「ナポリ・宮廷と美 - カポディモンテ美術館展」 国立西洋美術館

国立西洋美術館台東区上野公園7-7
「ナポリ・宮廷と美 - カポディモンテ美術館展」
6/26-9/26



国立西洋美術館で開催中の「ナポリ・宮廷と美 - カポディモンテ美術館展」へ行ってきました。

聞き慣れないカポディモンテなる美術館のコレクション展ということで、一般的な知名度こそ低いのかもしれませんが、ルネサンス、バロック美術、とりわけキリスト教絵画などが好きな方にとっては要注目の展覧会と言えるかもしれません。私自身はともかく例の首切りのユデュトを一番の目当てにして出かけましたが、全体としても想像以上に楽しめました。

展覧会の構成は以下の通りです。

1.イタリアのルネサンス・バロック美術
2.素描
3.ナポリのバロック絵画

前半にいきなりメインの「貴婦人の肖像」やグレコ、またグイド・レーニらの16~17世紀の絵画を展示した上で、約15点弱の素描を挟み、今度はユディトを含むナポリのバロック絵画を展観する流れとなっていました。

それでは私が特に印象に残った5つの作品を挙げてみます。



パルミジャニーノ「貴婦人の肖像(アンテア)」
ちらし表紙を飾る本展のハイライト。きらびやかな衣装を身につけた女性が気丈な様子にて前を見据えている。直立しているのかと思いきや、右肩が前に迫り出すようにして描かれているとのこと。左手小指の指輪やテンの毛皮などの細部まで実に丁寧に描かれていた。モデルは果たして娼婦か貴族の新婦なのかということだったが、その端正な顔に潜む挑発的な眼差しがとても意味深。そのしたたかな表情をあわせると彼女の人となりが見えてきそうだ。



アンニーバレ・カラッチ「リナルドとアルミーダ」
二人の世界に入り浸るリナルドとアルミーダが流麗なタッチで描かれている。やや赤茶けたリナルドの姿は健康そのもので、全く愛を疑うことなくアルミーダの瞳を見つめていた。もちろんアルミーダの魅惑的な表情も美しい。リナルドを助けにきたという二人の兵士も、この妖艶な空間に息をひそめて見る他ないようだ。

ジョルジョ・ヴァザーリ「キリストの復活」
お馴染みの主題。どこか軽やかに駆けるような様子でキリストが復活する。興味深いのはその下で叫びをあげる一人の男。展示で紹介されていた彫刻、アッツォリーノの「さいなまれる魂」に酷似していた。ちなみにヴァザーリというと西美常設の「ゲッセマネの祈り」を思い出すが、どちらかと言えばそちらの方が良く描けた作品かもしれない。



エル・グレコ「燃え木でロウソクを灯す少年」
一見ではグレコとはわからなかった一枚。少年が口をすぼめて炭を吹く姿が捉えられている。炎によって照らされた顔や衣服と、背景の暗闇との対比が見事。この構図に良く似たラトゥールの作品を思い出した。



グイド・レーニ「アタランテとヒッポメネス」
ともかく印象深いのは二人が三角形を作るようにして行き交う躍動感。暗がりの広大な背景からクローズアップされているのは、黄金のリンゴを投げるヒッポメネスと拾うアタランテの二人。青白い体に目を凝らすと細かな筋肉が浮き上がってきた。両者の激しい運動があたかも時間が止まったかのように静止している。二人を覆う布の靡く様もこの絵の主役だ。画面に動きを与えていた。



アルテミジア・ジェンティレスキ「ユディトとホロフェルネス」
この展覧会で一番見たかった作品。ユディトが力強くも、あたかも何かを調理するかのようにナイフを持ってホロフェルネスの首をざっくりと切り落としている。白いシーツについた血は早くもこびり付き、虚ろな表情を見せる彼の最期を伝えていた。しかしこのユディトの復讐心に燃えたような表情は忘れられない。ドラマチックで真に迫るその描写を見ていると、いつしか見ている自分も首を落とされるのではないかという恐怖感さえ覚えた。

なお出品総数は80点と西美の企画展にしてはあまり多くありません。観賞後、常設へと廻る余力がありました。ちなみに今のところ混雑とは無縁のようです。比較的落ち着いた環境でじっくりと見入ることが出来ました。

図版の鮮明さを含め、図録の出来がもう一歩なのが残念でした。また素描にもう少し多くの作品があれば展示に厚みが出たような気もします。

9月26日まで開催されています。
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