村山斉著『宇宙は本当にひとつなのか 最新宇宙論入門』ブルーバックスB-1731、2011年7月講談社発行、を読んだ。
宇宙の中で、原子でできている目に見える物質は5 %にも満たず、残りの約23 %は正体不明の暗黒物質ダークマターと約73 %の暗黒エネルギーが占めている。宇宙の約97 %は正体不明だったのだ。しかし、ごく最近、暗黒物質の研究から、私たちには見えない4次元膜があるとの多次元宇宙の理論が提案されてきた。また、暗黒エネルギーの存在を説明するため、量子力学のひも理論を用い、無数の宇宙が存在しているという多元宇宙というものも提案されている。
宇宙の初歩的な事実から、SFチックな最新の理論まで、コンパクトにまとめた最新宇宙論入門。
私の評価としては、★★★★★(五つ星:是非読みたい)(最大は五つ星)
「この本、本当に面白い!」と言うと、奥様が題名を見て眉をひそめた。ウーン、確かに面白いと思うのは理工系オタクに限るかも。しかし、専門的な内容だが、興味さえあれば大変読みやすく、コンパクトにまとまった驚きのSF的本なのだ。そして、まだまだ仮説の部分も多いのだが、もちろん科学的理論、実験に基づく本だ。したがって、あくまで五つ星としたい。
村山斉(むらやま・ひとし)
1964年東京生まれ。東京大学国際高等研究所数物連携宇宙研究機構(IPMU)の 初代機構長、特任教授。米国カリフォルニア大学バークレー校物理教室教授。
1991年、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。カリフォルニア大学バークレー校物理学科MacAdams冠教授、米国プリンストン高等研究所メンバーを経て、2007年10月より現職。専門は素粒子物理学。素粒子理論における若きリーダーであり、執筆活動などにより、宇宙研究の広報にも努めている。
以下、私のメモ
「暗黒物質ダークマター」
目で見えなくて正体不明だが重力を持つように観測されるものを暗黒物質と呼ぶ。
銀河は遠くに行っても星やガスの速度は遅くなっていない。このためには、見えない物質(暗黒物質)が銀河の端に行くほど増加していなければならないことになる。
また、遠くの銀河団の光が巨大な重力によって曲げられている。これから暗黒物質が存在しなくては行けないことがわかる。
そもそも、この暗黒物質がなければ、地球も、太陽も、星も、銀河も生まれなかった計算になる。
この暗黒物質は何物とも干渉しないので、今この瞬間にも私達の周辺、体をすり抜けている。
暗黒物質(ほとんど反応しない重い素粒子、コールドWIMP)の有力候補がアクシオン、と超対称性粒子のニュートラリーノであると理論的に予言、期待されている。
「多次元宇宙」
『ワープする宇宙』を書いたアメリカのリサ・ランドールの説は、我々の認識できる4次元の膜(ウィークブレーン)と、もう一つの4次元の膜(重力ブレーン)が並行に並んでいて、その間にワープ出来る空間があるというものだ。暗黒物質は私達が見えない次元を走っていてエネルギーも高いが、私達からは止まっているように見えるというものだ。
http://pub.ne.jp/hiyamizu/?daily_id=20071123
重力は他の力に比べてあまりにも小さすぎる。例えば電磁力とは36桁も異なる。ただし重力は引力しかないので互いに打ち消し合わず、加わるだけだ。そこで、重力は異次元にもにじみ出るので弱く見えるという考えが出てきた。
「暗黒エネルギー」
宇宙の体積が大きくなっても、膨張速度は速くなっている。宇宙が広がるたびに増え続けるエネルギーが必要で、そのため考えられたのが暗黒エネルギーだ。
有力な仮説は、真空も粒子は反粒子が出来ては消えてを繰り返してエネルギーを持っているという説だ。この説により真空エネルギーを計算すると120桁も大きな値になり宇宙は引き裂かれてしまうことになる。そこで、素粒子を点ではなく、小さなひもだという超ひも理論が登場し、宇宙は1次元の時間、目にできる3次元、小さな異次元が6次元(カラビ・ヤウ多様体)の10次元ということになる。超ひも理論は重力を含む力の統一が出来る可能性がある。超ひも理論は特異点を持つブラックホールが熱を持つという問題に解を与えた。
アインシュタインの重力理論はまちがっていて、宇宙は加速膨張しないとする人たちがいる。彼らは超ひも理論の一つにより泡宇宙となるとの提案をしている。
「多元宇宙」
