都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち」 森アーツセンターギャラリー
森アーツセンターギャラリー(港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階)
「ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち」
4/17-6/20
森アーツセンターギャラリーで開催中の「ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち」のプレスプレビューに参加してきました。
定評のあるボストン美術館のコレクションにて、16世紀以降のヨーロッパ絵画を一挙に辿ることの出来る展覧会です。ボストンというと19世紀フランス絵画の印象が強いかもしれませんが、実際にはそれ以前、例えば17世紀の宗教画なども多く紹介されていました。(その反面、20世紀絵画は殆ど登場しません。)
(展示風景/第2章「宗教画の運命」)
いわゆる年代別でなく、テーマ別になっているのも展示の特徴の一つです。構成は以下の通りでした。
第一章 多彩なる肖像画
第二章 宗教画の運命
第三章 オランダの室内
第四章 描かれた日常生活
第五章 風景画の系譜
第六章 モネの冒険
第七章 印象派の風景画
第八章 静物と近代絵画
詳細は公式WEBサイトをご参照いただくとして、ここでは私の思う展示のポイントを5つほど挙げてみます。ご参考いただければ幸いです。
1.肖像の魅力~レンブラントとヴァン・ダイク~
冒頭にいきなり展覧会の一つのハイライトが待ち構えているとしても過言ではありません。
右二点、レンブラント「ヨハネス・エリソン師」(1634年)/「妻マリア・ボッケノール」(1634年)
レンブラントとしては3つしか存在しない2点1対の全身肖像画の一つ、「ヨハネス・エリソン師」(1634年)と「妻マリア・ボッケノール」(1634年)が登場します。イギリス教会の聖職者をつとめたエリソン師の見据える眼差しは静謐ながらも力強く、また一転してその妻であるボッケノールを描いた作品には、どこか温かく優し気な雰囲気が感じられました。
右、ヴァン・ダイク「チャールズ1世の娘、メアリー王女」(1637年頃)
またヴァン・ダイクの2点も佳作です。特にメアリー王女の纏う淡い水色のドレスの質感は見事でした。
2.宗教画~エル・グレコとフランチェスコ・デル・カイロ~
ヴェネツィア派とスペイン派の宗教画群も大きなウエートを占めています。
右、エル・グレコ「祈る聖ドミニクス」(1605年頃)
お馴染みのグレコの1点、「祈る聖ドミニクス」(1605年頃)のドラマテックな表現はやはり必見です。ちなみに本作は1896年、かのドガが購入したものだそうです。
左、フランチェスコ・デル・カイロ「洗礼者聖ヨハネの首を持つヘロデヤ」(1625-30年頃)
また劇的と言えばもう一つ、フランチェスコ・デル・カイロの「洗礼者聖ヨハネの首を持つヘロデヤ」(1625-30年頃)も是非挙げておかなくてはなりません。彼はカラヴァッジョの影響を受けた画家でもあるそうですが、ヨハネの舌を針でつき、恍惚した表情で天を仰ぐヘロデヤの艶かしさには釘付けとなりました。
スルバラン「聖ペトルス・トマス」(1632年頃)/「コンスタンティノープルの聖キュリロス」(1632年頃)
白い衣を身につけた聖人を描くスルバランの2点、「聖ペトルス・トマス」(1632年頃)と「コンスタンティノープルの聖キュリロス」(1632年頃)も異彩を放っています。まるで彫像を写したような表現が独特でした。
3.マネとドガ
右、マネ「音楽の授業」(1870年)
現在、三菱一号館美術館で展示開催中のマネと、今秋に横浜美術館で回顧展が予定されているドガも、計6点(各2、4点)ほど紹介されています。親しい友人をモデルとしたマネの「音楽の授業」(1870年)は、レッスンの和やかな光景というよりも、その両者が前面に出てくるような強い存在感が印象に残りました。
左、マネ「ヴィクトリーヌ・ムーラン」(1862年頃)
またモデルの強さという点においては、同じくマネの「ヴィクトリーヌ・ムーラン」(1862年頃)も忘れられません。暗がりの背景から浮き上がるマネのお気に入りのモデルのムーランは、やや冷たい表情をしていることもあるのか、どこか取っ付きにくく、また何とも言えない迫力が感じられました。その視線からなかなか逃れられません。
4.モネの部屋
(展示風景/第4章「モネの冒険」)
おそらくこの展覧会で一番人気が出るのが、モネの作品ばかりが並んだ第4章の「モネの冒険」です。ここでは半円形の展示室にモネの作品が10点ほど勢揃いしていました。
左、モネ「ジヴェルニー近郊のセーヌ川の朝」(1897年)、右「睡蓮の池」(1900年)
