポーズをとる「シャノーザ」が描かれた石のオブジェがまさに墓石そのものなのです。墓石へ直接、極太のサインペンで直に描いたかのような線が人物を象り、それが積み木のように組み合わされた石の表面にへばりついています。またこの空間では墓石の他、フロッキー加工による同じく黒のペインティングも見逃せません。かのシャノーザがトルソーの如く分割され、その足をさらしています。ようは町田久美ならぬ艶やかな線だけが、肉感的なその体躯を見事に表しているわけです。オピーの身体への関心は並々ならぬものがあります。

それほど広くはない水戸芸術館が、今回ほど魅力あるスペースに変化していたことなどそうありません。オピーワールドを楽しめるとあれば、水戸への旅程もそう労を感じることもなさそうです。
10月5日までの開催です。当然ながらおすすめします。
コメント ( 7 ) | Trackback ( 0 )