都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「北斎DNAのゆくえ」 板橋区立美術館
板橋区立美術館(板橋区赤塚5-34-27)
「北斎DNAのゆくえ」(前期)
9/6-10/13
希代の絵師、北斎とともに、その一門を形成した多数の弟子たちの業績を辿ります。板橋区立美術館での「北斎DNAのゆくえ」へ行ってきました。
紹介されている絵師は以下の通りです。(約30名。)さて何名ご存知でしょうか。
葛飾北斎、蹄斎北馬、魚屋北溪、葛飾応為、辰女、菱川宗理、柳々居辰斎、昇亭北寿、柳川重信、抱亭五清、卍楼北鵞、二代葛飾北斎、二代葛飾戴斗、北泉戴岳、葛飾北明、葛飾北岱、大山北李、斗雷、戴雅堂一僊、雷山、葛飾北一、安田雷洲、蛟斎北岑、本間北曜、一昇、北鼎如蓮、岳亭春信、葛飾北雲、春好斎北洲
門人が全部で80人以上いたと推測される北斎のことです。実際、ずらりと並ぶ絵師の名を覚えるのも大変ですが、そこはいつも観客の目線に立つ板橋区立美術館なので余計な心配はいりません。今回『北斎DNA度』まで記した、かの名物キャプションをはじめ、北斎の絵の特徴と門人の関係を文章で記す特設コーナーなど、その全貌を明らかにする工夫がいくつかとられていました。もちろん門人の中には生没年不詳、さらには言われも不明といったような謎な人物も多く含まれていますが、北斎に影響され、模倣、時には全く異なった画業へと進展した、実に多様な『汎北斎』の世界を楽しむことが出来ます。ありそうでなかった好企画です。
既に前期展示は本日で終了していますが、北斎が15点ほど出品されていました。その中では、あの伝説的な東博の北斎展での記憶も新しい「西瓜図」をはじめ、ぎょろりと睨む鷹の目に、北斎らしい力強さと剽軽さを感じる「粟に鷹図」、さらには燃え盛る炎の上を全裸女性が逆さ吊りになっている「拷問の図」などが印象的です。ちなみにこれらの三作は全て館外のコレクションによっています。板橋というと館蔵作品の展観というイメージもありますが、今回は全体のうち約6割ほどが東博、尚蔵館、MOA、千葉市美、熊本県立美術館などの作品で占められていました。(出品リスト)その辺も見所の一つです。
メインはやはりバラエティーに富んだ門人たちの作品にあるのでしょう。北斎の娘とされる辰女の「盛夏娘朝顔を眺める図」は、キャプションに北斎DNA度100%と認定された、まさに北斎の画風をそのまま伝える作品です。また一風変わったものとしては、ろうけつ染めで着物と萩を染め抜き、そこへ手彩色を加えたという抱亭五清の「粧い美人図」がおすすめです。金色にも輝く着物の柄が、まるでダイナミックに流れる滝壷のようにうねり落ちています。足元にのぞく赤い衣装もまた小粋でした。
変わり種と言えばもう一点、安田雷洲の「赤穂義士報讐図」も見逃せません。安田は詳細こそ不明ながらも安政期に活躍した画家とのことで、既に西欧画の影響も受けていますが、上記図版画像を参照しても明らかなように、この奇怪極まりない表現を前にした時にはしばし言葉を失いました。画題は赤穂義士、ようは忠臣蔵とのことで、この作品でも吉良の首を挙げて喜ぶ浪士たちの様子が描かれていますが、その背景の暗鬱感の漂う夜空と木立はもとより、劇画風の人物、またはその陰影などは、明らかに明治以降の近代日本画を先取りしたような描写を見て取ることが出来ます。ちなみにこの作品は新約聖書の一節、「羊飼いの礼拝」の場面を置き換えて描かれたのだそうです。これは不気味でした。
30日よりの後期展示ではMOA所蔵の重文、「二美人図」の出品も予定されています。あの空いた環境で北斎の名品を楽しめる機会などそうないかもしれません。
板橋区立美術館では恒例の記念講演会も絶賛開催中です。10月には小林忠や辻惟雄の各氏といった、豪華な講師陣が北斎について講演します。私も出来れば聞きにいきたいです。
10/5(日) 14:00~15:30 「私の好きな北斎」 小林忠
10/11(土) 14:00~15:30 「私の北斎観」 辻惟雄