暗黒エネルギーを説明するためには、相対性理論と量子力学を1つにした新しい理論が必要だ。その最有力候補の超ひも理論のよれば、まだ未完成なのだが、膨大な宇宙が存在するという結果が出てしまう。これが宇宙は10の500乗個も作られたという「多元宇宙」という考え方だ。
「人間原理」
この宇宙の物理法則を見なおしてみると、人間が出現するための条件がありえないほど見事にそろうようにできている。うまくできすぎている理由を、神のような超越的な存在が宇宙を創ったためだという考え方もある。最近では、超ひも理論のよる「宇宙は10の500乗個も作られた」という多元宇宙の考えから、膨大な宇宙の中からたまたま条件の合った宇宙があって、そこに人間が現れたのだという解釈が出てきた。
その他の知識
地球が太陽の周りを回る速さは、秒速 30 km。
星の成分は光を分析することで解る。温度が高い場所ではどんな物質でもガスになる。光がガスの中を通るとガスにより決まる波長が吸収される。このスペクトラムの欠けで元素がわかる。
宇宙の年齢は137億年。宇宙が膨張して38万歳のときに電子と原子核がくっついて光が真っ直ぐ進めるようになる(宇宙の晴れ上がり)。このときの光が宇宙背景放射。
ちなみに地球の年齢は約46億歳。
宇宙の広さ
2006年8月に冥王星は惑星から準惑星に格下げになった。光で4時間。
太陽系の中で恒星は太陽だけ。次に近い恒星はケンタウルス座プロキシマ星で4.2光年。
我々の天の川銀河には約2000億個の星がある。太陽系は中心から28千光年離れた端に近い場所にあり、まだ若く星や惑星が生まれている。
太陽系は銀河の中心に比べ秒速220kmで動いている。
銀河団より広い6.6億光年でみると、銀河は一つの点になり、線のようにつながったフィラメント構造と空洞になったボイド(泡)になる。これを宇宙の大規模構造という。
60億光年くらいの範囲で見ると、宇宙はだいたい均質で同じような性質をもっている。これを宇宙原理という。
300億光年先の銀河まではみえている。350億光年より先は星も銀河もなく暗黒時代と言われている。
スイス・ジュネーブ郊外の地下一周27kmの世界最大の加速器「大型ハドロン衝突型加速器(LHC:Large Hadron Collider)」でビッグバンを再現する実験を行なっている。
LHCでは、ブラックホールをつくる計画があり、できれば4次元以外の次元、つまり、異次元があるという証拠になる。そうすれば、異次元の中を運動する物質の暗黒物質の正体もわかるかもしれない。
目次
第一章 私たちの知っている宇宙
太陽系は宇宙の一部/太陽系をのぞいてみると/意外に早い公転速度/星は何からできているのか/ニュートリノの贈りもの/ニュートリノ観測の苦労/星の内部を調べる/天の川の銀河を詳しくのぞいてみよう/銀河系にもブラックホールが/奇妙な銀河の回転/目に見えない物質/銀河の中は暗黒物質で満ちている?!/銀河が回転しているのはどうやってわかるのか/何も見えていないのに等しい
第2章 宇宙は暗黒物質に満ちている
銀河団も暗黒物質に満ちている/重力レンズについて/活躍するすばる望遠鏡/銀河団同士の衝突現場
第3章 宇宙の大規模構造
宇宙の中の濃淡/ビッグバンの残り火/宇宙は膨張している/宇宙の内訳/暗黒物質と宇宙の始まり/コラム 万物をつくる素粒子
第4章 暗黒物質の正体を探る
暗黒物質の候補/第一候補は弱虫くん/WIMPの正体/異次元からやってきた?!/暗黒物質の音を探る/加熱する暗黒物質探し/ビッグバンを再現する/宇宙のゲノム計画/コラム 宇宙の年齢
第5章 宇宙の運命
宇宙の運命/暗黒エネルギー/超新星から膨張速度を求める/増え続けるエネルギー/宇宙が裂ける?/暗黒エネルギーが生み出されるスピード/超ひもが予測する宇宙の終わり
第6章 多次元宇宙
宇宙は一つではない/曲がった次元を平らにする/五次元時空/目に見えない次元/異次元はすぐそばにある/力の統一に向けて/重力は微力/重力は打ち消しあわない/なぜ重力は弱いのか/異次元ににじみ出る重力はあるか
第7章 異次元の存在
異次元にしみ出す重力/ブラックホールが異次元の証/リニアコライダーの実験/ワープする宇宙/異次元空間は不確定なもの/不確定性があるから存在できる/異次元の中の暗黒物質
第8章 宇宙は本当にひとつなのか
三次元のサンドイッチ/宇宙の枝分かれ/膨張を加速するエネルギー/理論物理学最悪の予言/超ひも理論とブラックホール/六次元空間は折りたたまれている/宇宙はものすごくたくさんある?
