佐々木幸綱監修『覚えておきたい順 万葉集の名歌』(中経の文庫さ5-1、2007年5月1日中経出版発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
日本人の常識としてぜひ覚えておきたい!
日本人の心情の原型、美意識の原点が『万葉集』にはあります。しかし、実際に読むとなるとなかなか大変です。なにしろ全二十巻、約四千五百首もあるからです。そこで、本書では、ぜひ覚えておきたい歌を百首選びました。最初の五首だけでも、ぜひ覚えてみてください。あなたの心の栄養に、きっとなることでしょう。
本書は、ぜひとも覚えておきたい万葉の歌20首(第一章)、できれば覚えておきたい30首(第二章)、なるべく覚えておきたい50首(第三章)、クイズ・問題集(第四章)と100首を選定している。
1.「東(ひんがしの) 野に炎(かぎろらい) 立つ見えて かへり見すれば 月傾(かたぶ)きぬ」 柿本人麻呂
漢字表記だと、「東 野炎 立所見而 反見為者 月西渡」
2.「春の野に霞たなびき うらがなし この夕かげに うぐひす鳴くも」 大伴家持
3.「あをによし 寧楽(なら)の京師(みやこ)は 咲く花の 薫(にお)ふがごとく 今盛りなり」 小野老(おののおゆ)
4.「田子の浦ゆ うち出でて見れば 真白にそ 不尽(ふじ)の高嶺に 雪は降りける」 山部赤人(あかひと)
5.「春過ぎて 夏来たるらし 白たえの 衣乾したり 天の香具山」 持統天皇
小倉百人一首では「春過ぎて夏来にけらし しろたえの衣ほすてふ天の香具山」
6.「銀(しろがね)も金(くがね)も玉も 何せむに 勝れる宝 子にしかめやも」 山上憶良
7.「あかねさつ紫野行き 標野(しめの)行き 野守(のもり)は見ずや 君が袖ふる」額田王
56.大海人皇子(後の天武天皇)の返歌「紫草(むらさき)のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑにわれ恋ひめやも」
8.「岩ばしる垂水(たるみ)の上の さ蕨の 萌え出づる春に なりにけるかも」志貴皇子
9.「吉野なる夏実(なつみ)の河の 川淀に 鴨そ鳴くなる 山蔭にして」 湯原王
10.「なかなかに人とあらずは 酒壺に なりてしかも 酒に染(し)みなむ」 大伴旅人
以下、私の好きな大伴家持の歌を3首
13.「うらうらに 照れる春日(はるひ)に 雲雀あがり 情(こころ)悲しも 独りしおもへば」
19.「わが屋戸(やど)のいささ群竹(むらたけ) ふく風の 音のかそけき この夕べかも」
18.「春の苑(その)紅(くれない)にほふ 桃の花 下照(したて)る道に 出で立つ乙女」
私はよほど万葉集が好きと見えて、このブログでも何回か紹介している。
佐佐木幸綱著『万葉集』(NHK「100分de名著」ブックス)、
池田弥三郎著「ビジュアル版日本の古典に親しむ3 万葉集-美しき“やまとうた”の世界」、
岡野弘彦著「万葉の歌人たち」(NHKライブラリー192)
佐佐木幸綱(ささき・ゆきつな)
1938年東京都生まれ。祖父は佐佐木信綱。俵万智の先生。
1963年早稲田大学第一文学部卒業、同大学院修士課程修了。
1966年河出書房新社入社、「文藝」編集長を経て同社を退職。
1984年より早稲田大学政治経済学部助教授、1987年より2009年まで同教授、2009年より同名誉教授。
1974年より歌誌「心の花」編集長、2011年より同主宰。
歌集に『群黎』(現代歌人協会賞)、『瀧の時間』(迢空賞)、『ムーンウォーク』(読売文学賞)など。
著書に『万葉集の〈われ〉』、『柿本人麻呂ノート』など。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
万葉集は、詠み人は民百姓からやんごとなきお方まで幅広く、当然その生活も様々な中で詠まれた当時の日本を代表する歌集だ。その対象も生活、自然に根差した歌が多い。その後の技巧に走り、空虚な歌の並ぶ古今や新古今和歌集は技を楽しむことはできるが、日本人の心のふるさとは、やはり万葉集だろう。
昔から文学の勉学には暗唱が強制されてきたが、これが意外と役に立つ。心に染みついたリズムは書く文章に影響するし、頭で考え、覚えただけでなく、暗唱し染みついた文句は、内容も含めて心に刻まれるように思う。