エメラルドグリーンに包まれた海を描く「ヴァランジュヴィルの崖の漁師小屋」(1882年)の一方、赤と緑を大胆に散らした「睡蓮の池」(1900年)における一種の異様さもまたモネの魅力の一つかもしれません。赤が乱れるように舞っていました。
5.シスレーとピサロ、そしてゴッホ
中央にゴッホを据え、左にシスレー、また右にピサロを並べた第7章の「印象派の風景画」のセクションもまた人気を集めるのではないでしょうか。
左、シスレー「サン=マメスの曇りの日」(1880年頃)
私自身、印象派の中で一番好きなシスレーが3点並んでいるだけでも感涙ものです。シスレーほど空を美しく描いた画家を知りませんが、中でも「サン=マメスの曇りの日」(1880年頃)のグレーを帯びた青色の空には強く魅せられました。
右、ピサロ「エラニー=シュル=エプト、雪に映える朝日」(1895年)
一方のピサロ(4点)では、寒村の雪道を描いた「エラニー=シュル=エプト、雪に映える朝日」(1895年)が秀逸です。モネも雪景色を実に巧みに描きますが、このピサロも負けることなく、朝日に溶ける雪を軽妙なタッチで表しています。
右、ゴッホの「オーヴェルの家々」(1890年)
そして全作品中でとりわけ鮮烈な印象を与えるのがゴッホの「オーヴェルの家々」(1890年)に他なりません。強く押しこめられるように塗られたタッチはもとより、光が輝くばかりの色彩感には圧倒されるものがありました。ゴッホがむしろ華やいでいます。
(展示風景/第5章「風景画の系譜」)
その他にもベラスケスやムリーリョ、またカナレットにコローと見どころを挙げればきりがありません。いわゆる誰もが知る名作一点へ集中するのではなく、アベレージの高い作品全体で楽しむ展示ではないでしょうか。また出品は全部で80点ほどですが、惹かれたものが思いの外に多く、見るのにかなり時間がかかりました。既知の画家でも良作に出会うと改めて惚れ直してしまいます。時間に余裕を持っての鑑賞がおすすめです。
図録は内容は同一ですが、表紙にゴッホ、ミレー、モネと3パターンありました。何でもゴッホが一番人気だそうです。ちなみに公式WEBサイトにリストがありません。出来れば対応していただきたいものです。
夜の遅い六本木ヒルズが会場です。連日無休、夜の8時まで開館しています。
6月20日までの開催です。なお東京展終了後、京都市美術館(7/6~8/29)へと巡回します。
注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
「ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち」
4/17-6/20
森アーツセンターギャラリーで開催中の「ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち」のプレスプレビューに参加してきました。
定評のあるボストン美術館のコレクションにて、16世紀以降のヨーロッパ絵画を一挙に辿ることの出来る展覧会です。ボストンというと19世紀フランス絵画の印象が強いかもしれませんが、実際にはそれ以前、例えば17世紀の宗教画なども多く紹介されていました。(その反面、20世紀絵画は殆ど登場しません。)
(展示風景/第2章「宗教画の運命」)
いわゆる年代別でなく、テーマ別になっているのも展示の特徴の一つです。構成は以下の通りでした。
第一章 多彩なる肖像画
第二章 宗教画の運命
第三章 オランダの室内
第四章 描かれた日常生活
第五章 風景画の系譜
第六章 モネの冒険
第七章 印象派の風景画
第八章 静物と近代絵画
詳細は公式WEBサイトをご参照いただくとして、ここでは私の思う展示のポイントを5つほど挙げてみます。ご参考いただければ幸いです。
1.肖像の魅力~レンブラントとヴァン・ダイク~
冒頭にいきなり展覧会の一つのハイライトが待ち構えているとしても過言ではありません。
右二点、レンブラント「ヨハネス・エリソン師」(1634年)/「妻マリア・ボッケノール」(1634年)
レンブラントとしては3つしか存在しない2点1対の全身肖像画の一つ、「ヨハネス・エリソン師」(1634年)と「妻マリア・ボッケノール」(1634年)が登場します。イギリス教会の聖職者をつとめたエリソン師の見据える眼差しは静謐ながらも力強く、また一転してその妻であるボッケノールを描いた作品には、どこか温かく優し気な雰囲気が感じられました。
右、ヴァン・ダイク「チャールズ1世の娘、メアリー王女」(1637年頃)
またヴァン・ダイクの2点も佳作です。特にメアリー王女の纏う淡い水色のドレスの質感は見事でした。
2.宗教画~エル・グレコとフランチェスコ・デル・カイロ~
ヴェネツィア派とスペイン派の宗教画群も大きなウエートを占めています。
右、エル・グレコ「祈る聖ドミニクス」(1605年頃)
