都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「没後50年回顧展 板谷波山」 泉屋博古館分館
泉屋博古館分館
「没後50年回顧展 板谷波山」
6/14-8/24

泉屋博古館分館で開催中の「没後50年回顧展 板谷波山」を見て来ました。
昨年、没後50年を迎えた陶芸家、板谷波山。馴染み深いのは「葆光彩磁」です。うっすらと乳白色を帯びた豊かな色合い。その美しさに惹かれる方も多いかもしれません。
ずばり波山の業績を時系列で辿る回顧展です。出品は陶芸はもちろん、図案に資料ほか、映像までが並ぶ。初期作から絶作までを追いかけます。
はじまりは絵画です。「斉后破環図」と「花鳥図」。ともに東京美術学校時代の課題画です。おそらくは中国画に倣ったのでしょう。人物を象る細い線がニュアンスに富んだ陰影を描く。花鳥画は写実的です。後の陶芸の図案にも通じるものがあります。
最初期の蛙をモチーフとした「彩磁芭蕉蛙文花瓶」も可愛らしいもの。芭蕉の葉をぐるりと巻いて器に仕立てた造形も面白い。その上に蛙がちょこんとのっています。また珍しいひきがえるの木彫もありました。ちなみにこの時期の波山は東京を離れて石川に赴任。工業学校の彫刻科で教鞭をとっていたそうです。
陶芸家として独立するために上京した波山は田端に移り住みます。ここではじめて波山と称する。家から望んだ筑波山に因んだ号名。そもそも彼は茨城の下館の出身でもあります。
明治末から大正にかけては主にアール・ヌーヴォーのスタイルを取り込んだそうです。「葆光彩磁八ツ手葉花瓶」は波山の好んだ八つ手をモチーフとしたもの。葆光では最も早い時期の作品です。何でも自邸の庭の八つ手をスケッチしては器にしたとか。虫にかじられて穴のあいた葉も見られます。
面白いのは西洋との比較です。例えば「彩磁月桂樹撫子文花瓶」、中央部の月桂樹を境にして上をコバルト、下を白地にデザインした花瓶ですが、これがロイヤルコペンハーゲンの「釉下彩銀杏文花瓶」に似ている。波山が参照した可能性も指摘されています。
大正中期から昭和にかけては葆光彩磁の完成期です。鳳凰に孔雀といった正倉院御物のモチーフを取り込んでいる。また更紗や仏教工芸にも関心を寄せています。法隆寺夢殿の救世観音の光背に似た「葆光彩磁細口菊花帯模様花瓶」なども目を引きました。
それにしても会場には葆光彩磁の名品がずらりと並ぶ。高さ40センチを超える大作もあります。ちなみに出品は何も泉屋のコレクションだけではありません。出光美術館のほか、茨城県陶芸美術館や京都国立近代美術館、それにMOA美術館などからも作品がやって来ていました。
昭和以降は葆光彩磁が激減します。ここでは青磁が美しい。そして絶作の「紫陽花文茶碗」です。正面に紫陽花の咲いた小さな茶碗。何とも可憐でした。
いわゆる図案をはじめ、失敗作として打ち捨てられた陶片、ほかに彫刻刀や着用のガウンなどの資料も興味深いのではないでしょうか。また晩年の波山が自邸でペットと遊ぶ様子を捉えた映像までありました。それに孫のために描いた絵本やかるたなど、波山の人となりも伺える展示でもあります。
さて展示替えの情報です。如何せん手狭な泉屋分館のスペースです。一部の作品は会期途中で入れ替わります。全3期制です。
第1期:6/14~76
第2期:7/8~8/3
第3期:8/5~8/24
現在は最終の第3期です。なお同館受付にて有料チケットを購入の場合、2回目の観覧が半額になります。
ところで波山の展覧会と言えば、今年の初め、1月から3月にかけて出光美術館で「板谷波山の夢みたもの」と題した回顧展がありました。

「板谷波山の夢みたもの」 出光美術館(はろるど)
今回の泉屋の展覧会は出光展の巡回ではなく別物です。とは言え、上の感想でも触れたように出光展も素晴らしかった。甲乙付け難いものがあります。
おそらく波山の業績を多面的に見据えていたのは出光展、一方で構成としてオーソドックスなのは泉屋展でしょう。また出光展では出光コレクションの作品で占められていたのに対し、泉屋展は国内各地の美術館などの作品が網羅されている。とは言え、展示替えもあり、一度に多く作品を見られたのは出光展だったかもしれません。(ただし泉屋展も三期あわせると出光展と同等の出品数になります。)
二つあわせ見ることで改めて感じ入った波山の魅力。まさにメモリアルならではの展覧会と言えそうです。
[没後50年回顧展 板谷波山 今後の巡回予定]
兵庫陶芸美術館:2014年9月6日(土)~11月30日(日)
カタログが図版、論文含めて大変に充実していました。これは先だっての出光展を上回っているやもしれません。
現在、ホテルオークラで開催中のアートコレクション展のチケットを提示すると相互割引として2割引になります。こちらも有用です。
「HAZAN(DVD)/紀伊國屋書店」
8月24日まで開催されています。
「没後50年回顧展 板谷波山ー光を包む美しきやきもの」 泉屋博古館分館
会期:6月14日(土)~8月24日(日)
休館:月曜日。但し7月21日は、翌日22日は休館。
時間:10:00~16:30(入館は16時まで)*8/8~8/24は開館を延長し17時閉館。
料金:一般800(640)円、学生500(400)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体。
*受付にて入館チケットを購入した場合、会期中2回目の入館料が半額。(要半券)
住所:港区六本木1-5-1
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅北改札1-2出口より直通エスカレーターにて徒歩5分。
「没後50年回顧展 板谷波山」
6/14-8/24

