N響定期 「マーラー:交響曲第5番」他 

NHK交響楽団 第1625回定期公演Aプログラム

バッハ 組曲第3番から「アリア」(ホルスト・シュタインを偲んで)
デニゾフ 「絵画」(1970)
マーラー 交響曲第5番

指揮 ハンス・ドレヴァンツ
管弦楽 NHK交響楽団(コンサートマスター 堀正文)

2008/9/14 15:00 NHKホール2階



ドイツの名匠、ハンス・ドレヴァンツが10年ぶりにN響の指揮台にたちました。得意とする現代音楽とマーラーの第5番を並べた意欲的なプログラムです。定期公演、Aプロへ行ってきました。

シュタインを偲んで急遽追加された「アリア」を挟んでの、デニゾフの「絵画」がなかなか優れています。この作品は1970年、モスクワの画家、ボリス・ビルゲルに献呈されたものだそうですが、複雑なオーケストレーションをとりながらも、時に温かみのある音の心地よい、フランス印象派を思わせる色彩感に満ちた音楽でした。ちなみにデニゾフはこの後、「水彩画」(1975)、「パウルクレーの3つの絵」(1985)といった、同じく絵画に着想を得た音楽を作曲しています。クレーの絵を音楽に仕立てたとは俄然興味がわいてきます。是非聴いてみたいものです。

メインのマーラーは言ってしまえば楷書体です。横への流れ、いわゆるマーラー的なうねりとダイナミズムは殆ど追求されることなく、縦への意識、ようは各フレーズを一つ一つの箱のような塊として捉え、それを積み上げて全体を構築していくかのようなアプローチがとられていました。結果、例えば公演冊子に記載されているような第1楽章の「物悲しい旋律」などの主観的な表情は消え、もっと純音楽的な、音そのものの塊があるがままに響いてきます。もちろんこれはこれで一つの解釈ではありますが、最近、良く耳にするような細部へ手を突っ込み、これまで見えてこなかった新しい『景色』を披露するものでも、またもっとどっしりと構え、慟哭から勝利へと流れる激しいマーラーでもないので、どこか冷めた、いささか平板な演奏になってしまっていたのは事実でした。ただしこの辺は好き嫌いの問題も多分にありそうです。

N響の出来はまずまずと言ったところではないでしょうか。第5楽章冒頭でのミスなど、言われがちなホルン云々は完璧とまではいきませんでしたが、特に破綻もなく、ドレヴァンツの解釈にもよるのか、終始、淡々と曲を進めていたと思います。ただ一つ気になったのは、トゥッティの際などにおける、全体の音の緩みです。ティンパニは他から完全に分離したかのようにがなり立て、逆に弦は内側へ引きこもるかのようにしてこじんまりとまとまってしまいます。先に今回の演奏を「平板」と表しましたが、ひょっとしたらそれはN響側にも問題があったのかもしれません。

適切ではないかもしれませんが、ドレヴァンツは例えば東京シティや東響のような、棒へダイレクトに食らい付いてくるオーケストラの方が持ち味を発揮するのではないでしょうか。このところどうも体温のあがりきらないN響には、ドレヴァンツのような真面目な指揮ぶりがあまり合わなかったかもしれません。

Adagietto - Mahler 5th - Eschenbach/Philadelphia

(こちらは細部を抉りにえぐる、エッシェンバッハのドロドロしたアダージェットです。)
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