「VOCA展 2009」 上野の森美術館

上野の森美術館台東区上野公園1-2
「現代美術の展望 VOCA展 2009 - 新しい平面の作家たち - 」
3/15-30



受賞トークの記事(三瀬/樫木・高木)に続いての感想編です。上野の森美術館で開催中のVOCA展へ行ってきました。

まずは本年度の受賞作家、及びその作品のタイトルです。公式HPより転記します。

VOCA賞   三瀬夏之介「J」
VOCA奨励賞 樫木知子「屋上公園」/「ふくろのウサギ」
VOCA奨励賞 竹村京「dancing N.N. at her room and at the same time in a library in Berlin」
佳作賞    今津景 「COSMOPOLITAN」
佳作賞    櫻井りえこ「あやとり」/「金魚のおはか」
大原美術館賞 淺井裕介「人」/「今日は今日」/「植物」
府中市美賞  高木こずえ「ground」

それでは早速、以下に私の印象深かった作品を挙げます。

田尾創樹「信頼と実績のおかめぷろ ご依頼お問い合わせは」
滑稽なタイトルを除くと、意外にも色に鮮やかな真っ当な絵画世界が展開されている。まるでアニメのワンシーンかおもちゃ箱をひっくり返したようなモチーフが楽しい。凹凸のある画肌が目に飛び込んできたが、これは支持体に段ボールなどを使っているからだそう。マスキングテープまでが彩色されて絵の素材になっていたのには驚かされた。

小西紀行「無題 」/世界であり、そして彼の旗でもある」
お馴染みのポートレートと謎めいた抽象画の組み合わせ。単体で見るとやや弱いかもしれない。



高木こずえ「ground」
馬喰町でも見た激しく炸裂する草花のモチーフ。家や人、馬が回転するようにうごめいている。個展時には炎のように見えた朱色が、今回はネオンサインのようにも見えた。

船井美佐「womb」
三面のパネルに白い顔料が瑞々しく広がる。マスキングによって色の抜かれた部分から景色が広がっていた。雲霞のように漂う紫色のタッチも美しい。



樫木知子「屋上庭園」
存在の危うさを感じさせる幽霊のような少女。遠景に広がる山や森をバックに、建物の際どい屋上の縁にてかろうじて立っている。彼女はこのまま後ろへ倒れるのか、それともそのまま浮いて空へと駆け出すのだろうか。

藤田桃子「アメツチヲムスブ」
高橋コレクションでも度肝を抜かれた藤田の大作絵画。古代の恐竜のようなおどろおどろしい大木が妖気を発しながら空間を覆う。麻紙に顔料を合わせた画肌は、まるで水で削られた大地の地表面のようだった。率直なところ、私には作品の優劣は分からないが、この作品が無印なのは納得がいかない。



三瀬夏之介「J」
むせ返るような濃密極まりない佐藤美術館の時とは異なり、その破滅的なスケール感を半ば客観的な立場で楽しめる。引いて見ることが可能だからなのか、迫り来るよりも奥へと抜ける見通しの良さを感じた。林立する大仏山、そして爆発的に広がる雲のような奇岩がゆき手を遮り、反面での透き通った空のような青い空間に魔人が闊歩している。ちりばめられた星屑は、あたかも主人公「J」の降臨を祝う花火のようだった。



今津景「COSMOPOLITAN」
アメコミテイストのポップな絵画。蜃気楼のように歪んだ高層ビルをバックに、肩車で繋がった父と娘が歩く。一見、ビーチでも散歩しているかのような楽しい絵だが、彼らの下に広がるのは都市の残骸、その壊れた痕跡なのだろうか。車が無惨にもひっくり返っていた。文明を告発している。

梅津庸一「Melty Love」/「Life is Beautiful」
中世的な人間のヌード。少年のようにあどけない顔にも関わらず、お腹は妊娠したかのようにふくれている。油彩を用いながら、パステルで描いたような表情を見せているのが興味深い。ただしアラタニウラノの時ほどの衝撃はなかった。

福永大介「モーニングスマイル」
起立する電柱に横たわるサーフボード、そして廃タイヤが一つだけ転がっている。トマソンのような虚無感を漂わせながらも、シュールな感覚は与えない不思議な作品。後ろ髪を引かれる。この作家の描く他の作品が気になった。

渡邊慶子「薫風」
大作の多いVOCAではややインパクトに欠けるかもしれないが、作品自体はまるで宝石の輝きを見るように美しい。バラの花のようなモチーフが、岩絵具の質感も借りてキラキラと煌めいている。

麻生知子「家」/「犬の家」/「郵便箱」
家族の団らんする一軒家の断面図が描かれている。断面とは言え、横からはもちろん、時に視点が上や斜めから差し込まれているのが面白い。庭の砂のざらっとした感触、または畳のフラットな質感などの描き分けも見事だった。



淺井裕介「人」/「今日は今日」/「植物」
増殖に反復、そして変容するモチーフ。細かなペンが次々と未知の世界を切り開く。出来ることなら美術館全体を覆って欲しい。しかしながら本作だけではそのスケールは到底楽しめない。こうした面で制約の多いこの手の展示の限界を感じてしまう。

以上です。展示環境は至極平凡、また前述の通り出品上の制約もあるせいか、VOCA展は個々の作家の魅力を汲み取れるまでに至らないことも少なくありませんが、一種の現代アートの『名品展』として捉えれば楽しめるのではないでしょうか。ここで見知った作家を、後に開催される画廊の個展などでより深く引かれたことは一度や二度ではありません。

毎年同じことを書いている気もしますが、この展覧会を見ると春が来たという気持ちにさせられます。

今月末、30日までの開催です。
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