お馴染みのグレコの1点、「祈る聖ドミニクス」(1605年頃)のドラマテックな表現はやはり必見です。ちなみに本作は1896年、かのドガが購入したものだそうです。
左、フランチェスコ・デル・カイロ「洗礼者聖ヨハネの首を持つヘロデヤ」(1625-30年頃)
また劇的と言えばもう一つ、フランチェスコ・デル・カイロの「洗礼者聖ヨハネの首を持つヘロデヤ」(1625-30年頃)も是非挙げておかなくてはなりません。彼はカラヴァッジョの影響を受けた画家でもあるそうですが、ヨハネの舌を針でつき、恍惚した表情で天を仰ぐヘロデヤの艶かしさには釘付けとなりました。
スルバラン「聖ペトルス・トマス」(1632年頃)/「コンスタンティノープルの聖キュリロス」(1632年頃)
白い衣を身につけた聖人を描くスルバランの2点、「聖ペトルス・トマス」(1632年頃)と「コンスタンティノープルの聖キュリロス」(1632年頃)も異彩を放っています。まるで彫像を写したような表現が独特でした。
3.マネとドガ
右、マネ「音楽の授業」(1870年)
現在、三菱一号館美術館で展示開催中のマネと、今秋に横浜美術館で回顧展が予定されているドガも、計6点(各2、4点)ほど紹介されています。親しい友人をモデルとしたマネの「音楽の授業」(1870年)は、レッスンの和やかな光景というよりも、その両者が前面に出てくるような強い存在感が印象に残りました。
左、マネ「ヴィクトリーヌ・ムーラン」(1862年頃)
またモデルの強さという点においては、同じくマネの「ヴィクトリーヌ・ムーラン」(1862年頃)も忘れられません。暗がりの背景から浮き上がるマネのお気に入りのモデルのムーランは、やや冷たい表情をしていることもあるのか、どこか取っ付きにくく、また何とも言えない迫力が感じられました。その視線からなかなか逃れられません。
4.モネの部屋
(展示風景/第4章「モネの冒険」)
おそらくこの展覧会で一番人気が出るのが、モネの作品ばかりが並んだ第4章の「モネの冒険」です。ここでは半円形の展示室にモネの作品が10点ほど勢揃いしていました。
左、モネ「ジヴェルニー近郊のセーヌ川の朝」(1897年)、右「睡蓮の池」(1900年)
エメラルドグリーンに包まれた海を描く「ヴァランジュヴィルの崖の漁師小屋」(1882年)の一方、赤と緑を大胆に散らした「睡蓮の池」(1900年)における一種の異様さもまたモネの魅力の一つかもしれません。赤が乱れるように舞っていました。
5.シスレーとピサロ、そしてゴッホ
中央にゴッホを据え、左にシスレー、また右にピサロを並べた第7章の「印象派の風景画」のセクションもまた人気を集めるのではないでしょうか。
左、シスレー「サン=マメスの曇りの日」(1880年頃)
私自身、印象派の中で一番好きなシスレーが3点並んでいるだけでも感涙ものです。シスレーほど空を美しく描いた画家を知りませんが、中でも「サン=マメスの曇りの日」(1880年頃)のグレーを帯びた青色の空には強く魅せられました。
右、ピサロ「エラニー=シュル=エプト、雪に映える朝日」(1895年)
一方のピサロ(4点)では、寒村の雪道を描いた「エラニー=シュル=エプト、雪に映える朝日」(1895年)が秀逸です。モネも雪景色を実に巧みに描きますが、このピサロも負けることなく、朝日に溶ける雪を軽妙なタッチで表しています。
右、ゴッホの「オーヴェルの家々」(1890年)
そして全作品中でとりわけ鮮烈な印象を与えるのがゴッホの「オーヴェルの家々」(1890年)に他なりません。強く押しこめられるように塗られたタッチはもとより、光が輝くばかりの色彩感には圧倒されるものがありました。ゴッホがむしろ華やいでいます。
(展示風景/第5章「風景画の系譜」)
その他にもベラスケスやムリーリョ、またカナレットにコローと見どころを挙げればきりがありません。いわゆる誰もが知る名作一点へ集中するのではなく、アベレージの高い作品全体で楽しむ展示ではないでしょうか。また出品は全部で80点ほどですが、惹かれたものが思いの外に多く、見るのにかなり時間がかかりました。既知の画家でも良作に出会うと改めて惚れ直してしまいます。時間に余裕を持っての鑑賞がおすすめです。
図録は内容は同一ですが、表紙にゴッホ、ミレー、モネと3パターンありました。何でもゴッホが一番人気だそうです。ちなみに公式WEBサイトにリストがありません。出来れば対応していただきたいものです。
夜の遅い六本木ヒルズが会場です。連日無休、夜の8時まで開館しています。
6月20日までの開催です。なお東京展終了後、京都市美術館(7/6~8/29)へと巡回します。
注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
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