都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「江戸絵画への視線」 山種美術館
山種美術館(渋谷区広尾3-12-36)
「江戸絵画への視線 - 岩佐又兵衛『官女観菊図』重要文化財指定記念 - 」
7/17-9/5
山種美術館で開催中の「江戸絵画への視線 - 岩佐又兵衛『官女観菊図』重要文化財指定記念 - 」へ行ってきました。
同美術館の江戸絵画というと三番町の頃から足しげく通っていた私にとっては意外と馴染み深いものがありますが、それでも今回ほどまとまった数で見たのは初めてでした。実際、山種美術館でいわゆる「江戸絵画展」を開催したのは、茅場町時代以来、約20年ぶりのことだそうです。チラシ表紙の又兵衛から琳派、狩野派に文人画、そして是真まで、約50点弱の作品がずらりと勢揃いしていました。 (出品リスト)
左から順に酒井抱一「飛雪白鷺図」、「菊小禽図」、「秋草図」、「月梅図」(全て山種美術館蔵)
冒頭、宗達と光悦の技がスリリングにぶつかり合う「新古今集鹿下絵和歌巻断簡」を経由して開けてくるのは、ファンにはたまらない抱一画の共演です。そもそも計6点と並んでいるだけでも嬉しくなってしまいますが、中でも見慣れたはずの「秋草鶉図」の趣が一変しているのには驚かされました。これまではどちらかというとやまと絵風の秋草とリアルな鶉の描写との造形的な対比に興味を覚えていましたが、今回の巧み照明にかかるとまさに野山の自然の一コマを写したような情緒豊かな作品に見えてなりません。可憐な金地はいつしか月明かりと重なって美しくも控えめに輝いていました。
岩佐又兵衛「官女観菊図」(山種美術館蔵)
又兵衛の「官女観菊図」をそれこそ目と鼻の先で楽しめるのも山種美術館ならではのことではないでしょうか。ここでは又兵衛の得意とする執拗でかつ繊細な線描を、例えば単眼鏡など用意しなくとも存分に見ることが出来ます。絡み合って束なる髪はあまりにも妖艶でした。
文人画にも要注目です。指で描いたという柔らかい線、そして仄かな彩色による池大雅の「指頭山水図」の牧歌的な風景は、まさに印象派絵画を彷彿させはしないでしょうか。さらに大雅ではもう一枚、絹本ではなく絖本、つまりはサテン地に描かれた「東山図」も興味深い作品です。きらきらと光を反射する生地の感触を目で楽しむことが出来ました。
作者不詳「竹垣紅白梅椿図」(山種美術館蔵)
話題となった三井の回顧展の記憶も蘇る是真の漆画なども見所の一つではありますが、今回私が断然にオススメしたいのが作者不詳の「竹垣紅白梅椿図」です。六曲一双の金地の大空間に横へ連なる竹垣が描かれていますが、その空間を裂くような力強い様子には思わず仰け反ってしまいました。竹をクローズアップして描くかのような宗達風のトリミング、そして竹や紅白梅が火花を散らしてぶつかり合うかのような動きなど、その大胆極まりない表現には強く感心させられました。
速水御舟「名樹散椿」(山種美術館蔵)
いわゆる常設展示室となった第二室もお見逃しなきようご注意下さい。琳派にも影響されたといわれる速水御舟の「名樹散椿」が、展覧会の締めを見事に飾っていました。
左から順に鈴木其一「四季花鳥図」、酒井抱一「秋草鶉図」、伝俵屋宗達「槙楓図」(全て山種美術館蔵)
言うまでもなく、前回の浮世絵展と『江戸絵画』という括りでセットになった展覧会です。(図録も浮世絵展とあわせて一つになっています。)浮世絵を堪能しながら、その源流とも言える又兵衛をスルーしてしまうのはあまりにも勿体ないのではないでしょうか。
なお、この日に開催された同館顧問の山下先生の講演会も拝聴してきました。そちらの内容も近日中にまとめるつもりです。
展示替えはありません。9月5日まで開催されています。