宇宙の中で、原子でできている目に見える物質は5 %にも満たず、残りの約23 %は正体不明の暗黒物質ダークマターと約73 %の暗黒エネルギーが占めている。宇宙の約97 %は正体不明だったのだ。しかし、ごく最近、暗黒物質の研究から、私たちには見えない4次元膜があるとの多次元宇宙の理論が提案されてきた。また、暗黒エネルギーの存在を説明するため、量子力学のひも理論を用い、無数の宇宙が存在しているという多元宇宙というものも提案されている。
宇宙の初歩的な事実から、SFチックな最新の理論まで、コンパクトにまとめた最新宇宙論入門。
私の評価としては、★★★★★(五つ星:是非読みたい)(最大は五つ星)
「この本、本当に面白い!」と言うと、奥様が題名を見て眉をひそめた。ウーン、確かに面白いと思うのは理工系オタクに限るかも。しかし、専門的な内容だが、興味さえあれば大変読みやすく、コンパクトにまとまった驚きのSF的本なのだ。そして、まだまだ仮説の部分も多いのだが、もちろん科学的理論、実験に基づく本だ。したがって、あくまで五つ星としたい。
村山斉(むらやま・ひとし)
1964年東京生まれ。東京大学国際高等研究所数物連携宇宙研究機構(IPMU)の 初代機構長、特任教授。米国カリフォルニア大学バークレー校物理教室教授。
1991年、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。カリフォルニア大学バークレー校物理学科MacAdams冠教授、米国プリンストン高等研究所メンバーを経て、2007年10月より現職。専門は素粒子物理学。素粒子理論における若きリーダーであり、執筆活動などにより、宇宙研究の広報にも努めている。
以下、私のメモ
「暗黒物質ダークマター」
目で見えなくて正体不明だが重力を持つように観測されるものを暗黒物質と呼ぶ。
銀河は遠くに行っても星やガスの速度は遅くなっていない。このためには、見えない物質(暗黒物質)が銀河の端に行くほど増加していなければならないことになる。
また、遠くの銀河団の光が巨大な重力によって曲げられている。これから暗黒物質が存在しなくては行けないことがわかる。
そもそも、この暗黒物質がなければ、地球も、太陽も、星も、銀河も生まれなかった計算になる。
この暗黒物質は何物とも干渉しないので、今この瞬間にも私達の周辺、体をすり抜けている。
暗黒物質(ほとんど反応しない重い素粒子、コールドWIMP)の有力候補がアクシオン、と超対称性粒子のニュートラリーノであると理論的に予言、期待されている。
「多次元宇宙」
『ワープする宇宙』を書いたアメリカのリサ・ランドールの説は、我々の認識できる4次元の膜(ウィークブレーン)と、もう一つの4次元の膜(重力ブレーン)が並行に並んでいて、その間にワープ出来る空間があるというものだ。暗黒物質は私達が見えない次元を走っていてエネルギーも高いが、私達からは止まっているように見えるというものだ。
http://pub.ne.jp/hiyamizu/?daily_id=20071123
重力は他の力に比べてあまりにも小さすぎる。例えば電磁力とは36桁も異なる。ただし重力は引力しかないので互いに打ち消し合わず、加わるだけだ。そこで、重力は異次元にもにじみ出るので弱く見えるという考えが出てきた。
「暗黒エネルギー」
宇宙の体積が大きくなっても、膨張速度は速くなっている。宇宙が広がるたびに増え続けるエネルギーが必要で、そのため考えられたのが暗黒エネルギーだ。
有力な仮説は、真空も粒子は反粒子が出来ては消えてを繰り返してエネルギーを持っているという説だ。この説により真空エネルギーを計算すると120桁も大きな値になり宇宙は引き裂かれてしまうことになる。そこで、素粒子を点ではなく、小さなひもだという超ひも理論が登場し、宇宙は1次元の時間、目にできる3次元、小さな異次元が6次元(カラビ・ヤウ多様体)の10次元ということになる。超ひも理論は重力を含む力の統一が出来る可能性がある。超ひも理論は特異点を持つブラックホールが熱を持つという問題に解を与えた。
アインシュタインの重力理論はまちがっていて、宇宙は加速膨張しないとする人たちがいる。彼らは超ひも理論の一つにより泡宇宙となるとの提案をしている。
「多元宇宙」