10月13日までの開催です。
「北斎DNAのゆくえ」(前期)
9/6-10/13
希代の絵師、北斎とともに、その一門を形成した多数の弟子たちの業績を辿ります。板橋区立美術館での「北斎DNAのゆくえ」へ行ってきました。
紹介されている絵師は以下の通りです。(約30名。)さて何名ご存知でしょうか。
葛飾北斎、蹄斎北馬、魚屋北溪、葛飾応為、辰女、菱川宗理、柳々居辰斎、昇亭北寿、柳川重信、抱亭五清、卍楼北鵞、二代葛飾北斎、二代葛飾戴斗、北泉戴岳、葛飾北明、葛飾北岱、大山北李、斗雷、戴雅堂一僊、雷山、葛飾北一、安田雷洲、蛟斎北岑、本間北曜、一昇、北鼎如蓮、岳亭春信、葛飾北雲、春好斎北洲
門人が全部で80人以上いたと推測される北斎のことです。実際、ずらりと並ぶ絵師の名を覚えるのも大変ですが、そこはいつも観客の目線に立つ板橋区立美術館なので余計な心配はいりません。今回『北斎DNA度』まで記した、かの名物キャプションをはじめ、北斎の絵の特徴と門人の関係を文章で記す特設コーナーなど、その全貌を明らかにする工夫がいくつかとられていました。もちろん門人の中には生没年不詳、さらには言われも不明といったような謎な人物も多く含まれていますが、北斎に影響され、模倣、時には全く異なった画業へと進展した、実に多様な『汎北斎』の世界を楽しむことが出来ます。ありそうでなかった好企画です。
既に前期展示は本日で終了していますが、北斎が15点ほど出品されていました。その中では、あの伝説的な東博の北斎展での記憶も新しい「西瓜図」をはじめ、ぎょろりと睨む鷹の目に、北斎らしい力強さと剽軽さを感じる「粟に鷹図」、さらには燃え盛る炎の上を全裸女性が逆さ吊りになっている「拷問の図」などが印象的です。ちなみにこれらの三作は全て館外のコレクションによっています。板橋というと館蔵作品の展観というイメージもありますが、今回は全体のうち約6割ほどが東博、尚蔵館、MOA、千葉市美、熊本県立美術館などの作品で占められていました。(出品リスト)その辺も見所の一つです。
メインはやはりバラエティーに富んだ門人たちの作品にあるのでしょう。北斎の娘とされる辰女の「盛夏娘朝顔を眺める図」は、キャプションに北斎DNA度100%と認定された、まさに北斎の画風をそのまま伝える作品です。また一風変わったものとしては、ろうけつ染めで着物と萩を染め抜き、そこへ手彩色を加えたという抱亭五清の「粧い美人図」がおすすめです。金色にも輝く着物の柄が、まるでダイナミックに流れる滝壷のようにうねり落ちています。足元にのぞく赤い衣装もまた小粋でした。
変わり種と言えばもう一点、安田雷洲の「赤穂義士報讐図」も見逃せません。安田は詳細こそ不明ながらも安政期に活躍した画家とのことで、既に西欧画の影響も受けていますが、上記図版画像を参照しても明らかなように、この奇怪極まりない表現を前にした時にはしばし言葉を失いました。画題は赤穂義士、ようは忠臣蔵とのことで、この作品でも吉良の首を挙げて喜ぶ浪士たちの様子が描かれていますが、その背景の暗鬱感の漂う夜空と木立はもとより、劇画風の人物、またはその陰影などは、明らかに明治以降の近代日本画を先取りしたような描写を見て取ることが出来ます。ちなみにこの作品は新約聖書の一節、「羊飼いの礼拝」の場面を置き換えて描かれたのだそうです。これは不気味でした。
30日よりの後期展示ではMOA所蔵の重文、「二美人図」の出品も予定されています。あの空いた環境で北斎の名品を楽しめる機会などそうないかもしれません。
板橋区立美術館では恒例の記念講演会も絶賛開催中です。10月には小林忠や辻惟雄の各氏といった、豪華な講師陣が北斎について講演します。私も出来れば聞きにいきたいです。
10/5(日) 14:00~15:30 「私の好きな北斎」 小林忠
10/11(土) 14:00~15:30 「私の北斎観」 辻惟雄
10月13日までの開催です。
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