宮下奈都著『たった、それだけ』(2014年11月16日双葉社発行)を読んだ。
第一話から第六話まで、話ごとに語り手が変わる連作短編集。
贈賄に係わって海外営業部長・望月正幸は行方をくらます。残された妻、娘、姉、そして浮気相手。
正幸はなぜ逃げたのか、残された者たちの胸の内からこぼれでた “たった、それだけ”のこと。
第一話の語り手は夏目。会社の会議室で女性達がお昼を食べていた時、蒼井さんが突然言い出す。
「人を傷つけたことのない人なんていないと思うけど」
望月部長の浮気相手だった蒼井さんが同じく浮気相手の夏目を、密告者として糾弾する。
第二話の語り手は望月の妻・可南子。32歳で、赤ん坊のルイ(涙)がいる。ある時突然、裸の大きな赤ん坊が現れる。それは可南子自身だった。
第三話の語り手は望月正幸の姉・有希子。姉から見た望月は、心の優しい、優しすぎる子供だった。
第四話の語り手は小学3年になった望月ルイの担任の須藤先生。前任校から逃げてきたのだ。ルイを巡りクラスは混乱し、須藤は抑えることができない。
第五話の語り手は高校生になった望月ルイ。ルイの母親は夫の正幸の姿をTVなどで見つければ、すぐにその地に引越し、それを繰り返す。父への復讐のため、しあわせにならないことを心に誓っているようだ。
第六話の語り手は働く大橋。大橋はルイの同級生で、半年前に高校を辞めて特養施設で働き始めていた。
よく面倒を見てくれる益田さんは、「大橋くんはだいじょうぶです。君は、正直だから」と言ってくれた。
双葉社のHPにある大矢博子さんの書評(ブックレビュー:小説推理2015年1月号掲載)がなかなか良い。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
いつもの宮下さんの小説のように、登場人物に深く切り込まず、さらりと流す。平易で読みやすいのだが、物足りない。傷を抱えた人を見守る静かで優しさいっぱいのまなざしは良いのだが。
「たった、それだけ」のことで、人生は狂うが、また「たった、それだけ」のことで元に戻る。つらい時は、逃げてもいいんだよ。いつかまた君の人生に、きっと戻れるんだから。宮下さんは、そうささやく。
宮下奈都(みやした・なつ)
1967年福井県生れ。 上智大学文学部哲学科卒。
2004年、「静かな雨」が文學界新人賞佳作に入選、デビュー。
2007年『スコーレNo.4』
2009年『遠くの声に耳を澄ませて』、『よろこびの歌』
2010年『太陽のパスタ、豆のスープ』、『田舎の紳士服店のモデルの妻』
2011年『 メロディ・フェア』、『 誰かが足りない』
2012年『窓の向こうのガーシュウィン』
2013年エッセイ『はじめからその話をすればよかった』
2014年本書『たった、それだけ』