葉室麟著『冬姫』(集英社文庫は-45-1、2014年11月25日発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
織田信長の二女、冬。その器量の良さ故に、父親に格別に遇され、周囲の女たちの嫉妬に翻弄される。戦国の世では、男は戦を行い、熾烈に覇権を争い、女は武器を持たずに、心の刃を研ぎすまし、苛烈な<女いくさ>を仕掛けあう。その渦中にあって、冬は父への敬慕の念と、名将の夫・蒲生氏郷へのひたむきな愛情を胸に、乱世を生き抜いてゆく。自ら運命を切り開いた女性の数奇な生涯を辿る歴史長編。
信長は、斎藤道三の娘・帰蝶(濃姫)を正室とし、妹・市を浅井長政に嫁がせ、武田信玄の娘・松姫を嫡男・信忠の室に迎えていた。さらに信長は、その才を高く買う蒲生忠三郎(氏郷・うじさと)14歳に娘・冬姫12歳を嫁がせた。
乳母は「武家の女は槍や刀ではなく心の刃を研いでいくさをせねばならないのです」と冬姫に言い聞かせていた。日野城へ夫・蒲生氏郷と共に向かう冬姫は「わたしのいくさはこれから始まるのだ」とつぶやく。
1592年、会津に改修した若松城の天守閣から領地を見下ろしながら蒲生氏郷は冬姫に語る。
「わしは、この地に亡き信長様の志を継いだ国を造りたいと思う」
「天正の国を、でございますか?」
「そうだ。わしはキリシタンゆえ、領主が自ら正しき道を歩めば、国はおのずから栄えるものであることを神の教えによって学んだ。ひとを怨まず、憎まず、互を思い遣って生きていける国をこの地に築きたいのだ」
私の評価としては、★★(二つ星:お好みで)(最大は五つ星)
織田信長の台頭と突然の死、秀吉と家康。歴史の流れの中での冬姫の運命はよく描けているのだが。
「女は武器を持たずに、心の刃を研ぎすまし、苛烈な女いくさを仕掛けあう」というほどではなく、女の嫉妬によるいさかい程度だ。
変な妖怪などが出てきて、ファンタジー的と言えば言えるが、史実の流れを薄めてしまう。
当時には珍しく側室を持たなかったという氏郷との夫婦愛が全う過ぎて面白味がない。
葉室麟(はむろ・りん)
1951年北九州市小倉生まれ。西南学院大卒業後、地方新聞記者。
2005年「乾山晩愁」で歴史文学賞受賞しデビュー
2007年「銀漢の賦」で松本清張賞
2009年「いのちなりけり」と「秋月記」、2010年「花や散るらん」、2011年「恋しぐれ」で直木賞候補
2012年「蜩ノ記」で直木賞受賞
その他、『天の光』『緋の天空』など。