溝口敦著『詐欺の帝王』(文春新書961、2014年6月20日文藝春秋発行)を読んだ。
極道取材の第一人者溝口敦氏が、かつて「オレオレ詐欺の帝王」と呼ばれ詐欺世界の頂点を極めた男・本藤彰(仮名)に取材し、個人詐欺でなく、ヤミ金などのようなシステム詐欺の手口、実状を明らかにした。
本藤は30代後半、暴力臭はまったくない。3年前に特殊詐欺からいっさい手を引き、現在はカタギだ。
大学時代にはイベントサークル界の黒幕として君臨し、裏社会との繋がりを持った。大手広告代理店へ就職するが、早大のイベンサー「スーパーフリー」が起こした集団レイプ事件への関与を疑われ関連会社へ左遷。退職し、ヤミ金業を始めた。
組長が逮捕され弱体化していた山口組系のヤミ金組織・五菱会を吸収し、急激に組織を大きくしていく。
そして、本藤が乗っ取った五菱会のヤミ金がオレオレ詐欺に変わっていく。
オレオレ詐欺の草創期に荒稼ぎし、店舗数は300以上あり、従業員1300人を抱えていた。
給与月額はヒラの「店員」が40万円からで、その上の「番頭」は200~300万円、「店長」になると700~800万円、その上の「統括」は月給1000万円が基本で割り増しが付く。その上の「総括」は月給が5000万円で、その上の「社長」が月給1億5000万円~2億円、その上が3人からなる側近の「幹部」で月給2~3億円。最後に本藤の月給は最低でも2~3億円だった。
処置にこまるほど金が流れ込んできた。出所を知られたくないので銀行に預けられず、土地も株も債権も買えない。1億円というとみかん箱一つくらいだ。それが何百と積み重なって、金置き部屋を3か所借りた。
「騙されるヤツは何度でも騙される。それまでの損を取り戻したいという気持ちがよけい詐欺にはまりやすくさせる。おまけにこういう人間はカネをもっている。300万円振り込んだということは、3000万円貯金を持っているということだ。・・・」
(ギャンブルにはまったどことかの御曹司を思い出す)
彼が率いるグループの業務は、ヤミ金、オレオレ詐欺だけではなく、ワンクリック詐欺、未公開株詐欺、社債詐欺、そしてイラク・ディナール詐欺と、〝詐欺のデパート〟といっていいほど多岐だった。
溝口敦(みぞぐち あつし)
1942年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。
ノンフィクション作家、ジャーナリスト。組織犯罪問題の第一人者。
主な著書
2011年、『暴力団』
2003年、『食肉の帝王』は講談社ノンフィクション賞受賞。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
個人詐欺ではなく、ヤミ金のようにシステム化された詐欺集団の内情を暴いているので面白く、★★★★(四つ星:お勧め)にしても良いのだが、知りたかったオレオレ詐欺にはざっと触れているだけなので、★★★(三つ星)。
報道を見ていると、オレオレ詐欺の手口は、警察などの対応に応じて進化?してきている。初めて登場したときの形態や、その後の発展の様子を知りたかったが、本書ではヤミ金の現場で自然発生的に始まったとしか書いていない。