hiyamizu's blog

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『村上春樹全作品集1979~1989 5 短編集Ⅱ』を読む

2015年02月02日 | 読書2

 

村上春樹著『村上春樹全作品集1979~1989 5 短編集Ⅱ』(1991年1月21日講談社発行)を読んだ。

 

「カンガルー日和」18編、「回転木馬のデッド・ヒート」9編の2つの連作短編、「その他の断片」4編と、1編の書下ろしからなる短編集。

 

四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うこと

・・・正直言ってそれほど綺麗な女の子ではない。目立つところがあるわけでもない。・・・しかし100パーセントの女の子をタイプファイすることなんて誰にもできない。彼女の鼻がどんな格好をしていたかなんて、僕には絶対に思い出せない。・・・(その時はただすれ違っただけなのだが、)もちろん今では、その時彼女に向ってどんな風に話しかけるべきであったのか、僕にはちゃんとわかっている。・・・とにかくその科白は「昔々」で始まり、「悲しい話だと思いませんか」で終わる。

そして、昔昔と、100パーセントの女の子と100パーセントの男の子が出会い、別れ、再会し、すれ違う話が始まる。

 

 

五月の海岸線

昔の友人から送られてきた一通の手紙、結婚式への招待状が僕を古い街へと引き戻すことになる。・・・十二年前、僕は「街」に恋人を持っていた。

・・・僕らは昔よく通ったレストランの小さなテーブルをはさんで、もう一度語り合うことになるかもしれない。・・・テーブルには・・・が敷かれ、窓際には・・・置いてあるだろう。窓からは・・・に違いない。もしその店が昔通りに存在しているんなら。

 

 

レーダーホーゼン

独身でエレクトーン教師の妻の友人が語る。

大学二年生のときに両親が離婚・・・。「母が父親を捨てたのよ」とある日彼女は僕に教えてくれた。「半ズボンのことが原因でね」・・・「正確にはレーダーホーゼン。レーダーホーゼンって知ってる?」「ドイツ人がよくはいている半ズボンのことだろう? 上に吊り紐がついたやつ」と僕は言った。「そう。父親がそれをおみやげにほしがったの。・・・」

母は評判の店に行くが、本人が居なければ寸法が取れないので売れないと言われる。そっくりの体型の人に頼んで寸法取りをしたが、その30分の間に彼女は離婚を決意したという。父親とそっくりな体型の男を見ているうちに・・・。

 

 

プールサイド

35歳になった春、彼は自分が既に人生の折り返し点を曲がってしまったことを確認した。いや、これは正確な表現ではない、正確に言うなら、35歳の春にして彼は人生の折り返し点を曲がろうと決意した(傍点付)、ということになるだろう。

脱衣室の等身大の鏡の前で自分の身体を詳細にチェックして、「俺は老いているのだ。」と実感する。そして・・・。

 

 

初出は、「トレフル」(伊勢丹デパートが主催するサークル誌)1981年5月号~1983年3月号に連載された『カンガルー日和』所収、「IN・POCKET」1983年10月号~1984年12月号に連載の『回転木馬のデッド・ヒート』所収。その他の媒体4編。「沈黙」だけが書下ろし。

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

短編というより小説の素材に近いものも含まれているが、何か、村上さんの小説を作る過程が解るようで、私には面白かった。いわゆる小説を期待する人には数編しか面白いものはないだろう。後述するように、村上さん自身で、これらの作品は、何だと言われるとこまるが、小説ではなく、小説風のスケッチだと言っている。

 

村上さんは、日本では講演会、サイン会など開かず、対談も少なく、メディアにも登場しないが、小説の書き方伝授(『若い読者のための短編小説案内』)や、読者との対話(「村上さんのところ」)にも力を入れている。この作品集もこの流れのような気がする。

 

 

私は、村上さんの長編は、体力、集中力がなくなったので、あまり読んでいないが、小説より、村上さんの生き方に共感を覚える。といっても、平凡なサラリーマンの私とはあまりにも境遇が違い過ぎるのだが、理想形のひとつとして。

 

 

あとがきに当たるような「『自作を語る』補足する物語群」の中で、村上さんは、

これらは正確な意味における小説ではない。・・・その違いはあるいは些細なものであるのかもしれないが、それでもその両者のあいだの差異は僕にとってはかなり本質的な種類のものなのである。

 

のようにリアリズムの手法を試した・・・、五月の海岸線彼女の町と、彼女の緬羊は『羊をめぐる冒険』の原形となった。・・・。四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについては、僕がこの作品集の中で個人的にいちばん気に入っている作品である。僕が満員の山手線の車中である広告ポスター・・・のモデルになっていた女の子に、僕は理不尽なくらい激しく惹かれた。

 

僕自身はこの作品集の中ではレーダーホーゼンという話がいちばんよく書けているんじゃないかと思う。しかしいちばんよく話題にのぼるのはプールサイドである。いろいろな人が僕のところにきて、あの話には実感があったと言った。人生の折り返し点ということがあるいは人に何かを考えさせるのかもしれない。僕自身はそんなことを考えたことは一度もないけれど。

 

 

村上春樹は、1949年京都市生まれ、まもなく西宮市へ。
1968年早稲田大学第一文学部入学
1971年高橋陽子と学生結婚
1974年喫茶で夜はバーの「ピーター・キャット」を開店。
1979年 「風の歌を聴け」で群像新人文学賞
1982年「羊をめぐる冒険」で野間文芸新人賞
1985年「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」で谷崎潤一郎賞
1986年約3年間ヨーロッパ滞在
1991年米国のプリンストン大学客員研究員、客員講師
1993年タフツ大学
1996年「ねじまき鳥クロニクル」で読売文学賞
1999年「約束された場所で―underground 2」で桑原武夫学芸賞
2006年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、世界幻想文学大賞
2007年朝日賞、早稲田大学坪内逍遥大賞受賞
2008年プリンストン大学より名誉博士号(文学)、カリフォルニア大学バークレー校よりバークレー日本賞
2009年エルサレム賞、毎日出版文化賞を受賞。スペインゲイジュツ文学勲章受勲。

その他、『蛍・納屋を焼く・その他の短編』、『若い読者のための短編小説案内』、『めくらやなぎと眠る女』、『走ることについて語るときに僕の語ること

    

翻訳、『さよなら愛しい人』、『必要になったら電話をかけて』、『リトル・シスター』、『恋しくて

     

エッセイ他、『走ることについて語るときに僕の語ること』、『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2009』、『日出る国の工場』、『おおきなかぶ、むずかしいアボカド 村上ラヂオ2

      

 

村上さんのところ」 をご存じでしょうか? 読者からの質問メール(2週間で3万通以上)を村上さんが全部読んで、一部に答えるという企画で、以前にも何回か実施されていた。

 

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