「第28回 損保ジャパン美術財団 選抜奨励展」 損保ジャパン東郷青児美術館

損保ジャパン東郷青児美術館新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階)
「第28回 損保ジャパン美術財団 選抜奨励展」
3/7-29(会期終了)



損保ジャパンの奨励展へ行くのは今年が三回目です。会期最終日に駆け込んできました。

本年の受賞作は以下の通りです。*公式HP上には作品図版も掲載されています。

損保ジャパン美術賞 弓手研平「梅雨色田植図(憲法前文三部作その二)」(2008-2009)
秀作賞 細川憲一「Trace 紋章」(2005)/ 山本雄三「祈り―温もりに包まれて」(2008)/大矢加奈子「line-girls」(2008)

では早速、印象に残った作品を挙げます。

岩田壮平「花泥棒」(2008)
日経展でも異彩を放っていた岩田の日本画です。ニット帽をかぶり、自転車にまたがった男性が、大きな赤い花束をかかえて猛ダッシュしています。上から見下ろすような構図感をはじめ、花の瑞々しい赤はもちろん、背景の金地、もしくは自転車のフレームの銀のメタリックな輝きまでを塗り分けた質感に魅力を感じました。

砂川啓介「silent space」(2008)
男性用のトイレを描いたのでしょうか。古びた小便器が三つ、まるでトマソンのように並んで表されています。汚れた便器やタイルのしみなどの緻密な表現はもちろん、全体にレンズを覗き込んでみたような歪みがある点に惹かれました。

三好正人「ミナソコニテーサトゥルヌスタン2」(2008)
摩訶不思議な怪物が横たわります。モチーフの全景は開けませんが、油彩を細密画を構成するかの如く散らして緻密に描く部分に好感を持ちました。

岩坪賢「周波数」(2008)
薄いグレーに覆われた二枚のパネルの上に、微妙な距離感を持って座る少女が描かれています。胡粉や麻紙を重ねた画肌からは仄かな銀色の光が放たれていました。二人の間の関係には何があったのでしょうか。何らかの物語を思い起こさせるような作品でした。

ましもゆき「前夜祝」(2008)
紙に細かなペンにて植物のモチーフを広げます。雲の靡くように描かれたそれらからは、ヒヤシンスのような根が束になってゆらゆらと垂れ下がっていました。緻密な描写力に多様なイメージも膨らみます。

田村正樹「SOUP-02」(2008)
うっすらとクリーム色を帯びた絵具の渦が飛沫を上げて激しく、また時にはゆっくりと回転するかのようにして空間を埋めていきます。塗り込められた顔料、そして合わせ貼られた和紙は表面に何層にも開ける景色を生み出していました。大波はうねり、大きな音を立てながら全てを飲み尽くしていたようです。絵具の表層の奥にある『何か』が、見る者に自由な心象風景を呼び込んでいました。

以上です。不思議にも毎年、私と近い世代の方の作品が心に残る割合が高い気がします。



なお最後の田村正樹に関しては現在、銀座一丁目のK's Gallery個展を開催中です。昨日、私も縁あって拝見してきましたが、清潔感のある白を基調とした小品の他、黒を帯びた暗鬱なワイン色がパネルの中で力強くうごめいて『万物』を生成する大作など、硬軟取り合わせた日本画の数々は見応えがありました。(31日の19時まで開催。)

選抜奨励展は昨日で終了しています。
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