注)写真の撮影と掲載については主催者の許可を得ています。
「江戸絵画への視線 - 岩佐又兵衛『官女観菊図』重要文化財指定記念 - 」
7/17-9/5
山種美術館で開催中の「江戸絵画への視線 - 岩佐又兵衛『官女観菊図』重要文化財指定記念 - 」へ行ってきました。
同美術館の江戸絵画というと三番町の頃から足しげく通っていた私にとっては意外と馴染み深いものがありますが、それでも今回ほどまとまった数で見たのは初めてでした。実際、山種美術館でいわゆる「江戸絵画展」を開催したのは、茅場町時代以来、約20年ぶりのことだそうです。チラシ表紙の又兵衛から琳派、狩野派に文人画、そして是真まで、約50点弱の作品がずらりと勢揃いしていました。 (出品リスト)
左から順に酒井抱一「飛雪白鷺図」、「菊小禽図」、「秋草図」、「月梅図」(全て山種美術館蔵)
冒頭、宗達と光悦の技がスリリングにぶつかり合う「新古今集鹿下絵和歌巻断簡」を経由して開けてくるのは、ファンにはたまらない抱一画の共演です。そもそも計6点と並んでいるだけでも嬉しくなってしまいますが、中でも見慣れたはずの「秋草鶉図」の趣が一変しているのには驚かされました。これまではどちらかというとやまと絵風の秋草とリアルな鶉の描写との造形的な対比に興味を覚えていましたが、今回の巧み照明にかかるとまさに野山の自然の一コマを写したような情緒豊かな作品に見えてなりません。可憐な金地はいつしか月明かりと重なって美しくも控えめに輝いていました。
岩佐又兵衛「官女観菊図」(山種美術館蔵)
又兵衛の「官女観菊図」をそれこそ目と鼻の先で楽しめるのも山種美術館ならではのことではないでしょうか。ここでは又兵衛の得意とする執拗でかつ繊細な線描を、例えば単眼鏡など用意しなくとも存分に見ることが出来ます。絡み合って束なる髪はあまりにも妖艶でした。
文人画にも要注目です。指で描いたという柔らかい線、そして仄かな彩色による池大雅の「指頭山水図」の牧歌的な風景は、まさに印象派絵画を彷彿させはしないでしょうか。さらに大雅ではもう一枚、絹本ではなく絖本、つまりはサテン地に描かれた「東山図」も興味深い作品です。きらきらと光を反射する生地の感触を目で楽しむことが出来ました。
作者不詳「竹垣紅白梅椿図」(山種美術館蔵)
話題となった三井の回顧展の記憶も蘇る是真の漆画なども見所の一つではありますが、今回私が断然にオススメしたいのが作者不詳の「竹垣紅白梅椿図」です。六曲一双の金地の大空間に横へ連なる竹垣が描かれていますが、その空間を裂くような力強い様子には思わず仰け反ってしまいました。竹をクローズアップして描くかのような宗達風のトリミング、そして竹や紅白梅が火花を散らしてぶつかり合うかのような動きなど、その大胆極まりない表現には強く感心させられました。
速水御舟「名樹散椿」(山種美術館蔵)
いわゆる常設展示室となった第二室もお見逃しなきようご注意下さい。琳派にも影響されたといわれる速水御舟の「名樹散椿」が、展覧会の締めを見事に飾っていました。
左から順に鈴木其一「四季花鳥図」、酒井抱一「秋草鶉図」、伝俵屋宗達「槙楓図」(全て山種美術館蔵)
言うまでもなく、前回の浮世絵展と『江戸絵画』という括りでセットになった展覧会です。(図録も浮世絵展とあわせて一つになっています。)浮世絵を堪能しながら、その源流とも言える又兵衛をスルーしてしまうのはあまりにも勿体ないのではないでしょうか。
なお、この日に開催された同館顧問の山下先生の講演会も拝聴してきました。そちらの内容も近日中にまとめるつもりです。
展示替えはありません。9月5日まで開催されています。
注)写真の撮影と掲載については主催者の許可を得ています。
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