泉屋博古館分館で開催中の「没後50年回顧展 板谷波山」を見て来ました。
昨年、没後50年を迎えた陶芸家、板谷波山。馴染み深いのは「葆光彩磁」です。うっすらと乳白色を帯びた豊かな色合い。その美しさに惹かれる方も多いかもしれません。
ずばり波山の業績を時系列で辿る回顧展です。出品は陶芸はもちろん、図案に資料ほか、映像までが並ぶ。初期作から絶作までを追いかけます。
はじまりは絵画です。「斉后破環図」と「花鳥図」。ともに東京美術学校時代の課題画です。おそらくは中国画に倣ったのでしょう。人物を象る細い線がニュアンスに富んだ陰影を描く。花鳥画は写実的です。後の陶芸の図案にも通じるものがあります。
最初期の蛙をモチーフとした「彩磁芭蕉蛙文花瓶」も可愛らしいもの。芭蕉の葉をぐるりと巻いて器に仕立てた造形も面白い。その上に蛙がちょこんとのっています。また珍しいひきがえるの木彫もありました。ちなみにこの時期の波山は東京を離れて石川に赴任。工業学校の彫刻科で教鞭をとっていたそうです。
陶芸家として独立するために上京した波山は田端に移り住みます。ここではじめて波山と称する。家から望んだ筑波山に因んだ号名。そもそも彼は茨城の下館の出身でもあります。
明治末から大正にかけては主にアール・ヌーヴォーのスタイルを取り込んだそうです。「葆光彩磁八ツ手葉花瓶」は波山の好んだ八つ手をモチーフとしたもの。葆光では最も早い時期の作品です。何でも自邸の庭の八つ手をスケッチしては器にしたとか。虫にかじられて穴のあいた葉も見られます。
面白いのは西洋との比較です。例えば「彩磁月桂樹撫子文花瓶」、中央部の月桂樹を境にして上をコバルト、下を白地にデザインした花瓶ですが、これがロイヤルコペンハーゲンの「釉下彩銀杏文花瓶」に似ている。波山が参照した可能性も指摘されています。
大正中期から昭和にかけては葆光彩磁の完成期です。鳳凰に孔雀といった正倉院御物のモチーフを取り込んでいる。また更紗や仏教工芸にも関心を寄せています。法隆寺夢殿の救世観音の光背に似た「葆光彩磁細口菊花帯模様花瓶」なども目を引きました。
それにしても会場には葆光彩磁の名品がずらりと並ぶ。高さ40センチを超える大作もあります。ちなみに出品は何も泉屋のコレクションだけではありません。出光美術館のほか、茨城県陶芸美術館や京都国立近代美術館、それにMOA美術館などからも作品がやって来ていました。
昭和以降は葆光彩磁が激減します。ここでは青磁が美しい。そして絶作の「紫陽花文茶碗」です。正面に紫陽花の咲いた小さな茶碗。何とも可憐でした。
いわゆる図案をはじめ、失敗作として打ち捨てられた陶片、ほかに彫刻刀や着用のガウンなどの資料も興味深いのではないでしょうか。また晩年の波山が自邸でペットと遊ぶ様子を捉えた映像までありました。それに孫のために描いた絵本やかるたなど、波山の人となりも伺える展示でもあります。
さて展示替えの情報です。如何せん手狭な泉屋分館のスペースです。一部の作品は会期途中で入れ替わります。全3期制です。
第1期:6/14~76
第2期:7/8~8/3
第3期:8/5~8/24
現在は最終の第3期です。なお同館受付にて有料チケットを購入の場合、2回目の観覧が半額になります。
ところで波山の展覧会と言えば、今年の初め、1月から3月にかけて出光美術館で「板谷波山の夢みたもの」と題した回顧展がありました。

「板谷波山の夢みたもの」 出光美術館(はろるど)
今回の泉屋の展覧会は出光展の巡回ではなく別物です。とは言え、上の感想でも触れたように出光展も素晴らしかった。甲乙付け難いものがあります。
おそらく波山の業績を多面的に見据えていたのは出光展、一方で構成としてオーソドックスなのは泉屋展でしょう。また出光展では出光コレクションの作品で占められていたのに対し、泉屋展は国内各地の美術館などの作品が網羅されている。とは言え、展示替えもあり、一度に多く作品を見られたのは出光展だったかもしれません。(ただし泉屋展も三期あわせると出光展と同等の出品数になります。)
二つあわせ見ることで改めて感じ入った波山の魅力。まさにメモリアルならではの展覧会と言えそうです。
[没後50年回顧展 板谷波山 今後の巡回予定]
兵庫陶芸美術館:2014年9月6日(土)~11月30日(日)
カタログが図版、論文含めて大変に充実していました。これは先だっての出光展を上回っているやもしれません。
現在、ホテルオークラで開催中のアートコレクション展のチケットを提示すると相互割引として2割引になります。こちらも有用です。

8月24日まで開催されています。
「没後50年回顧展 板谷波山ー光を包む美しきやきもの」 泉屋博古館分館
会期:6月14日(土)~8月24日(日)
休館:月曜日。但し7月21日は、翌日22日は休館。
時間:10:00~16:30(入館は16時まで)*8/8~8/24は開館を延長し17時閉館。
料金:一般800(640)円、学生500(400)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体。
*受付にて入館チケットを購入した場合、会期中2回目の入館料が半額。(要半券)
住所:港区六本木1-5-1
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅北改札1-2出口より直通エスカレーターにて徒歩5分。
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