「三瀬夏之介 - 冬の夏 - 」 佐藤美術館

佐藤美術館新宿区大京町31-10
「三瀬夏之介 - 冬の夏 - 」
1/15-2/22(会期終了)



結局、会期中には感想をまとめきれませんでしたが、今、改めて展示に接して思ったことを『記録』として残しておきます。三瀬夏之介の個展へは計三回ほど行ってきました。

[一回目(会期一週目)]

パネル34枚の「奇景」からしてともかく戸惑いを覚える。景色が描かれているにも関わらず、一瞥しただけでは何も開けてこない。奇岩奇石が視界を遮り、巨大魔人が唐突に出現して暴れていると思うと、一転しての余白に満ちた場が広がっていた。まさにカオス。こうした作品はその細部へ入りこむことで、また見る側の地を確保出来るものだが、そもそも天地無用の空間の何処に入れるのかすら分からない。作品に距離を置かれているどころか、一般的な鑑賞行為を拒否されているような気がした。一方、再現アトリエなどの4階インスタレーションは、夏之介の『分からない』画中空間がそのまま立体絵巻となって展開されている。どこを歩くのか、どれが見るべき作品なのか、それすら迷う混沌とした展示室だった。立体はコーネルの小箱のよう。出来ることならドールハウスのような小屋の中へ逃げ込みたい。



[二回目(作家アーティストトーク開催日)]

「三瀬夏之介 アーティストトーク」(拙ブログ)

作家の話を伺うことで、一回目に感じた戸惑いは一度ながらも解消されていく。それにしてもご本人が意外にも気さくな方で驚愕。優しい笑顔のどこにあのような超ど級のスケールを生み出す力があるのだろうか。紙を絨毯のように敷き、筆をとりつつ、半ば乱雑に事物を入れる様は、作品を自由に操る『主』としての貫禄すら漂っていた。魔人は三瀬の化身かもしれない。



[三回目(会期最終日)]

見納めにということで最終日に三たび信濃町へと向かう。スケールをあえて破綻させた「奇景」に登場する魔人の横顔がやはり本人に似ているように思えてならない。4階のアトリエは前々回とは打って変わって、混沌と言うよりも何らかの責苦を受ける不気味な部屋のように思えた。中央の椅子はまるで拷問台。オルガンの調べはヘルマン・ニッチの世界を呼び込んで来る。樹脂や絵具の激しく散る抽象絵画はあたかも血の付いた壁のようだった。睨みつけるカラスのオブジェは、ここで果てた人間を死体を狙っているのかもしれない。標本は古び、禁断の遺跡の中へ足を踏み入れてしまったような感覚さえ覚えた。見る者を撥ね付ける、作ると言うよりも滅びの美学を思わせる『廃墟』は、美術館の湿った空気までを支配していた。

今更になってこうした印象を書いたのにはもちろん理由があります。それは言うまでもなく、明日から三瀬が最高賞を受賞したVOCA展が始まるからです。三瀬の言葉を借りれば『絵描き』本人のプライベートな空間を覗き込んだような佐藤美術館とは異なり、壁面に絵画作品の並ぶいかにも『展示然』としたVOCAでは、また受容の形が全然異なってくるのではないでしょうか。その違いにも注視しながら、早速、会期初日に行ってくるつもりです。

なお本展覧会中に行われた三瀬本人と佐藤美術館学芸部長、立島惠氏の対談の様子が、以下のサイトに掲載されています。そちらも合わせてご覧ください。

「Round About 第61回 三瀬夏之介」(アートアクセス)
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