暗黒エネルギーを説明するためには、相対性理論と量子力学を1つにした新しい理論が必要だ。その最有力候補の超ひも理論のよれば、まだ未完成なのだが、膨大な宇宙が存在するという結果が出てしまう。これが宇宙は10の500乗個も作られたという「多元宇宙」という考え方だ。
「人間原理」
この宇宙の物理法則を見なおしてみると、人間が出現するための条件がありえないほど見事にそろうようにできている。うまくできすぎている理由を、神のような超越的な存在が宇宙を創ったためだという考え方もある。最近では、超ひも理論のよる「宇宙は10の500乗個も作られた」という多元宇宙の考えから、膨大な宇宙の中からたまたま条件の合った宇宙があって、そこに人間が現れたのだという解釈が出てきた。
その他の知識
地球が太陽の周りを回る速さは、秒速 30 km。
星の成分は光を分析することで解る。温度が高い場所ではどんな物質でもガスになる。光がガスの中を通るとガスにより決まる波長が吸収される。このスペクトラムの欠けで元素がわかる。
宇宙の年齢は137億年。宇宙が膨張して38万歳のときに電子と原子核がくっついて光が真っ直ぐ進めるようになる(宇宙の晴れ上がり)。このときの光が宇宙背景放射。
ちなみに地球の年齢は約46億歳。
宇宙の広さ
2006年8月に冥王星は惑星から準惑星に格下げになった。光で4時間。
太陽系の中で恒星は太陽だけ。次に近い恒星はケンタウルス座プロキシマ星で4.2光年。
我々の天の川銀河には約2000億個の星がある。太陽系は中心から28千光年離れた端に近い場所にあり、まだ若く星や惑星が生まれている。
太陽系は銀河の中心に比べ秒速220kmで動いている。
銀河団より広い6.6億光年でみると、銀河は一つの点になり、線のようにつながったフィラメント構造と空洞になったボイド(泡)になる。これを宇宙の大規模構造という。
60億光年くらいの範囲で見ると、宇宙はだいたい均質で同じような性質をもっている。これを宇宙原理という。
300億光年先の銀河まではみえている。350億光年より先は星も銀河もなく暗黒時代と言われている。
スイス・ジュネーブ郊外の地下一周27kmの世界最大の加速器「大型ハドロン衝突型加速器(LHC:Large Hadron Collider)」でビッグバンを再現する実験を行なっている。
LHCでは、ブラックホールをつくる計画があり、できれば4次元以外の次元、つまり、異次元があるという証拠になる。そうすれば、異次元の中を運動する物質の暗黒物質の正体もわかるかもしれない。
目次
第一章 私たちの知っている宇宙
太陽系は宇宙の一部/太陽系をのぞいてみると/意外に早い公転速度/星は何からできているのか/ニュートリノの贈りもの/ニュートリノ観測の苦労/星の内部を調べる/天の川の銀河を詳しくのぞいてみよう/銀河系にもブラックホールが/奇妙な銀河の回転/目に見えない物質/銀河の中は暗黒物質で満ちている?!/銀河が回転しているのはどうやってわかるのか/何も見えていないのに等しい
第2章 宇宙は暗黒物質に満ちている
銀河団も暗黒物質に満ちている/重力レンズについて/活躍するすばる望遠鏡/銀河団同士の衝突現場
第3章 宇宙の大規模構造
宇宙の中の濃淡/ビッグバンの残り火/宇宙は膨張している/宇宙の内訳/暗黒物質と宇宙の始まり/コラム 万物をつくる素粒子
第4章 暗黒物質の正体を探る
暗黒物質の候補/第一候補は弱虫くん/WIMPの正体/異次元からやってきた?!/暗黒物質の音を探る/加熱する暗黒物質探し/ビッグバンを再現する/宇宙のゲノム計画/コラム 宇宙の年齢
第5章 宇宙の運命
宇宙の運命/暗黒エネルギー/超新星から膨張速度を求める/増え続けるエネルギー/宇宙が裂ける?/暗黒エネルギーが生み出されるスピード/超ひもが予測する宇宙の終わり
第6章 多次元宇宙
宇宙は一つではない/曲がった次元を平らにする/五次元時空/目に見えない次元/異次元はすぐそばにある/力の統一に向けて/重力は微力/重力は打ち消しあわない/なぜ重力は弱いのか/異次元ににじみ出る重力はあるか
第7章 異次元の存在
異次元にしみ出す重力/ブラックホールが異次元の証/リニアコライダーの実験/ワープする宇宙/異次元空間は不確定なもの/不確定性があるから存在できる/異次元の中の暗黒物質
第8章 宇宙は本当にひとつなのか
三次元のサンドイッチ/宇宙の枝分かれ/膨張を加速するエネルギー/理論物理学最悪の予言/超ひも理論とブラックホール/六次元空間は折りたたまれている/宇宙はものすごくたくさんある?